6.バーズの星より
ビースト、グレイス、エンド、アーク、オラクルの5人で珍しく車に乗っていた。
「今回は皆さんに深淵を適用します」
「あのX軸とY軸がマイナスの値のやつ?」
「怖いなあ」
エンドとアークが怖がる。
「怖がらずともいいですよ。正体はバレてますから」
「え」
「え」
「マイナスなんですよね。お二方は」
エンドとアークは固まる。
ビーストとグレイスが慌てて反論する。
「おいおい。オラクルさんよお。マイナスってのはおかしいだろ。犯罪行為なんて何もしてないだろ?首筋の数字だってプラスの値が表示されてるし」
「そうですよ。マイナスである証拠はなんなんですか?」
オラクルはお菓子をどこからか取り出すと、皆にそれを分け始めた。
「私は『0』です。分からないことはないんです。あ、ビーストさんとグレイスさんがプラスなのは分かってます。なんなら今ここで首筋の数字の正体を明らかにしてもいいですが」
「やめて」
「いいよもう」
「お前ら……」
「まさか……」
ビーストが能力の発動をしようとしたところを、オラクルは止めた。
「マイナスですが、敵ではありませんよ」
「だけどよお!マイナスってのは倒すべき敵だろ!?」
「違います」
オラクルはぴしゃりと言い放つ。
「マイナスなんてのは、プラス次第でいかようにもなります。重要なのは付き合い方なんです。現に今まで仲間としてやってきたのではありませんか」
「それはそうですけど……」
グレイスは声を震わせる。
「私がこの段階で正体をバラしたのは、今回のフォーメーションに大きく関わるからなんです。深淵はマイナスの力をプラスに変えるフォーメーションです。チームにマイナスがいなければ発動したとしても意味がない」
「マイナスを倒すためにマイナスの力を使わなくたっていいだろ!?こうやって俺らプラスの力で今まで倒してこれたんだからよお!」
「いえ、私の予想ですが、今回は少しばかり手を焼くことになりそうです。……着きましたね」
5人が車から出ると、マイナス達が一斉にこちらを向いた。
四方八方から視線が向けられる。
「注目されすぎました。そしてマイナスも力をつけ始めたようです」
「お前らか!最近次々とマイナスを倒してるヒーロー達ってのは!」
マイナスの一人が大声で喋り始める。
「そこの白いお前!お前が不思議な能力を使うっていうじゃねえか。やってみせろ!」
「いいですよ。……折角なので、アークさん。私の左斜め後ろへ」
オラクルに促されるままアークは移動する。
オラクルは構える。左手を6時の方向に、右手を9時の方向に。
「さて、適用しました。アークさん。身体に変化はありませんか?」
「変化は無いけど……パイル!」
アークは己の装備である杭を取り出した。
「パイル・アーク!」
杭を空間に打ち込む。直後、空間が割れ、割れ目ができた。杭は、元々地面に打ち込み、衝撃波を起こして戦いの起点を作るのが役目だったが、今回は違った。
「お前、何をした!?」
「ビーストさん、静かに。次にエンドさん、私の左斜め後ろに」
呆気にとられるままエンドが位置につく。オラクルはまた構える。
「エンドさんにも適用しました。どうですか。装備を使ってみてください」
「う、うん。……ドライバー・エンド!」
エンドが杭を引き抜く。すると空間がぼろぼろと崩れ落ち、崩壊した先に本来あるはずのない光景が広がった。
「あれは……?」
「エンドさんとアークさんです」
2人は庇い合いながら倒れていた。後ろでは火事が勢いを増している。やがて火事は2人を巻き込み、こちらの空間にまで広がろうとしたが────
「させねえ!」
ビーストが腕を一振りして火事の勢いを止めた。
「皆さんこれは有り得た世界です。マイナスとプラスはいがみ合ってる場合ではないんです。ようやく話のできるマイナスさんがいらっしゃったので、これを機に、私は戦闘に加わりません」
「なに!?」
「話のできるって……なんだ?お前は俺達に何をしろってんだ」
マイナスがオラクルに歩いて近付く。
「俺達はナンバリングレッテラーでマイナスと判定されて、抑えきれなくなりそうな犯罪衝動に耐えながら今まで生きてきた」
「よく頑張りました」
「俺達は……でも……今はもう……」
「アークさんとエンドさんのように双子だったり、信頼できる人間ができたり、心の許せる相手がいたり……マイナスがプラスになる瞬間は沢山あります。今からでも────」
オラクルが言いかけた時だ。
空から巨大な光線がオラクルめがけて降ってきた。防御する間もなくその光線をもろに浴びる。
「バーズめ……私を見せ物にするつもりですか……!!」
オラクルのコートが黒く染まる。今まで白かったコートはすっかり黒のコートになっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
空から声が響いた。
「「「貴様はでしゃばりすぎだ」」」
誰もが空を見上げた。
空には人間の形をした何かが1つあった。
その1つが、地上へと降りてきた。
「『0』の家系は本当に邪魔だ……。何を見とる。争ってええぞ」
「オラクルになにしやがったぁ!!」
ビーストがその存在に向かって長い爪を振り下ろす。
しかしまるでホログラムのように手応えがなかった。
グレイスが杖から電撃を放つが、それも空間に消え去った。
「ワシと君らでは次元が違う。その攻撃はワシの前で限りなく近づくが、触れることはない。……それよりオラクルが暴れるぞ」
「グゥ……!!」
オラクルは両腕を横に構えた。左手は9時の方向に、右手は3時の方向に。
「ゼツボウ」
直後オラクルよりも下にいた人間全てが、重力で地面に叩きつけられた。
「か……はっ……!」
「ぐっ…………」
「Z軸か。ワシも使ってみたいもんだ」
存在は呑気に一言こぼすと、頭を掻いた。
「やりすぎちまったのう。この惑星もダメにしちまった────」
「待て!!」
その声は『The DECAGONAL 9』なら誰もが聞き馴染みのある声だった。




