ノック三回侵入成功、即捕獲①
◇◇◇◇◇◇
演奏を終え、一通り夜会を楽しんでいたのだが──。
「すまなかった」
王宮の応接室に連れて来られたリオンとレン(もちろんアルもいる)は、第一王子ジュリアン殿下に深々と頭を下げられていた。
豪奢なソファには、国王陛下と王妃様も座っている。
(……何この状況。勘弁してほしいんだけど)
夜会も終盤に差し掛かったころ。
リオンたち双子とアルの元へ「陛下がお呼びです」と伝令が来て、夜会場だった広間を出て、王宮の応接室へと連れて来られ──今に至っている。
リオンは全力で笑顔のポーカーフェイスを保っているけれど、今にも顔の仮面が剥がれ落ちそうだ。
「ほんっと、いきなりこの子は何を言い出したのかと思ったわ!?」
「まったくだ。冷や冷やさせおって」
王妃様と国王陛下は、ジュリアン殿下に本気で憤慨していたらしい。
「最初、義兄上がご乱心されたのかと思いました……途中で気づきましたが」
静かに告げるアル。
あはは、と和やかに笑う王族四人。
そんな中、リオンとレンは、他から見えないよう陰で手をつなぎ、ぎゅっと握ったり緩めたりしながら必死に意思の疎通を図っていた。
(なんなのこれ? なんで和気あいあいとしちゃってんの? どろどろの陰謀うずめく権力の巣窟鑑賞会にはあるまじき光景なんですけど~? 後継ぎ戦争勃発まっしぐらは……どこへ?)
ジュリアン殿下はゆったりと椅子に腰かけ、語り始めた。
「貴族たちの間でな。アルヴィスの隣にいる『聖女』と名乗る異国のあやしい者を排除しようという動きが出ていたのだ」
「結局は、呪いが解けたと思われているアルヴィスに、自分の娘を嫁がせたいという者たちの思惑よ」
殿下の言葉を、王妃様が呆れたように補足する。
「義兄上は自分が悪役になることで、貴族の強硬な声を塞ごうとしているのだと気づきました」
「ふん。浄化の舞を目の前で披露させ、実力で見せつければ貴族たちの余計な口を黙らせられると思ったのだが……まさか足を痛めていたとは知らず、無茶を言ってしまった。申し訳ない」
ジュリアン殿下はニッと笑った。
そこには先ほどまでの『ザ・意地悪王子』みたいな嫌味な顔を一切ない。
(ドレスでソーラン節踊れっていうのも大概だと思うけどね? まぁこの人、私のソーラン節見たことないんだろうし、優雅な舞とでも思ったんだろうなぁ……)
ソーラン節を、この世界の人たちは一体どういう扱いで見ているのだろう、と考えを巡らせたけれど……初めて見たダンスに興味津々になるのは当然だな、と一人納得させた。
……度肝を抜かれる、という意味で。
「──だが、あれほどの演奏は聞いたことがなかった。大変すばらしいものを聞かせてもらった。ありがとう。あまりの音色に、天から浄化の光の粒が舞い落ちてきたのすら見えたからな。聖女としての奇跡を目の当たりにして、自分の娘の方が優れていると思える恥知らずな人間など、どこにもいないだろう」
(天から浄化の光の粒って……さすが王族。音楽に対する比喩表現はばっちりだね)
どうやら彼の心も、音楽で浄化されたらしい。
大広間でのあの煽りも、私たちを陥れるための意地悪ではなかったし……なにより、アルに冷たい家族ではなかった。
(ちゃんとアルのことを考えてくれる家族だったんだね……一応。ほんとかどうかはまだ分からないけど。表面上ならいくらでも取り繕えるしね)
リオンとて本来はそういうのが得意だから、見た目では内心何を思っているかなんて分からないというものだ。
「素性の知れない者を、大切な第二王子殿下のおそばに置いておくわけにはいかないというご懸念はごもっともでございます。ここ最近は練習もできておらずお耳汚しではございましたが、楽しんでいただけたようで幸いでございます」
ニコッと微笑みながらそう締めくくると、彼らは少し申し訳なさそうにほほ笑んだ。
王妃様が、細い息を吐きながら優しく目を細める。
「謙遜がすぎるわ……慎ましい方ね。ところであれは、なんという曲なのです?」
「『鐘』を意味する曲でございます」
「まぁ、鐘……確かにあの澄み渡るような音は、聖なる鐘が鳴り響いているかのようで。弟君のピアノも大変すばらしいものだったわ。ステキな演奏を二人とも本当にありがとう」
お気に召したのなら……やはり素直にうれしい。
リオンたちは照れくさそうに苦笑した。
◇
──帰りの馬車に揺られながら、リオンとレンは深々と馬車内の椅子に身体を預けていた。
馬車に乗ったとたん、リオンとレンのスイッチは切れた。
正していた姿勢をどっと崩し、行儀悪く足を投げ出している。
「……疲れた」
「うん。疲れた」
異世界に来てから数か月。
これほど長い期間をゆるゆる過ごしてきた身としては、王族や貴族の前で猫を被り続けるのはなかなか骨が折れた。
「──気苦労をかけた」
正面に座るアルが、しゅんと肩を小さくすぼめている。
「いや~、楽しかったよ? 久々のダンスも。アル、ダンス上手だね。私、リードがないと踊れないのに」
リオンたちはあの演奏の後、ダンスも楽しんでいた。
一人ではソーラン節とラジオ体操しか踊れないリオンだが、しっかりとしたリードさえあれば社交ダンスも踊れるのだ。
なぜなら、学校の必修科目だったし、母方の実家はそういう教育にうるさかったので。
最初はレンと踊った。周りがうっとりと見惚れていて、大変気持ちがよかった。
そのあとはアルと。
アルが踊れるとは全く思っていなかった(ぼっちだったはずだし)ので、手を取られたときは驚いたけれど、大変スムーズだったことに、さらに驚いた。
「……ここ数か月、練習していた」
アルがじっとリオンを見つめたあと、照れくさそうにスッと視線を逸らした。
『……もしかして私のために?』と思い、心臓が跳ね上がった。
(──いや、待て待て。勘違いするな、私。何度それでやられたんだ。うぬぼれるな)
「まったく、大変だったんだよ……毎夜毎夜、僕の足が踏みつぶされそうな勢いで練習させられてさ」
隣のレンがため息をつきながら暴露した。
アルが少しだけ頬を染め、レンに対し「なぜ伝えるんだ」と言いたげに口をとがらせている。
(……ほ~ら、やっぱりまたレン!! またレンと夜ごといちゃいちゃ練習してた! あっぶな。また勘違いするとこだった。……バカみたい)




