詐欺師聖女②
観客を集め、お金を稼ぐためならば聖女の名を活用するけれど、今から個人的に仲良くしたい人に詐欺師の職を告げたい人はいないだろう。
今ここで「聖女です♡」なんて名乗ろうものならドン引きされること間違いなしだ。
リオンたちだって思っている。
聖女ってなんなんだよ……と。
(で、でも! いきなり村の人が「聖女様」って崇め始めたから! じゃあ遠回しに名乗っちゃってもいい感じ? 言っとく? みたいな軽いノリで。でもどんどんお金が稼げちゃうからやめられなくなっちゃったんだよね~)
まさに、思慮深さのかけらもない高校生である。
異世界ということで羽目を外してしまい、勢いでつい。
SNSに投稿してたら、大炎上間違いなしだ。
とはいえ、一応逃げ道は残しているのだけど。
「皆さんに笑顔を届けようと、すぐそこの広場でたまに踊ってます」
「リオンが?」
ウインクとギャルピースは普通にスルーされたけれど、名前呼んでもらえた。
「はい。私が踊る担当でレンは音楽担当なんです。皆さん、結構喜んでくださるんですよ~」
踊りはソーラン節だし、音楽はスマホから流すだけだけど。
まだ王都で踊ったの、三回目だけど。
王都で初めて踊った時、お客さんは三人しかいなかった。
知名度ないから『聖女の舞!?』と告知しても、誰も集まらないのは無理はない。
場所は王都のはずれで人通りの多いところではないし。
でも許可が取れたのがそこしかなかった。
王都はなんでも許可が必要だったのだ……。
とはいえ、すでに口コミで大きな広がりを見せている。
「……踊り子なのか?」
アルが怪訝そうな表情となった。
リオンが踊り子ではふさわしくなさそう、ということだろう。
(確かにね? なんかこう……踊り子っぽい妖艶な感じが私に皆無なのは認めるけどね? そんな目されるとちょっとむなしいっていうか)
「お、踊り子とはちょっと違うかもしれませんが、まぁ似たような感じかもしれません。あはは……」
踊り子のように優雅には踊れないし、なんなら一人ではソーラン節とラジオ体操しか踊れない。
魅惑の踊りとか、ムリだ。
(なんか自分で言ってて悲しくなってくるし。……ん? それにしてもアルはなんで一人なんだろう? 超絶かっこいいのにかわいいとか、この人お供もなしに大丈夫? 連れ去られちゃうよ?)
リオンは店内をきょろきょろと見回し、確認した。
「アル。なぜお供や護衛がついていないのですか。お供の人、実はどこかに隠れてます? あなたみたいなステキな人、一人でいたら誘拐されてしまいますよ? 私が悪い人間なら速攻さらって、おうちで無理やりにでもイチャイチャさせちゃうところですよ?」
まぁ今は家がないから宿だけど。
レンが同意するように大きく頷いてる。
「はぁっ!?」
驚きの声を上げたアルは、またしても頬を赤くした。
(だからかわいいんだってば)
「ご、護衛がなくとも、誰も俺には近づかないから……問題ないんだ」
いまだにほんの少しほほを染めたままだけど、ふっと顔を逸らしたアルはちょっとだけ寂しそうに見えた。
(……では、アルに近づいた私たちは一体。変人ってこと?)
あながち間違ってないかもしれない。
そのとき、カランカラン、という音と共に店の扉が開いた。
三名の男性客がわいわいと盛り上がりながら店の中に入ってきたが──リオンを見るなり、目を見開き「あ!」と口にした。
「……っ、聖女様だ! 聖女様がいる!」
「うわぁ!? ほんとだ! さっきのお姿、俺、感激しましたっ!」
「握手してくださいっ!」
彼らは一目散にリオンのもとに駆け寄ってくきた。
身体をのけぞらせ苦笑いをしていると、レンが立ち上がりリオンの前に出る。
「姉の舞をご覧いただいていたのですね。ありがとうございます。ですが、申し訳ありません。姉に触れないようお願いします」
神妙な表情で男に告げた。
「こっちは有り金全部寄付したんだぞ? 握手くらいいいじゃないか」
ムッとした男がレンにさらに一歩近づく。
レンがポケットに入れていたものを、こっそりと取り出したのを見た。
「姉は神聖な身の上。その身に触れようとするだけで天罰が──」
「そんなのどうせハッタリだろ! 一緒に飲もうよ~」
男の指先がリオンに伸びてきたその瞬間。
──バチィッ!
薄暗い店内に青白い火花が散って、男が叫び声をあげ、手を引っ込めた。
「ぎゃあっ!?」
一瞬とはいえ、さぞかし強い痛みと衝撃が起きたことだろう。
くらったことないけど、絶対痛いはず。
「ああ……、だから申し上げたのに。大丈夫ですか? お気を付けくださいね? 触れようとしなければ問題ないので……」
「わ、分かった。分かった! 悪かった! 申し訳ございませんでしたっ!」
引きつった顔の男たちが平身低頭で謝罪してきたので、リオンは聖女スマイルで微笑んだ。
「このような身の上で申し訳ございません。今日、見に来てくださったのですよね? ありがとうございます。嬉しいですっ! それに私もここの料理、大好きなんです。ぜひ皆さんもゆっくり召し上がってくださいね」
──こちらが天の怒りを希望したわけではなく、神に愛されたこういう体質だから仕方ないの。
許してね? というスタンスである。
(聖女っぽい。完璧! さすが私)
だが、もちろんこのような体質などありはしない。
──そうこれは……。
文明の利器……スタンガンである!
スイッチを数秒押し続けてしまえば、激痛と筋肉収縮によりけいれんして、意識がもうろうとした結果倒れてしまうかもしれないけれど。
一瞬だから反射的に手を引っ込める程度で済む。
これぞ、天の怒り──のフリである。
(顧客は大事にしないとね! だってこれからも聖女に課金してほしいし。私たちのせいでこの店の売り上げが下がるのも気まずいから、そのまま食事はしていってほしい!)
すべてをまぁるく収めた、すばらしい双子の演技力。
男たちは懸命に頷きながら、リオンたちから一番遠い席を選び、小さくなって食事をしていた。
「……俺は先ほどリオンにぶつかってしまったが」
アルが様子を窺うようにこちらを見ている。
さては「あの時はよかったのか」と心配しているのだろう。
ニコッと笑ったリオンは、アルの隣の席に移動し、彼の耳元に口を近づけて囁いた。
「──あれ、嘘なので」
机の下で彼の手をそっと握り──いたずらしたあとみたいにニヤリと笑った。
それを見ていたレンも、同じくニヤリと笑う。リオンとレンは共犯だ。
(ね? 天の怒りはこないでしょ? だって……ただのスタンガンだもん!)
ファンサービスで一度でも握手したら次から次に……って止まらなくなるのは目に見えてるから、レンが「天の怒りってことにしてお触り禁止にしよう!」ってスタンガンを用意してくれたのだ。
レン、ナイスアイデア。
「……っ!?」
驚いて目を見開いたアルの顔は、見る見るうちに真っ赤になった。
アルのあまりの純情っぷりに、最初こそ堪えようと思っていたけれど──。
結局こらえきれずふき出してからは、大笑いしてしまった。
「あはははっ! アル、やっぱかわいいっ!」
「あ、こら、ねーちゃんっ! アルは純情可憐なんだから、からかったらかわいそうだろ!」
「純情可憐って! かわいいの認めてるじゃん!」
「そりゃかわいいだろうよ。どこからどうみてもパーフェクトだろ!」
「私もかわいいよ。どっちがかわいい?♡」
リオンの自己肯定感はかなり高めである。
「……ねーちゃんの目は節穴か? どうやったらねーちゃんがアルに勝てると思ったんだ?」
「は!? これでも私、美少女リオンちゃんで名を馳せてたんだけど!?」
「そりゃ知ってるけどさ? 井の中の蛙っていうか、お山の大将っていうか……あの街レベルだったんだなって、僕、今実感してるとこ」
「レン。あんた、あとで覚えときなさいよ……あんたが寝付くまで子守唄歌ってあげるわ」
「っ!? それ一生寝付けねぇやつ! 自分の音痴を攻撃に使うな!」
双子がいつものように言い合っていたら、それをぽかんと見ていたアルが──声を上げて笑い出した。
心底楽しそうに笑うその顔は屈託なく、美形だからと作られた顔でもなく……リオンを見つめる目が、すごく甘く感じて。
──心臓が一メートルくらい、飛び跳ねた気がした。
動悸の種類が少し変わった気がするけど、まぁこれだけの美形にほほ笑まれたら当然だ。
「超絶美形のスマイル。プライスレス……」
レンの軽口に、リオンは飛び乗った。
「レン。有り金全部アルに渡して。課金しないと」
「宿に泊まる金がなくなるよ……野宿はヤダよ。せめて課金は財産の半分で」
一瞬湧きかけた想いを『そんなはずはない、気のせいだ』と言い聞かせ、リオンも軽口をたたく。
ここで誰かに気を許しても仕方がない。
リオンたちはこの世界の住人ではない。
仲良く見せかけても一定の距離を保ち、この世界の彼らを利用して生きている──詐欺師だ。
いつか弟と共に日本に帰るその日まで──何をしてでも生き抜くと誓ったのだから。
「──ということでアル。有り金半分の課金でどうでしょう!?」
「……なんの話なんだ」
勢いよく目を輝かせるリオンに、アルが口の端をひきつらせた。
「ふふっ! 冗談ですよ。さすがに半分も渡したら宿に数日しか泊まれなくなっちゃいますからね!」
「さすがに野宿は虫がイヤだよ。僕、繊細なんだからね……」
けらけらと笑うリオンと、あきれ顔のレン。
そんな二人を物珍しそうに見つめていたアルが、はっ、と何かを閃いた顔になった。
そして散々ためらった挙句、意を決したようにぽつりと言った。
「……二人とも。良かったら我が家に来ないか?」
「え?」
「空き部屋がたくさんある。宿代もいらないし、食事も出す」
いきなり提案されたことに、ぱちくりと目を見開く双子。
二人の返事を待っていたアルの顔は、段々と不安げになっていく。
ハイパーイケメンの憂い顔である。
「……まだ、二人と一緒にいれたらと……」
寂しそうな顔でそう言ったあと、自分の発言が恥ずかしかったことに気づいたのか、徐々に頬が紅潮していく。
──ピュア。守りたい、この人。
リオンとレンは顔を見合わせ頷いた。
「「お世話になりますっ!!」」
即答だった。
こうして双子は、あっさりと「タダ宿・タダ飯」の権利を手に入れたのである。




