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2.The DECAGONAL 9

「今日からお世話になります。オラクルと申します。よろしくお願いします」


 オラクルの前で、9人のヒーローは強制的に座らされていた。

 『The DECAGONAL 9』の事務所内に設けられた談話室で、その場にそぐわない人物を前にヒーロー達は「これ以上過度に頭を下げないでほしい」と言われたため、仕方なく作り笑いを顔に浮かべながら話を聞いていた。

 2026年に、『0』の番号を持っていることで神格化されてきた過去を持つ青年なんて、前代未聞だった。


 記憶に何か障害があるのか?いや、目の前にいるオラクルと名乗る人物は確かに『0』を持っているし、疑ったらまずいだろ、というのが9人のヒーロー達の思いだった。

 戦場を一瞬で鎮圧したあの力が、ヒーロー達の脳裏に横切る。まるで全てやってきたことを無に帰す力。目の当たりにしたこともない。

 アイリス、ゾーン、エンド、アーク、スカイ、ゴースト、トリガー、ビースト、グレイスの9人は、警戒しつつ、挨拶をした。


 小さく若い女の子が前に出た。目にレンズのようなものを付けている。


「ナンバー1、私はアイリスです」


 次に少し老けた男性が前に出た。大きなアンカーを手にしている。


「ナンバー2、俺はゾーンです」


 双子が前に出た。


「ナンバー3、エンド」

「ナンバー4、アーク」


 男勝りな雰囲気の女性が前に出た。弓矢を身に付けている。


「ナンバー5、スカイだよ」


 フードで顔を隠した男性が前に出た。脇差のような刀を身に付けている。


「ナンバー6、ゴーストだ」


 両手に銃を持った男性が前に出た。


「ナンバー7、トリガーでっす」


 髭の長い男性が前に出た。


「ナンバー8、ビーストだビースト」


 最後に聖母のような女性が前に出た。大きな杖を持っている。


「ナンバー9、グレイスです」


 するとヒーロー達の後ろのドアが開いて十全が現れた。

 盆の上に大量の茶菓子を乗せている。


「お待たせしました。十全です。どうですかお菓子でも」

「ありがとうございます。お菓子は好きなんです」

「よかった」


 十全はオラクルの前に茶菓子を置くと、ヒーロー達にこっそり「失礼の無いように」と目配せをした。

 昨日の出来事から、ヒーロー達は『0』の数字を信じないわけにいかない。だからこそ「なんでウチに入ってきたの?」という感情が支配していた。

 スカイが口を開いた。


「えっと、家から近いからウチに入ったんだ……でしたっけ?」

「はい」

「今のところ、世界で『0』を騙ってる人間と間違えられてもおかしくないんですけど、本当に『0』なんです?」

「ええ。試して頂いて結構です。私に攻撃は一切届きませんから」

「……」


 空気が張り詰める。所詮零細企業ではあるが、ヒーローと名乗れるだけの力はある。プライドを傷つけられた感覚に陥ったヒーロー、スカイ、トリガー、ビーストは、次の瞬間、攻撃していた。

 しかし電撃、射撃、打撃、いずれの攻撃もオラクルの寸前で弾かれてしまう。


「ほら」


 オラクルの右手の光球が光っている。


「こ、こら何してんだお前ら!」


 胃の縮むような思いをした十全がヒーロー達を手で制止する。


「私たちのメンツってもんがありますよ!十全さん!」

「やってられませんよぉ。ねぇ?」

「他の者が行かねば我らが行くしかあるまい」


 オラクルは無意識に煽ってしまったことにここで気付いた。


「み、皆さん。申し訳ございません。神経を逆撫でするつもりはありませんでした」

「スカイ姉ちゃん、トリガー兄ちゃんにビーストおじさんも、別に良いんだって。俺等、逆らったら何されるか分かんないよ」


 アークの腕を掴みながらエンドが口を開く。


「な、何もしませんよ!私は攻撃ができないんです!」

「「「え……?」」」


 オラクルは焦った表情で続ける。


「攻撃を吸収して放出することは出来ますが、自分から仕掛けることはできないんです。あくまでサポートの能力なんですよ!」

「それって……『0』としては具体的に何が出来るんですか?」


 スカイが問う。


「私の左右をX軸、前後をY軸とすると、プラスとプラス、プラスとマイナス、マイナスとプラス、マイナスとマイナスの4つのエリアができます。それぞれのエリアで戦っていただくことで、各々の能力が変更されます」

「どういう風にですか?」


 グレイスが尋ねる。


「それは────」


 突如、サイレンが鳴る。マイナス達の犯罪開始を告げる合図だ。


「実戦で試しましょうか」


 十全が頷く。


「なら今回はオラクル様とゾーンとトリガーで出撃だ。他メンバーは万が一に備えて待機だ」

「俺とトリガーか。オラクルさんがいなきゃ蹴ってるとこだ」


 ゾーンが立ち上がる。


「なんだよ。つれないこと言うなって、ゾーンのおっさん」


 トリガーも立ち上がる。


「では、私は先に行って参ります」


 オラクルはフフ、と笑いながらそれだけ言うと、消えてしまった。

 周囲が騒然となる。


「おい!消えたぞ!瞬間移動でもできるのかよ!これじゃあ移動は結局一緒じゃねえか!」

「仲良くしろよお前ら……」


 十全は手で顔を覆った。


──────


「お待ちしていました」


 ゾーンとトリガーが車で現場に到着すると、オラクルが待っていた。


「あの~お願いですが、一緒に行動していただきたくて……」

「私、現場にいないと落ち着かないんです。もちろん皆さんと一緒にいたくないわけではありませんよ!ただ、いち早く現場でマイナスの皆さんに祈りを捧げないと、この先やっていける気がしませんから」

「「……?」」


 どういうことかゾーンとトリガーには分からなかった。

 そもそも天然記念物のような特殊な存在の気持ちなど俺達には分からないのか? と二人は目を見合わせた。


「来たなプラス共!」


 マイナスの人間が、喋りながら手にしたナイフを人に突き刺そうとして────

 バン! とトリガーが撃った弾でマイナスの握っていたナイフは手から弾かれた。


「相変わらずカスみてえな野郎共だ。貴重な弾使わせやがって」

「ありがとうございます。トリガーさん」

「アンタさ。祈りを捧げるって言って、犯罪も止められないんじゃヒーロー失格だろ!」


 トリガーはオラクルをどけて前に出た。


「お、おいトリガー」

「黙ってろゾーン。いつもので片付けるぞ」

「……ああ」


 トリガーがマイナスの人間に銃を向け、撃つ。ゾーンは空間を操り、銃弾をそのままの勢いで敵の眼前に出現させる。

 必中の銃撃だ。

 いつもであればこの銃撃コンボによって無力化が可能だった。いや、今回も無力化には成功したのだが────


「な、なんだあの弾……」


 トリガーが呟く。銃弾は.38口径のはずだったが、まるで戦車の大砲のような大きさで、150mmはあろうかというほどだった。マイナスの顔どころか身体が消し飛ぶ。

 ゾーンが妙なオーラを感じて後ろを振り向くと、オラクルが光球を構えていた。左手は0時の方向、右手は3時の方向を向いていた。


「これがフォーメーションの力です。あなた方がXとYのどちらにおいても0以上の位置にいたため、意志(オーバーライド)が発動しました」

「意志……?」

「ええ。出力が強化されます。ただ、耐えられるかどうかは分かりませんが」


 トリガーの銃がボロボロと崩れる。


「っておい!俺の愛用の銃だぞ!毎日欠かさず手入れしてきたのにぃぃぃぃぃ!!!」

「大丈夫です」


 オラクルがそう言うとボロボロと崩れた銃が、まるで時間を逆再生したかのようにトリガーの手に構築された。


「……は?お、おい。なんだこれ」

「これも座標の力ですよ。銃は先ほど使っていたものと変わりはありませんので、安心してこれからも使ってください」


 トリガーもゾーンも置いてけぼりだった。今まで目の当たりにしたことも聞いたこともない能力だからだ。

 ナンバリングレッテラーでもたらされた能力で、能力を上昇させる人間は多からずともいるが、時を戻すように物を直す能力は見つかっていない。しかも座標の力とされる能力も異質だった。

 そんな能力を発揮していながらオラクルは元気よく言った。


「さあ、私だけではどうにもできませんから、お願いしますよ!」

「お、おう」

「あ、ああ」


 オラクルが再び左手を0時の方向に、右手を3時の方向に構えた。オラクルの右斜め前にいる彼等は能力が向上する。

 トリガーが銃を数回撃つ。今度はゾーンが能力に変化を感じた。一瞬で空へ飛び、マイナスの位置を確認し、マイナスの身体の前にトリガーの銃弾をワープさせた。

 そして着弾。断末魔も上げずにマイナスは吹き飛んでいく。


「すげぇ」

「ああ、これならなんだってできる」

「ありがとうございます」


 オラクルは光球を下げる。

 その瞬間、トリガーとゾーンは足から崩れ落ちた。


「まあ、能力の使い過ぎはこたえるよな……」

「こればっかりは同意だ」


 オラクルはフフ、と笑った。


「お疲れ様です。さあ、最後に締めますね」


 左手の光球と右手の光球を胸で合わせ衝撃波を発生させる。それにより周囲数kmの火災が一気に鎮火し、静寂がもたらされる。

 トリガーとゾーンはお互いの目を見合わせて笑うと、気を失った。

 オラクルの白いコートの内側に、黒が染み込んでいることにオラクル以外、誰も気付かなかった。

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