モニカはうれしはずかし
モニカが起きるまでの間、僕は膝枕をしているつもりだったのだが、これで目を覚ますとまた気絶しかねないと思い、ベンチに寝かしつけておくことにした。ロストリオンの街並みをモニカの近くの範囲で散策してみたが、やはり明るい印象は受けなかった。かといって、王国軍に弾圧されているといった雰囲気でもなく、僕が考えついたのは単純な衰退だ。
ここはそもそも商業や娯楽施設が発展するような立地ではなく、王国軍の本部が出来たために中枢と間違えられるようになっただけで、本来は中枢から少し離れた位置のベッドタウンのような位置づけだったのだろう。その証拠に、一度このロストリオンで栄えた施設は皆廃れ、ひっそりとした住宅地域がびっしりと家々が並ぶ居住区と化している。
僕は、もしかしてそういう点が今回の王国軍の問題となにか重なるのかと考えた。例えば、王国軍はこのロストリオンの繁栄を願っており、そのために外国の力を借りてこの街を改造させる計画を推し進めていた。賄賂で外国の商業などを取り入れ、ロストリオンを発展させ、最終的には発展したロストリオンに本部を置く軍が国の主導を買って出る、なんて筋書きとか。
だが、その案はあまりに現実味がないこじ付けであることが露見していた。そもそも王国軍という巨大勢力が一度繁栄に加担しているというのに、その反映に失敗している。その時点でもうこの街の商業的な発展は不可能だろう。そう考えるのが妥当だ。
というわけで僕の考えでは何も進みませんでしたと。変に本で身につけた知識が邪魔をして枠にはまった考えしかできないのか少しもどかしい。どうせ、こんな歪んだ性格なのだからもっと歪んだ意見で新たな活路を導き出したいものだ。
そうこうしていると、モニカが目を覚ます。大きなあくびを一つして、周りをキョロキョロ。あまり動揺している様子はないようだ。
「やっと目が覚めたみたいだね、大丈夫だった?」
「…………えっと」
一瞬、気を失う前のことを思い出してまた困惑しだしたらどうしよう、なんて思ったが、それはどうやら杞憂だったようで――。
「何してたんだっけ?」
「……あー、お昼寝かな」
「私だけ?」
「モニカだけ」
それを聞いて、モニカは何故か自分の体の周りを確認し、服の中や腕などをさすって
「何もしてないよねっ!?」
「するわけ……ない、だろ」
人のことを言っていたら、無防備なモニカに変な気を抱いたという事実を思い出してしまい、墓穴を掘る。あっちはもう忘れているのか、気にしていないのかは分からないが、もうわざわざ話すことでもなさそうなので触れはしない。
「何よ、するわけないって。する気はあったけど抑えたとか言ってくれた方が女の子としては……あれ、何言ってるんだろ」
「ッ――い、いや、実際のところはそんな感じだったり……」
「……え?」
「…………え」
謎の沈黙。いや、この沈黙はダメな沈黙だ、なんか変に気を使ってしまって言葉が出なくなってそのままどこまでも落ちていくやつだ。
「そ、それはそうと、早く行かないか? さっきから兵士たちの視線が痛いんだ」
「え、そ、そうなの?」
モニカは慌てて周りを見てみる。すると、さっきまでガン見していた兵士の連中が急に不自然に業務に戻り出す。不自然に戻るものだから、さっきまでパトロールしていた兵士が突然準備体操を始めたり、高所で見張りをしていた兵士が口笛を吹きながら空を仰いでいたり、てんやわんやだった。
「……な?」
「……そうね、行きましょうか」
もはや恥辱の極みとでも言ってやろうかという気分だった。自分の中でいろいろ整理をつけたいのに、モニカは何故か積極的に話題を振ってくる。しかも、関係ない話題にそらせばいいのに、先ほどの光景について言及してくる。
「あれって、あの人たちには私たち、どう見えてたのかな」
「そりゃあお前、王女様に使える立派な勇者だろう。しっかりお前の前で見張りをしていたんだからな」
「……そっか、そうだよね。えっと、ありがとう……で、いいのかな」
「おう、礼を言われて悪い気はしないからな。受け取っておくよ」
「それとさ、ヴァンとめちゃくちゃ至近距離で目があったあの時、実はすごくドキドキしてた」
「え?」
もう適当に流し聞いていればいいやなんて思いながら歩いていたところに、不意にとんでもない発言を聞いてしまう。その真意を訪ねようと彼女を見やると、いつの間にかかなり前の方を歩いていた。
「ほら、早く!! 気絶……じゃなくて、お昼寝しちゃってたんだから急いで取り戻さないと!!」
あれ、アイツ今気絶って……。もしかして全部覚えてるのか、っていうかそんなことよりサラッと今すごいこと言ってたよな、なんて言ってたっけ!?
起こった出来事を処理しきれずに頭の中が大混乱を起こしている最中、前を歩いているモニカが振り返りついでに小さな花火のような魔法を放って僕の目の前で破裂させる。
炸裂したのは音だけでダメージはないものの、正直何やってんだこいつとは思った。そういう意味も込めてモニカを睨んでやろうと目に力を入れる。だけど眼前のモニカはなんだかまぶしいくらいに笑っていて、
「ほら、ヴァン、早くッ!!」
とても嬉しそうだった。まぁ、だったら僕も一々食いつくこともないのかもしれない。やっぱりモニカの笑顔は輝いていて、見ていて飽きなくて、そんな笑顔が僕は好きだった。
時折、モニカの屈託のない笑みを再確認できる機会がやってくるなぁ、なんて思い、その度にそれが幸せなことなんだと思い知る。
忘れがちではあるが、僕は詳細不明の危険な力を持っていて、モニカもアリスも一度トロールとの戦闘で窮地に瀕したのだ。あのモニカの笑顔を守るために、アリス、シェリルと笑顔で暮らしていくために、僕は勇者としてやるべきことを一つ一つやっていく。それだけは忘れないでいようと、そう思った。
「あぁ、今行く」




