5.以前の十全
「ゴーストさんにはどんな能力が合うでしょうか」
「……分断を使えるか?」
「使いましょう」
オラクルが右手を6時の方向に、左手を3時の方向に構える。
ゴーストはどこにも認識されない能力を持つ。物質を透過して対象のみを斬る脇差を持っている。
「適用しました」
「感謝する」
能力の除算。オラクルは今回、0で割ることにした。
0で割ることつまり────
「これで俺は無数の存在になれる」
鎌を持ったゴーストの影が無数に現れる。
ゴーストの影がマイナス達の影に取り憑き、脇差を振り下ろす。影に現実が同期する。マイナス達はバタバタと倒れていった。
「最強のアサシン能力だな」
「基本的には気付かれずに倒すのが、零細企業の私たちですからね」
オラクルが鎮火と静寂をもたらす。
「あんた、コートが汚れてるぞ」
「……ああ。後で洗っておきましょう」
──────
2人が事務所に戻ると十全は大喜びだった。オラクル加入後、様々なマイナスの犯罪行為を食い止めた実績のあるチームとして名が通るようになった。
「ありがとうオラクル」
「いえいえ、いいんです」
十全は不思議と子供の頃を思い出した。
まるで透明人間のような扱いを受けていた頃、小さな神社に続く道に座り込んで、空を眺めていた。すると後ろから覗き込むように白装束の中性的な人物が顔を出してきたのだった。
「うわ、すみません。こんなところで座り込んじゃって!」
「いえいえ、いいんです」
その人物はニコニコとしながら十全を見つめていた。
「今、どきますので」
「そうですか。ところで、あなたは人をじっと見たことがありますか?」
不意の質問に十全は戸惑ったが、答えた。
「見る……自分のことも面倒見られないのに、人を見るなんて……」
「では私があなたを見ます。あなたもいつか、人を見ることができるようになるといいですね。ヒーローですから」
「えっ……」
そう言うとその人物は去ってしまった。まるで消えるように。
(見るってなんだ……?俺がなんかしたのか?しかもヒーロー?)
十全もその場から立ち去る。
それからというもの、十全は視線を感じ続けた。しかし恐怖よりは、安心感があった。透明人間扱いだった自分の救いになった。
十全は毎日神社に通った。そして謎の人物と会話をした。当たり障りのない話題だ。天気とか、地域の周りの様子とか。こんなに普通の話題で人と喋ることができるなんて、と十全は感動した。奇妙な出会いだが、楽しさを感じていた。
そして大人になり、ナンバリングレッテラーが起こった。十全は何も目立った能力を得られず、周囲から蔑まれた。だが、不思議と以前の扱いを受けても気にしなかった。
見るという行為から目を逸らさない方法の一つとして、ヒーロー事務所を立ち上げた。
謎の人物は再び現れることはなかったが────
「ヒーローですから」
その台詞に驚きを隠せなかった。
姿は違ったが、同じ台詞だった。




