詐欺師聖女①
王都のはずれ。
広場での一仕事を終え、人が少なくなったところで私たちは撤収を始めた。
リオンと、彼女の双子の弟レンである。
「レン。見て、めっちゃお金入ってるよ!」
うしし、とリオンが笑うと、レンがにやりと笑う。
「こっちはエンタメを提供してるんだからな。当然の対価だ」
「汗かいて踊ってるの、私だけどね」
「踊ってるのはねーちゃんだけど、プロデュースは僕だし!」
この世界の人たちは、メンタルと体調が直結しすぎた体質をお持ちのようだ。
鬱々とした気分のことを『瘴気』と呼び、落ち込みすぎると『瘴気病』で倒れるらしい。
……ガラスのハートなのである。
そんな彼らはソーラン節が大変珍しいようで、「浄化された!(気分が晴れた)」と言って大変喜んでくれる。
二人で革袋にたんまりと入ったお金を見ながら、徐々にニマニマが耐えきれなくなってきた。
顔を見合わせた双子は──。
「「……異世界、ちょれ~~!」」
声をひそめながら、同時に叫んだ。
「レン~。この世界の人、ほんとチョロすぎない? 詐欺師聖女としてもさすがに心配になっちゃうわぁ……」
「詐欺師とはいえ、僕たち別に自分から『浄化できます!』とか言ってないし。『聖女です』とも言ってないし。ギリギリセーフのはず! みんな喜んでるんだしいいじゃん!」
確かに、こちらからいくら払ってくれ、と明確に言っているわけではない。
すべては「お気持ち」である。
「なんか私、そのうち詐欺師から進化して教祖にでもなれそう」
「ねーちゃん、なりたいの? 教祖」
しばらく考えたのち、首を振った。
「なりたくない~。めんどくさそう。それに……帰りたいしね」
「だな」
これまで色々あったけど、二人だからやっていけた。
一人だったら無理だった。
「みゃーう」
「あ、ルルもね。帰るときはちゃんと一緒だからね!」
リオンは、自身の肩の上に乗る真っ白でふわふわの子猫に手をやった。
子猫のルルがぺろりと舐める。
「どうやったら帰れるのやら……」
「大丈夫よ。ちょっとずつ穴も拡大してるわけだし。そのうち有機物だって通せるはず」
「それやるの、僕なんだけど~」
いつものようにそんなくだらないことを話してよそ見をしていたからか──前から歩いてくる人に気づかず、ぶつかってしまった。
「……っ、申し訳ありませ、ん…………え?」
へらへらと笑ってやり過ごそうと思っていたリオンはぶつかった人を見て、動きを完全に止めた。
──銀色の髪にサファイヤブルーの瞳。
切れ長の目に、スッとした鼻筋。薄い唇。
体格も鍛え上げられてるのにリオンの苦手なマッチョ感はない。
長身で黒い騎士服みたいなのを着ていて、帯剣をしている。
(……え、何? AIが作り出した最高傑作のイケメン? これ、実在の人間?)
国宝級イケメンとはまさしくこういう人のことを言うだろう。
ふと見ると、レンも同じように見とれていた。
それはそうだろう。
リオンたちは──美形が好きだ。そういう家系なのだ。
であれば、とる行動は一つ。
リオンとレンは一瞬で視線を交わし、頷き合った。
ぱちくりと目を見開いている国宝級イケメンににじり寄り──。
「お兄さん! 一緒に食事しませんか!?」
気になった人には声をかけるのが礼儀。
──リオンたちの父方の祖父は、イタリア人である。
◇
日はまだ落ちていないけれど、時刻はすでに夕刻。
この国ではそろそろ夕飯時。
大通りの喧騒から離れ石畳の路地を奥へと進むと、古びた鉄製のランタンがかかった店がある。
『黄昏の鉄鍋亭』である。
長い年月を経て光沢が出た木製のカウンター。
六卓あるテーブル席。
壁には鉄製の鍋や乾燥させたハーブの束がつるされていた。
最近のリオンたちのお気に入りの料理店である。
席に着くなりササッと注文をした。
テーブル席で話足たちの目の前に座っているのは、世界最高峰のイケメンだ。
見た目からすると貴族なのかな? と思ったけれど、ゴテゴテした華美さはない。
お供をつけずに歩いていたので多分違うのでは……。
裕福なおうちなのは間違いなさそうだけど。
(まぁ……貴族見たことないし、よく分かんないけどね!)
普通の人なら、美しすぎる彼に声をかけることすらできないだろう。
その辺、リオンたちは幼少期から『気になったら声をかけるのが礼儀』と英才教育を受けてきたプロである。
流れるように声をかけることができたというわけだ。
……まぁ実践したのは初めてなのだけど。
今まさに! ここで使わずしてどうする! というタイミングだった。
呆気にとられたままの彼を「まぁまぁ、せっかくの機会ですし」と、かなり強引に連れてきたのは認めよう。
だが、一言もいやだとは言っていなかったから、多分合法。
こちらの世界の法はよく知らない。
「はじめまして。私はリオンと言います。こっちは弟のレン」
「初めまして。レンです」
「……アルだ」
目を輝かせ、無遠慮に彼を見つめるリオンたちの視線がうるさかったのか、彼は無表情のまま、スッと視線を逸らした。
いい声だ。
低い上に色気がある。
トップ声優間違いなし。
「アル──いい名前ですね! アルって呼んでも良いですか?」
自分が満面の笑みで図々しいことを言っているのは分かっているけれど、名前の呼び捨ては仲良くなるための鉄則である。
ここで不機嫌になられようものなら、急いで『様』をつければいい。
「……別に構わないが」
ぱちくりとしてこちらを見つめたあと、またしても視線を逸らした。
ちょっと耳が赤いように見える。
(これはまさか……ツンデレ!? はぁ。尊い)
レンも同じことを思ったようで、視線を交わした二人は頷きあった。
「僕たち最近ここの料理にハマってて。この店の聖鶏のローストは絶品なんですよ!」
接待大作戦スタートである。
ナンパした以上、楽しんでいただかなくては。
「──あ~ら、それは嬉しいねぇ。はい、聖鶏のロースト、お待たせ。熱いから気をつけなよ。レンくん、今日はお客さんを連れてきてくれたのかい?」
レンがアルに説明していると、給仕係のシータさんが料理を持ってきた。
王都に来てまだ半月だが、ここ最近毎日のように通っているためすっかり常連である。
リオンは自分を結構な美少女だと自負しているし、レンもまた、整った顔をしている。
しかもレンは少年と青年の間っぽい感じでありながら、愛想がいいため庇護欲をそそるらしく、よくおまけをしてもらえるタイプ。
親からは「二人ともちゃっかりしてるわね」とよく言われる。
かわいがられて損はない。
「シータさん、今日のもめっちゃおいしそう! うん、そうなんだ。さっき知り合ったからここの料理食べてもらいたくて」
「この子はまたうまいこと言って。あとでデザートおまけしてあげる。それにしても、とんでもない美形をつれてきてくれたね……まぁごゆっくり!」
厚手の鉄鍋の上に、こんがりと黄金色に焼き上げられた鶏が丸ごと、置かれている。
秘伝の果実酒を惜しみなく塗りこんで、数種類のハーブと共にじっくり火を通した逸品──って、シータさんに説明された。
ナイフを軽く入れると、パリッと音を立てた皮からは肉汁と湯気が一気に出てきた。
リオンはお皿に切り分けながら、会話を弾ませるため質問を投げかける。
「アルはここのお店、来たことあります? 王都では隠れた名店だって聞いたんですけど」
「いや……初めて来た」
「そうなんですね。私たち旅をしていて王都に来てまだ日が浅いから、まだお店あまり知らなくて。でもここがすっごくおいしいから、他のお店を開拓できないでいるんです」
ふふっと笑って、アルに切り分けたお肉を渡した。
もちろんリオンとレンの分もお皿に用意。
(あ、ちょっとレン。そんなジトッとした目で見ないでくれる? それ、完全に『いつもは僕に切り分けさせるくせに』の目でしょ)
確かに、切り分けはいつもはレンにさせてる。
双子といえど、弟は姉の下僕だから当然だ。
でも今日はアルにアピールしておくため、リオンがしたってわけ。
あざといと言われればそれまで。その通りだ。
あ、ちなみに白い子猫のルルにも、今切り分けたお肉をあげた。
リオンの足元でシータさんにもらったミルクと共に聖鶏のローストにがっついている。
ルルもこのお肉、大好きなのだ。
「そういえば、僕たちいきなり連れてきちゃったんですけど、アルはどこかに行く途中だったんじゃないんですか?」
「神殿に行こうと思っていたが──行かなくても良くなくなった」
行かなくても良くなった……とは? と思いつつも、よく分からないことは「ふーん、そうなんですね」で受け流すところがリオンたちだ。
あんまり口数が多いわけではなさそうなアルだけど、ちゃんと質問には答えてくれるからうれしい。
しかもレンが質問した後、アルにじっと見つめられてる──気がする。
(私の美少女清楚っぷりになびいてくれる感じ? はぁ、ほんと目の保養)
見つめられると、その瞳に吸い込まれてしまいそう。
ブラックホールなのかもしれない。
「アルの瞳……すっごくきれいですよね。サファイヤブルー。キラキラしてて宝石みたい」
「ほんと。こんなにきれいな人、僕も初めて見た。AI……いや、国宝級の美形ってこういうのなんだなって」
「そう! それ! さすがレン。私も思ってた! アルって、神が作った最高傑作だよね。見て、この長いまつげに通った鼻筋! お肌なんて陶器みたいにすべすべで嫉妬しちゃいそう」
「それな。繊細なのに力強さもあって、こんな人間いないだろって思うけど、目の前にいる破壊力。出会えてよかった」
感嘆のため息をついていたら、リオンたちの勢いに呆気にとられていたアルは──わずかに頬を染め、顔を逸らした。
「もう……やめてくれ」
「なにそれかわいい」
あ、つい口に出ちゃった。
超絶美形の照れ顔に、心臓が鷲づかみにされちゃう。
気を取り直すようにアルは咳払いをした。
「それで──お前たち二人は一体なんなんだ?」
(……なんなんだ、と言われましても)
──今は詐欺師聖女として活動していて、ソーラン節踊って、みんなからお金を集めてます!
もう少しさかのぼると──家の玄関から突然異世界に転移しちゃった、高校生の双子です!
などと言えるはずもなく。
「えーっと。さっきも言ったように最近王都についたばかりの──エンターテイナーです!」
逆さギャルピース(平成版)と共に、パチン、とウインクをアルに送った。
「……えんたーていなー?」
アルがコテンと首を傾げた。
エンターテイナーという言葉はなじみがないようだ。失敗。




