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反射的に転がるように身を翻したモニカ、つい先程までモニカが立っていた場所には容赦ない一撃が振り下ろされ、一瞬のうちに地面が削られた。だがそんなことでは終わらない。気神の腕はもう一本あるのだ。縦に振り下ろされた一撃は左右に回避するだけで容易に躱す事ができる。


 では、横に振り抜かれたらどうだろうか。


 それは単に上下に避ければいいという話ではない。いや、単刀直入に単純明快に言えばその通りだ。だがそんな単純に上下に避けられるか、という問題なのだ。


 息を吐く間も与えず思い切り振りかぶった一撃が回避行動をとったばかりのモニカに襲い掛かる。状態だけみれば身動きが取れない程の反動はない。しかし気神の振り抜く大剣の速度と角度がモニカの額に嫌な汗を流す。


 その大剣は地面に対して綺麗に水平、というわけではない。若干の角度を持っている。付随して迫り来る速度も問題となる。モニカからしてみれば大きなその物体は見た目では大した速さを持っているようには見えない。だがその速度は想像を絶する、一度その一撃を体に浴びればそのままくの字にひしゃげてガラクタのように地面を転がっていくだろう。


 モニカには咄嗟に判断することができなかった。その横に振り抜かれる一撃を一体どのようにして回避すればいいのか。


「ッ!!」


 思わず息を飲んだ。モニカはその場から動くことを諦めた。迫り来る一撃が一体どれほどの威力があるのか、それがわからないままとる選択としては間違いに分類される、魔法防御で耐えるという選択を選んだ。


 大剣がモニカに触れる直前、半ば投げやりに突き出されたモニカの手の先、その空間に小さな魔法陣が顕現し、やがて回転しながら肥大化していく。やがてモニカを包み込むほどの大きさにまで膨れ上がった魔法陣。その魔法陣が光を発するのと同時、空を薙ぐ一閃が炸裂した。


 シャオフェイの目には完全にモニカを仕留めたように写っただろう。だがモニカもその辺の魔法使いとは違う。彼女の魔法センスは人一倍ある。


 そこには巻き上げられた土煙の中に佇む少女の姿があった。確実に気神の大剣の軌道が捉えたその一帯、モニカのいる地点だけが完全に守られていた。


「…………まさか無傷とはね」


「一時代を築いた魔法の力を舐めて貰っちゃ困るわ」


 モニカは一瞬で作り上げた魔法障壁が大剣による衝撃で粉砕され、その際に生じた空間を引き裂くような強烈な音によって若干聴覚を失っていた。耳鳴りに近い感覚、時間が解決するのを待つ。渾身の一激を耐えられたシャオフェイは一度眉を上擦らせて動揺したものの、直ぐに表情を戻した。


「でも、躱すだけなんだね」


「……何か言った?」


「勇者は今の一撃の間に、気神の攻撃を躱しながら私に肉薄して一本とったよ」


 馬鹿にするような一言が、モニカにははっきり聞こえた。聴覚が戻ったモニカは一安心して笑みを浮かべる。


「それは勇者を指名した私を褒めているのかしら?」


「違うよ、むしろ逆。力のある勇者を権力だけで手懐けている王女様の存在を明らかにした上で卑下しているんだよ」


 跳ねるような語調でそういうシャオフェイに、モニカは握る拳に自然に力が込められていくのを感じた。


「じゃあ、そんな王女様に叩きのめされて泥を舐めるあなたの姿を軍の部下たちはどんな目で見るかしらねッ!?」


 一度、地面を蹴る。するとモニカの体は残像を残して消えてしまい、次の瞬間驚く程の間合いを詰めた空中に出現する。一瞬で五十メートル近く距離を詰めたことになる。


「へぇ」


「まだまだこれから」


 それでも大して驚く様子も見せないシャオフェイに、モニカは余裕の表情を見せつつさらに距離を詰めていく。


 魔法使いといえば、中長距離というレンジで圧倒的なアドバンテージでもって相手を制圧するような印象を持つ。しかし、モニカはその部類に属さない数少ない魔法使いだ。勿論、そういった王道的な戦い方もできる。だがその戦い方を捨て、至近距離での戦闘に出たモニカは――


「どこ見てるのかな?」


「なッ」


 ――単純に強かった。


 シャオフェイの背後に突如として現れたモニカはそっと彼女の腰に手を当てていた。


 シャオフェイには何をすることも許されなかった。鋭い衝撃が、言うなれば槍が突き刺さったような感覚、そんな衝撃がシャオフェイを貫く。続いてシャオフェイを叩き飛ばすような大きく広い衝撃が彼女を襲う。力なく吹き飛ばされるシャオフェイ、この間モニカは彼女の腰に手を触れただけである。


 次にモニカは右手を横に払う。すると飛んでいったシャオフェイの側面に魔法陣が現れ、そこから全長三十メートルはあろうかという柱のような物が飛び出しシャオフェイに突っ込む。それだけではない、直ぐにその反対側にも魔法陣が現れ、勢いよく柱が飛び出てくる。その次はシャオフェイの上部、下部、斜め右、斜め左、やがて数え切れないほどの魔法陣がシャオフェイを取り囲んでいた。


「あーあ、こんな魔法……前まで使えなかったのに。気持ちの持ちようでこうも変わるんだね、ヴァン」


 手に持った何かを押しつぶすような、そんなポーズをするモニカ。すると幾本もの柱がぶつかり合って出来た異形の塊が光りだす。その中心にはシャオフェイがいる。もはや気神は消えていた。


 ――私、この国を守るよ、ヴァン。絶対に守ってみせるからね。


 小さくそう呟いたモニカは、キッと目を見開いた。そして告げる。


「結集する魔塔、己が輝きの道標、光は悪しきを砕き、使徒の意のままに。超動せよ、光魔塔」


 モニカの言葉が響いたとき、柱を出し終えた魔法陣は再度光り輝き、そこからまた柱が顕現する。その柱は規則正しく並び、中心にシャオフェイを迎えるように円になった。するとシャオフェイを含む塊は紫炎に包まれる。溶けるように塊は崩れ落ちていき、みるみるうちに小さくなっていく。


 最初のシャオフェイへの接触、そこでモニカはシャオフェイにある魔法回路を仕込んでいた。その魔法回路がいま作用し、自己分解を始めている。その分解は彼女に突き刺さった柱をも侵食し、円を描くように乱立した魔塔に魔力となって吸収されていく。一度作用すればまず解除のできない、完全消去するまで作用し続ける恐ろしい魔法だった。


 発動の際、少しでも心にブレが生じたり余計な思考が入ってしまうと回路がうまく作用しないこの魔法だったが、モニカは既にヴァンとの単純明快な約束を果たすため、という明確な目的のために動いている。


 ――また会おう。


「さぁ、反撃の一つでもしてみたらどう?」




 



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