運命の再会
まさか、シェリルってそういう趣味だったのか……?
モニカの勇気に憧れているまでは想像できたが、まさかその思いが好きにまで発展しているとは思いもよらなかった。いやでも待てよ、僕は今シェリルの好きを愛的な意味でとっているけど、もしかしたら友的な好きかもしれないじゃないか。それなら全然分かるぞ。
いや待て待て。友的な好きならどうしてこんなに震えて今にも泣き出しそうにしているんだ。そんな宣言「いやーまじあいつのこと好きっすわー」位のテンションで言うのが普通だろう。あれ違う? 女の子の世界の好きってそう言う感じではない感じ?
そもそも僕に言うこと自体おかしくないか。僕が仲良いから手伝って欲しいみたいな感じなんだろうか。だとしたらやっぱり愛的な意味だよな。禁断の愛だけど、もう抑えきれないからヴァンさんにだけは真実を伝えるので、協力してください――みたいな。
いやぁ、正直それはどうなんだろう。モニカをか? シェリルが? うーん。
……うん、シェリルは結構奥手な感じがあるけど、迷ったら行動するタイプだ。僕たちについてくる時だってそんな感じだった。それはとてもいいことだ。迷って後悔するよりかは行動したほうが後になって思い悩むことも少ないだろう。だが、それは同時に思慮の浅い行動に出てしまいやすいというリスクも伴う。
今回がまさにそれだ。まだ王国に来て日が浅いシェリルは、モニカの事をよく知らないまま、良いところだけを見て心打たれてしまった。
しかし、現実はそうじゃない。人には良いところだって悪いところだってある。それを教えてあげなくちゃいけない。彼女の勇気に対する僕の答えはより深いシンキングタイムの提供だ!!
「オッケー。シェリルの気持ちはよくわかった。でももっとお互いのことをよく知ってからの方が良いと思うんだ。まだ知り合って日が浅いし、考える余地は十分残ってると思う」
「え……それは、つまり……よく考えて諦めた方がいいって――」
「――ああ、そうじゃない、そうじゃないんだ!! あくまで判断が早いと思うよっていう話だよ。僕も協力するからもっと互いに深くまで知り合ってからでも遅くはないよってこと」
「そ、そうですよね……私も、もっと深く知り合いたいです!! 多分それでも答えは変わらないですけど、ヴァンさんがそう言うなら私そうします!!」
「そ、そっか。それは良かった。僕もシェリルの力になれるように頑張るよ」
「ふふ、そのお言葉を聞いただけで、今日は勇気を出した甲斐がありました。大変な時に済みませんでした、モヤモヤとした気持ちでいるのだけは良くないと思ったんです」
就寝の挨拶をして、シェリルは自室へと帰っていった。妙に静かになった空間には僕ひとりだが、落ち着いて物事を考えられるような状況ではなくなっていた。
協力するとは言ったものの、どうしたものか。モニカとシェリルの会話の場を作るとか、モニカにそういう興味があるかをさりげなく聞いてみるとかだろうか。どちらも簡単ではなさそうだ。
それどころか、僕が人の色恋沙汰を手伝っている暇があるのかという話だ。国民には僕とまともに目を合わせてくれる人もいない中、家には二人のお付き人。それなのに僕自身には浮いた話ひとつない。
モニカはもともとそういう感じではない再会をしているし、シェリルも可愛くて僕のことを生きた目で見てくれる寛大な女の子だったけど、まさかの事態で希望は薄い。残るはアリスだけど、彼女はまず美人だし、スタイルも良いし、面倒見も良いし、何より一番気が合う。が――
――清い出会いであるが為に今の関係に満足してしまっている部分がある。というよりも、色恋沙汰に発展してこの関係にヒビが入るのが嫌なだけかもしれない。
「こりゃ難しいな」
僕の浮いた話は、まだまだ先の話みたいだ。
■
翌日、アリスとシェリルには留守番をしてもらい、僕とモニカでギルドや王国軍への聞き込みが始まった。間違いなく僕がボコボコにされるのは分かっているので、基本的にはモニカが話を聞いて、僕が後方で話を整理していく役目だ。
「良い? ギルドや王国軍の連中に何言われても激昴したらダメだからね?」
「それはそっくりそのままモニカに返すよ」
「べ、別に私はヴァンが何言われようとどうでもいいけど……ヴァンは酷だろうなと思って心配したんじゃない!!」
「わ、分かったよ、ごめん。僕も気にしないからモニカも気にしないでいいからね」
「だから気になんてしないわよ、まったく」
うーん。昨日は激昴も激昴、見てるこっちが驚くくらいに怒っていたと思うんだけど今日になってみるとこの有様。信頼できることは信頼できるのだがやりにくいことこの上ない。シェリルはモニカのこういうところが良いのだろうか。
最初に訪れたのは、何を隠そうあの殺人鬼(仮)のレベッカがいるギルドだ。もう二度と近付きたくないくらいの場所なのだが、それをモニカに言ってもレベッカは不器用なだけだからと話を聞いてくれなかった。ギルドは他にもたくさんあるんだからせめてレベッカがいるところだけは避けて欲しかった。
「あれ、モニカ王女じゃないですか。今日は何の御用で?」
「実地調査よ。ギルドと王国軍の最近の衝突がどんなものなのかを聴きに来たんだけど……レベッカはいるかしら?」
おいモニカよ、何故態々レベッカを呼ぶ。いないならいないでいいじゃないか。目の前にいる親切そうな少年に話を聞けばよかろう!!
「レベッカさんは……おかしいですね。さっきまでいたと思うんですけど」
中を見回してレベッカの姿が見えずに困った様子の少年は、各メンバーが今日の予定を記している掲示板を見てくると言ってこの場を離れていった。
「なぁ、なんで態々レベッカを呼ぶんだよ。僕はできればレベッカに会いたくないんだけど」
「そんなこと言ったってこのギルドだとレベッカが一番仲がいいんだもん。それにレベッカだって日が改まったことで思い直しているはずよ」
そんなことは決してない。確実にない。アイツは何時いかなる時も僕を殺しに来る。絶対だ。
「おかしいですね、やっぱりこの時間はレベッカさんここにいるはずなんですけど――」
帰ってきた少年が頭を掻きながら焦った様子で戻ってくる。王女を待たせてしまっていることに動揺しているのだろう。
「ッツ!?」
――しかし、たった今そんなことはどうでもよくなった。
僕は今並々ならぬ殺気を感じ取ったのだ。これは間違いない。
「奴が近くにいる」
「え?」
モニカがなにか反応しているが構っている場合ではない。ここで気を抜けば簡単に僕の首が宙に舞う。それぐらいにヤバめな状況だ。
ゴブリンやドルイド、それとえーと、さとしだっけ? ああいうウザい類の奴とはまるで違う、モンスターに鋭く睨まれているような感覚。全身の体毛が逆なでされた様な気持ち悪さも相まって冷や汗が止まらない。
それがどの方向から来ているのかは分からない。しいて言えば囲まれているような印象。その三六〇度の内の一角が正解で、他はブラフ。判断を誤れば待つのは死。
だがこの状況は僕も想定のうちだった。
既に人目を気にせず上半身を倒し、片手剣を抜刀する体勢にはいった僕のことを街の人々は関わってはいけない類の人を見るような目で見ているが、気を取られてはいけない。
「お母さん、あの気持ち悪い格好の人だあれ?」
「こら、あんなのを人と一緒にしちゃいけません!!」
……気を取られてはいけない。罵声で死にはしないがレベッカでは死ぬのだ。
剣士レベル23でスキルも慈愛の剣しかない僕だが、対レベッカだけは相当鍛えられているのだ。もうレベッカキラーと呼ばれてもおかしくない。
「さぁ、どこからくる……どこから――」
その時だった。針穴に糸を通すような正確さで一筋の軌跡が描かれたのを僕は見逃さなかった。洗練された極薄の刀身は太陽の光すら反射しないで飲み込んでしまいそうな程黒く染まっている。その細剣-レイピアを刺突の型で構えて襲い来る姿はギルドの屋根の上から現れた。
残念だったなレベッカ。その研ぎ澄まされた殺気は、研ぎ澄まされすぎているが故に見抜いた!!
そして僕は、脇に差し込んでいた片手剣を抜――。
あれ、おかしいな。
僕は脇に差し込んでいた片手剣を――
「…………」
抜けない。ヤバイ、引っかかってる。クソ、なんだこれ。全然抜けないぞ、どうなっているんだ。ああこのままだと首が飛ぶヤバイヤバイ!?
力任せに片手剣を四方八方に動かしていると、ようやくその刀身があらわになる。しかし、その勢いのままに剣は振り抜かれてしまう。
何も考えずに振り抜いてしまった剣は、何かを捉えてしまう。剣を持つ手が鈍い嫌な感触を感じる。
僕の目には、何故か飛び散る鮮血が映っていた。




