ノック三回侵入成功、即捕獲②
アルがレンを恋愛対象として見ているとは思っていないけど、リオンとレンがセットということは、アルがレンに対する想いと、アルがリオンに対する想いは同じだということ。
つまり、これほど熱い視線を注がれておいて、別に恋愛として言われているわけではないのだ。
「……あははは、そっか! レンと練習してたんだね。ってことは、レンが女性パート踊ったの? ウケる! 仲良しじゃーん!」
ケタケタと笑い、反発するレンを茶化してみせる。
でも、胸の奥には猛烈な嵐が吹き荒れていた。
自分が怒っていい理由など、何一つないのは理解している。
アルに自分がふさわしくないのも分かってる。
どうせ、自分は異世界の人間。いついなくなってしまうか分からないんだから。
どうせ、ひな鳥みたいに刷り込まれて慕ってくれてるだけ。これから視野が広くなれば、もっと素敵な人がいくらでもいるって気づくはずだから。
──どうせ……自分はレンとセットでしか見られてないのだから。
(呪いさえなかったら、アルの周りにはたくさんの人が集まるよ。だって、こんなにステキなんだから。……お貴族様たちの反発はもっともだよ。それが正しいよ。得体の知れない人間なんてさ。本来アルの隣にいるべきじゃない。)
でも今はまだ。
アルのお化けは完全に除霊できてなくて、毎朝復活してしまっているらしい。
……なんにも見えないけど。
それを完全に除霊しない限り、またふりだしに戻ってしまう。
夜会ということで、王宮から離宮までの道のりは、ところどころライトアップされていた。
リオンは車窓からボーっとそのきれいな光を眺めていたら──。
「──全部終わったら……」
自然と声が漏れてしまっていたようで、「なんのこと?」とレンに聞かれた。
「……ん? 早くお風呂入りたいなって思ったの~。ヒールで足痛い~っ!」
ヒールを脱ぎ捨て、足を宙でバタバタとさせリオンに、レンが白い目で見つめてくる。
「ねーちゃん。さすがにそれははしたないわぁ……」
「いいの。今日は営業終了したから」
背もたれに身体を預けていると、馬車はあっという間に離宮に到着した。
アルが降り、レンが降り、リオンが降りようとしたとき──。
手を差し出していたアルが、リオンをふわりと抱き上げた。
──お姫様抱っこである。
「……ひゃっ!? ちょっ、なに!?」
「足が痛いのだろう? このまま部屋に連れて行ってやる」
完全無欠の王子様みたいな顔……いや、それどころではないレベルの美貌の王子に、お姫様抱っこをされている。
いじわるそうにニッと笑ったアルは、リオンを抱えたままスタスタと歩き始めた。
どうやら、足が痛いと言ったのを真に受けてしまったようだ。
「ねぇ、重いからいいって! 歩けないほど痛いわけじゃ」
「黙って抱えられていろ。それに──暴れると落ちるぞ」
一瞬だけ力を緩めたアルに、落ちる! と思ったリオンは慌ててその首に腕を回し、しがみついた。
「……ずるい」
ぽそりと小さくこぼした声は、アルの胸元で静かに消えた。
勇気を出して向き合おうとするたびに、いつも梯子を外されてばかりなのに──アルはいつだってズルいほど優しい。
結局『リオンだから』ではなく、誰にでも優しいのだ。
(もう……優しくしないでよ。これ以上、かき乱さないでよ。一人として見てくれないなら──ほっといてよ)
そう思ってるのは本心なはずなのに──アルのぬくもりに包まれて、強く抱きしめられていると、心の奥底から『嬉しい』とか『幸せ』って感情が溢れ出してくる。
それが、悔しい。
「リオンは頑張ってくれたからな。甘やかしてやりたいんだ。……今日、本当にステキだった。見惚れたよ。いつものリオンも愛おしいが、たまにはこういう姿もいいな」
耳元で甘ったるいこと言葉を囁かれ、リオンの顔は真っ赤に染まる。
けれど、首筋に顔を埋めているから見えないはず。
「リオンがどれほどバイオリンに打ち込んできたのか、どれほど愛しているのか、会場中の全員に分かる演奏だった。バイオリンが──好きなんだな」
「…………うん」
首に回した腕に、ぐっと力を込めた。
(あれ……なんか、泣きそう……なんで?)
ジワリと視界が揺らぎ、慌ててアルの肩口に顔を埋める。
「たくさん、練習したんだな」
「──……うん」
「また……リオンのバイオリン、聴かせてくれるか?」
アルの服が、リオンの涙でじわじわと湿っていく。
ズッ、と小さく鼻をすすったリオンは、アルの胸元に顔をつけたまま、そっけなく言った。
「……今度、気が向いたらね」
「ははっ! 楽しみにしてる」
抱きしめる腕をさらに強くしたアルが、リオンの頭頂部にそっと唇を寄せた──気がした。
ちなみに、その頃レンはというと──。
帰ったとたん飛びついてきたルルを抱きかかえ、そのお腹のあたりに勢いよく顔を埋めていた。
つまり、猫吸いである。
「みゃ、みゃうっ!」
「いいじゃ~ん。疲れたんだもん。もうちょっと吸わせて」
抗議の声をあげたルルを無視して、レンはお腹に顔を埋めたまま離れない。
ニャンコのお腹の毛はすごくふわふわしてる。あったかい。お日様みたいな匂いがする。
つまり、最高である。
ルルは最近すっかりレンに懐いてしまった。
──レンが四次元きんちゃくからチュールをあげまくって、餌付けをしたからに他ならない。




