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王国軍にて


 ロストリオンの大部分を占めているだけあって、王国軍の本部はとんでもない大きさでモニカがいなければ立ち入ろうなんて思わなかっただろう。いや、そもそも僕は立ち入りたいなんて思っていないのだが。


「いやぁ、さすがにここまで大きいと物怖じしちゃうわね。敷地面積だけで言ったら王宮より広いんじゃないかしら」


 かなり高い位置まで歩いて上ってきた。王国軍の本部、その正門はロストリオンを見渡せるような場所に位置している。魔法駆動型機動殻と呼ばれる人型の機械人形が正門までの道を作るかのように道の左右に並列にずらりと並んでいる。正門前の高台には兵士が構え、三六〇度すべてを監視するような体制をとっていた。まさに要塞だ。


「この機械人形、動き出したりしないよね?」


「この機動殻は新型の魔法駆動のタイプだから地脈から動力を供給していれば無線で動き出すわよ。音速に近い挙動で右に左に揺さぶって、最後は術式回路を搭載したブレードで引き裂くなんてこともお手のものよ」


「そんな殺戮兵器を作るなんてこの国どうかしてる」


「それもこれもあなたが貧弱な勇者だからよ」


 知らない内に罵られたような気もするが、事実ではあるので反論はしない。正門まで後半分くらいの距離まできたところで、今度は軍内部のさらに高所にとんでもない代物を見つけてしまう。遠近法で大きさはよくわからないが、軽く一〇メートルくらいはありそうな列記とした兵器だ。


「ねぇ……あれって」


「あぁ、あれは最近できたやつね、多分。列車砲っていうやつよ」


 いや、それは分かっているのだ。そんなことは。要は僕が言いたいのは何でこんなところに国一つ吹き飛ばしてしまうような兵器が用意されているのかということだ。


「確かあれも魔法駆動のタイプだろ? 術式回路をこれでもかと積んで砲撃の際に何層にも魔法効果を付与して魔弾と化した砲弾を超音速で打ち出すっていう。そんなものまで王国軍に渡しちゃって……簡単に王国の権威奪われちゃうんじゃない?」


「やけに詳しいのね。それでも国の内情に詳しくない人から見たらそう思えるのも当然なのかもしれないわね。そういう諸々については最高司令官にでも聞いてみるといいわよ」


「聞けるかよ……」


 冗談にも聞こえないような恐ろしいことをモニカが吐き捨てたところで、ついに王国軍本部の正門にたどり着く。敢えてなのかそれとも別の意味があるのか、モニカは黙ったまま門の奥を見据えている。警備の兵士も隙はみせまいと強張った表情で警戒しているようだ。僕としてはもうお邪魔しますとか行ってさっさと入ってしまいたかったが、そんなことをしたら後ろの機械人形が動きかねない。そしたら冗談抜きで死ぬ。


 しばらくすると、門の奥、先のほうから一人の兵士が走ってきて警備の兵士に何か言伝をする。ようやくそのときが来たようだ。


「お待たせいたしました、モニカ王女と御付の方。最高司令官室にご案内します」


「よろしく」


 モニカは右手を差し出し、その手を下から支えるように自分の手を差し出した兵士、一時のエスコートをすることをここに示したのだ。一応僕も王国の重要な要素である勇者なのだけど、御付の方なんて粗雑な扱いをされているということからも僕のことはまるで眼中に無いことがわかる。悲しい話である。


 見たこと無いような造りの建物や、必要以上に堅牢な造りになっている壁などに興味を示している内に、いつの間にか最高司令官室に到着しているようだった。あんまり見てはいなかったが、ここに来るまでにもう死地を数回乗り越えてきたような修羅の顔をした猛者たちが何人かいた。僕が勇者に指名される場、そこには剣豪やギルドマスターなど多くの実力者がいたのだが、そこにいてもなんらおかしくないような、言い換えてしまうと、すさまじい実力の持ち主もいるようだった。


 もしこの軍が本当に悪巧みをしているというのなら、この国はもう終わりなんじゃないかとすら思う。そういえばギルドとなんでもないようなことでいがみ合っていた様だが、こんな力有り余るような連中が集まる軍がギルドなんかと喧嘩するようには思えない。言っては申し訳ないが、ギルドの面々と軍の面々を比べると天と地ほどの差が見受けられる。強いて言えばレベッカだけは軍の中で見てもかなりの練度だけど、それ以外はもはや小童という感じだ。


「ってことは、やっぱり両者の間には何か裏がありそうだな……」


「何してるの、早く行くよ」


 勝手に一人考え込んでいると、既に最高司令官室を目前にしてモニカが手招いている。僕は慌てて彼女の元まで走り寄る。


「ごめん、ちょっと考え事してた」


「もちろん、今突き当たっている問題についてよね?」


「そりゃもちろん」


 モニカは少しうれしそうに微笑み、そして振り返って眼前の大きな扉を前にする。


「言っておくけど、軍の最高司令官だからね。ヘマしたらどうなるか分からないけど、当たり障りないことだけ聞いても意味が無い。私はガンガン攻める気でいるからさ、もしものことがあったらあんたを頼るからね」


「お、おう。マカセトケ」


 僕の言葉を聴いて、モニカはどういうつもりか分からないが若干微笑んで、そして瞬時に表情を凍てつかせた。僕の友達のモニカから、プラトー王国を治める王女の顔になった。そういえば、僕を勇者に指名したあの時から比べれば、随分と言葉遣いも飾りないものになったものだ。それだけ素で接してくれているということなんだろうか。


 っていやいや、なんでそんなこと今突然思い出しているんだ。……もしかしてフラグ!? 


 そんなまるで緊張感のないことを考えていたら、モニカはいつの間にか扉に手をかけていた。モニカやはり無表情、だけどその無表情は自信に満ちた無表情に見えた。


「さぁ、始めましょう――」


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