モニカだって女の子
「私が王宮に送還されているあいだにそんなことが……」
モニカは軍の車両によって王宮に送られたという。おそらくはヴェイロンの命令なのだろう。あの幻術環境で目の当たりにした惨劇によって気を失っていたというモニカは今こうしてここに元気でいる。王宮に着いてからはメイド達の看病によって直ぐに目を覚まし、僕のことが気になってこうしてやってきたのだという。
僕もモニカが気を失っていた間に起こった出来事を伝えて、今に至る。おそらくこのことを受けての作戦会議のようなものが始まることを想定して、アリスとシェリルには早めに休んでもらうことにした。一々詳細を二人に話していると先に進まないため、全て決まった明日に僕から説明すればいいだろう。
「モニカの前でも何度か見せている無欲の世界に今回も助けられたんだけど、それでもかなり危なかったんだ」
「私もそれなりの魔法使いだし王女としていろいろなことに目を向けているつもりだったけど、そこまで気を使いこなす少女が軍にいたなんて知らなかった」
心底心配した様子で僕を見るモニカをなんとかなだめ、ようやくまともに話ができるようになる。落ち着けば落ち着いたで自分の不甲斐なさを嘆き出すモニカだったがそれは自分も同じだった。
「幻術に惑わされて気を失って……ヴァンにすべてを任せてしまって、そしてヴェイロンにははぐらかされたまま逃げられる……ダメダメだわ」
「まぁまぁ、結果お互い生きてたんだからいいじゃないか。それに、あそこまで無理やりはぐらかしたんだぞ? これはほぼ間違いなく軍は黒だぞ」
ギルドからはうまく情報は引き出せず、ギルドと軍の問題はイマイチ詳細がつかめなかったが、軍が国内の村々に対して何らかの思惑で不当な行いをしていることは確実となった。そしてその思惑があまり公にしてはいけない類であることも。
「ヴェイロンは何か言っていなかった?」
「いや……あの狂喜に満ちた表情や言動も演技だと思うし、そうなるとあの男の言動から得られるもので信じていいのは、僕たちが来たことで困ったということ。あれほどの武力的な方法を使ってでも今回の王女の来訪を意味のないものにしたかったという事、それだけだと思う」
「じゃ、じゃあそのシャオフェイって子は!? その子は何か言っていなかった?」
「うーん、特に重要なことは言っていなかったけど――」
「……けど?」
「――可愛くて大きくて強かった」
心なしか、ピキ、という亀裂の入るような音がした。
「はぁ?」
「い、いや……重要なのは最後ね、いつもはどんな相手でも簡単に御せたあの力でもほとんど歯が立たなかったんだ。偶然僕自身に《気》の知識があったおかげで無欲の世界の僕は気を応用して戦えたから良かったけど、剣術だけでは絶対勝てなかった。それに思うところはいくつかあるんだ」
僕はなんだかイラつき始めたモニカの意識を変えられるようにどんどんと続けていく。
「まず、彼女は僕の力を知っていた。無欲の世界に落ちた僕を見て、彼女はそれが例の――みたいな感じであまり驚いていなかったんだ。それに、あのシャオフェイは別格にしても軍にはギルドとは比べ物にならない戦力が揃っている。あれならいくらギルドの勢力が大きくても、いくらでもやりようはあるような気がするんだ」
「いくら力がある者がいたってギルドに喧嘩を売るような行為をしたらどうなるかぐらい軍だってわかっているはずよ」
「そんなすぐバレることはするはずないだろ。そうじゃなくて、例えばギルドでは倒せないレベルの魔獣を倒したり、ギルド以上にスマートに事に当たることだってできるはずだってこと」
いくら商売敵のような存在でも、実力差というのは認めざるを得ないだろう。圧倒的な実力差のある相手にちょっかいを出すだろうか。逆に、ある程度キツめに当たれば簡単に脅せるレベルの戦力を持ちながら、些細な嫌がらせをギルドにするだろうか。僕はそこに若干違和感を覚えたのだ。モニカも腕を組みつつ、うんうん唸っている。
「……まぁ、それは一理あるかもしれない」
「だろ、だからやっぱりいろいろ引っかかる点はあるっていう――」
「――でも今はちょっと置いておく。それより、ヴァンさっきなんて言った?」
え、今一番大事なこと言ったのにそれ置いておくの? え、何で?
「……さっきって言うと」
「だからシャオフェイについて聞いた時よ」
シャオフェイについて……あぁ、強いの前のところか。だからそこは単なる主観での感想だったのに、そんなことはどうでもいいんだよ。些細なことでも有用な情報になるかもしれないと思って一応見た目の感想も言ったが、これならば言わなければよかった。
「あー、そうね。女の子にしては身長が高めで、細身で、でも胸は大きくて、顔は小悪魔みたいに意地悪な感じの可愛さがあったんだよ。僕のただの感想で、一応言ってみただけ」
「随分と口が回るのね、さっきとは大違い」
え、僕さっきもかなりの饒舌っぷりで今回の問題について言及したと思うんだけど何聴いてたの?
「おいモニカ、さっきから何言ってるんだよ。感想が全く役に立たなかったのなら悪かったよ、でも些細なことでも思ったことは言うべきだと思ったんだ」
「それがヴァンの感想ってことが問題……なの!!」
モニカは肩を浮かせながら激昴しかけてこらえた。感情の起伏がシャオフェイの胸のようだ。
いや、今の表現はなかったことにしよう。
「もうギルドと軍の問題は無視できない規模であるのは明白だし、軍が村にしている事も早急に対処しないといけいないことは確定事項、よってもう終わり!! 私は今別の話をしているの!!」
「……そうか、まぁ確かにこれ以上話しても明らかになることは少なそうだな」
本当はもっと僕の考えについてモニカの意見が欲しかったが、今薮をつつくのは危険すぎる。モニカの話したい話題にシフトしよう。
「分かった、それで今モニカが話したいって言うのは何だ?」
「何だって……分からないの?」
「いや、シャオフェイが可愛いとかスタイル良いとかっていう話だろ。その話題について何を物申したいのかわからないけど」
まぁ、女というのは自分より綺麗で可愛いものには憧れるのだろう。だがシャオフェイは敵だ、しかも今相対している真っ最中の相手だ。そんな相手に今わざわざ容姿の話を時間を割いて話すのか?
「私だって女の子だから、その、嫉妬とかもするんだけど……」
あぁ、やっぱりそういう話なのか。参ったな、今から薄く伸びた餅のような女の嫉妬話が始まるのか。僕もそこそこ疲れているんだけどな。
すると、モニカは急に落ち着いたかと思えば赤面して先ほどの声の大きさはどこえやら、急にしおらしくなって
「その……好きな人が自分以外に可愛いとか言っているのを聞くのは……あんまり気分良くないからさ……」
「……ん?」
「あ、ごめんね、面倒くさいこと言って。ただちょっと心配になっちゃって……一回落ち着くね」
なんだなんだ、どういう展開だこれ。嫉妬話が加熱するんじゃないの、違うの?
落ち着きを取り戻したモニカは最後深呼吸をして、その後いつものモニカに戻って明日すべきことを話しだした。僕も深くは考えないようにしてモニカの話に耳を傾けた。
しかしなんというか、深く考えておくべきだったのかもしれないと、そんな風に考えている自分もどこかにいたのだった。




