7.急
十全は近くにあった10階建ての建物の屋上から姿を現した。
「お前に!!好き勝手させるかよ!!」
手元のリモコンのガラスをグーパンで上から叩き割った。
十全の手が血で滲む。しかし気にしてはいられない。
「オラクル!帰ってこい!」
呼びかけるが、オラクルは微動だにしない。
リモコンのスイッチを何回も押す。
「クソッ!クソッ!」
「何をしている?あの人間は」
空から現れた存在は、呆れながら十全を見た。
そこで気付いた。
「お前、何故ナンバーがない?」
「うるさい!オラクルを元に戻せ!」
十全は叫び続けるが、その存在は興味ありげに近付く。
「お前、ナンバリングレッテラーから外れたか。ならもう一度かけるか」
存在が光線を十全に放つ。
「この光線はな。プラスとマイナスが凝縮された、判定光線だ。命が能力を得た時、どのようにそれを使うのか、テストしている。この星は既に見せ物として、バーズの星で娯楽として消費されている。『0』の様子がおかしかったんでな。近くまで来とった。まあいい。さて、お前は何番になるんだ?」
存在が十全を覗き込む。しかし、既に十全に意識はなかった。
──────
俺は……何番なんだ。
俺は何番にもなれなかった存在だ。何の能力もない。ストレスで胃はキリキリ痛むし、嫌なことがあれば気分はどん底。他人のために胸を張って生きることなんて、できない。
なあ、オラクル。オラクルはいつも回答を持っていたよな。なんて答える? この状況に、どう回答する?
「ヒーローって、カッコよくないですか?」
……え?
「だから、ヒーローってカッコよくないですか?」
オラクル……か? いや、違う。
「私はあなたをずっと見てきました。そしてあなたは皆さんをずっと見続けてきました。それを言うんです」
見てきただけさ。
「あなたが見る世界は、あなたの中にしか存在しない。つまりは……」
つまりは。
「「俺が、この世界のヒーローってことだろ!!」」
──────
「俺は……ナンバー10。十全だ」
「ナンバー10?そんなものは────」
「存在する」
十全は言い切る。
そしてその台詞を言うと同時に、オラクルのコートが白く染まっていく。
「俺は……どこか自分を見限っていた。……だが、もうお前の好きにはさせないぞ!!Z軸はまだある!!キボウ!!」
ゼツボウの効果が切れ、人々は解放される。
「俺達は、俺達でいいんだ!等身大の自分の人生に、可能性は残されている!」
オラクルが存在の後ろに立つ。
「な、なんだ。ワシを殺す気か?」
「違う。約束しろ。地球には手を出さないと。俺達は生きているんだ。息をしているんだ。大地に立っているんだ!」
「私と一緒に帰りましょう。もちろん、ナンバリングレッテラーは解除してね」
存在は持っていた杖を構える。
「ワシに指図する気か!?この惑星を消すことくらい容易いんだぞ!」
「させない。オラクルと俺がお前にさせない」
存在は杖を振る。しかし、空を切るだけで何も起こらない。
「なに!?クソ!」
「十全さん。皆さん。お世話になりました。何かが巡り合った時、また会いましょう」
「ああ。俺はナンバー10として、観測者として、この地球を守る」
「はい」
オラクルはキボウを再発動した。時が巻き戻る。
物や人、世界が巻き戻っていく。
十全は薄れゆく意識の中で、子どもの頃を思い出していた。
(ヒーローってのは他人を見られる人のことだったんだな……)
──────
2025年。
都内某所。神社へと続く道にて。
十全は座り込んで空を眺めていた。
「調子はどうです?」
白装束の謎の人物が声をかけた。
「良いですね。この青空みたいに」
「それはいい。青空を見られるのなら、任せた甲斐があります」
そう言うと、白装束の人物は去っていった。
「今度は俺が見る番だ」
十全は頬を両手で叩くと立ち上がった。
今日も彼は見守る。ヒーローなのだから。




