権力の巣窟鑑賞会……?②
◇◇◇◇◇◇
(……なんなんだこの二人は。歩幅も、歩き方も、背筋の伸ばし方から視線の配り方まで──完璧なのだが。やはり離宮で見たあの姿はまぐれではなく──)
シャンデリアの光を浴びながら、大広間を優雅に滑る二人。
エスコートする自分の手に預けられたリオンの指先からは、かすかな震えすら伝わってこない。
緊張どころか、完全にこの空気を楽しんでいるような余裕すら感じられた。
リオンを挟んだ反対側にいるレンも、同じ様子。
普破天荒な二人のスイッチが入る瞬間を直接見たにもかかわらず、一瞬で双子が別人になってしまったような気がしてならない。
(──落差が激しすぎるだろ! 普段のあの言動からこれは想像の付きようがないだろう。真ん中はなかったのか、真ん中は!)
心の中で叫びながらもエスコートの手を緩めることはなく、ゆっくりと大広間を進む。
周囲の貴族たちが息をのむ気配や、探るような視線が痛いほど突き刺さる。
この視線は二人だけではなく、アルヴィス自身にも注がれているのだが。
双子は笑みを一切崩さない。
「まずは挨拶に向かうが、良いか?」
「主催者にご挨拶するのは当然ですわ」
「僕たちのことでしたらご心配なく。参りましょう」
きりっとした二人のあまりに頼もしい言葉。
アルヴィスは微かに緊張を緩め、唇の端を上げた。
「──では行こう」
大広間の奥、一段高い赤いじゅうたんが敷かれた上座には、国王夫妻──つまりアルヴィスの父と義母、そして義兄である第一王子・ジュリアンが優雅に腰かけていた。
三人が進み出て足を揃えると、国王から声がかかった。
「よく来たな、アルヴィス。そちらが例の者たちか?」
「はい。父上、義母上、義兄上、本日はお招きありがとうございます。こちらは私の客人で──」
「リオンと申します」
「レンと申します」
リオンは揺れるドレスの裾を華麗に揺らしながらひざを折り、美しいカーテシーを。
レンは背筋をただしたまま胸に手を当て、寸分の狂いもない角度で、深く頭を下げてみせた。
(……完璧すぎる)
完璧な作法に、周囲から見惚れているような感嘆の声が漏れ聞こえてきた。
国王が満足そうに深く頷いた。
「面を上げよ。これほどまでに美しい者たちだったとは。──噂に聞く『聖女』とは、そなたのことであろう?」
リオンに注がれる国王の強い視線に、アルヴィスはわずかに息をのんだ。
急激に静まり返る大広間。
誰もが今この瞬間、リオンに注視していた。
(リオンが答えにくければ俺が……!)
アルヴィスが口を開こうとしたその瞬間。
リオンはゆっくりと視線を上げ、ふわりと胸の前で手を重ねた。
その表情は、慈愛に満ちた穏やかな笑み。
「──滅相もございません、国王陛下。わたくしが聖女など、あまりに恐れ多いことでございます。こちらの皆様は親しみを込めて、愛称としてその名で呼んでくださっているようですが……わたくしたちはアルヴィス殿下のご情意にあずかる異国の客人にすぎませんわ」
完璧な謙譲の言葉。
(……そういう設定なのか?)
そう言われて思い返せば──確かにこの二人は自分たちのことを「聖女」だとは一度も言っていなかった気がする。
ではなぜ彼女は聖女と呼ばれているのか。
そんなの、ただ一つしか理由がない。
瘴気が浄化できるのを皆、目の当たりにするからだ。
◇◇◇◇◇◇
(ふっふっふ……! 私たち自分から聖女って言ったこと、ないもんねーだ!)
これがレンとリオンの、詐欺師とばれたときのための最後の砦。
二人は数々の街で舞(ソーラン節)を披露してきたが、最初から人が集まるわけはない。
その時に使ったチラシが──これだ。
【『聖女の再来!?』と噂の、奇跡の舞。 本日正午より広場にて開催!】
決して自分たちから聖女とは言わない。
噂されていることをそのまま書いただけで、名乗っていない。
(誇大広告してないもんね。断定なんて一度もしてないし。聖女様~! って呼ばれるから、愛称として受け取ってウフフって手を振ってただけだし)
お金はちゃんともらっていたけれど、それすらも自由価格。
一円でもいいし、十万でもいい。
当然、事前に「聖女」と匂わせることでそう呼ばれるように仕組んでいるが、断定はしていない。
今、この会場内は──。
「名誉を誇ることのないその態度……!」
「まさしく聖女様!」
勝手に感銘を受けてくれている気配がひしひしと伝わってくる。
……とはいえ、内心では本当に大丈夫だろうか、と少しばかり冷汗をかいている。
『たわごとを!』とか言って問答無用で切られてしまう世界だと、もう終わりだ。
いや、今のところそんな世界な感じはしなかったけども。
そんな中、国王の隣に座っていた第一王子ジュリアン殿下が、クク……と喉を鳴らしておかしそうに笑った。
「ほう。謙遜か、それともただの無能隠しか……」
ジュリアン殿下は冷ややかな視線でリオンとレンを見下ろすと、立ち上がり、一段低いフロアへとゆっくり歩みを進めてきた。
「身なりと作法だけはどこぞの令嬢並みに整っているようだが……巷で噂の奇跡とやらは、どうせアルヴィスの仕込みか、あるいはペテンであろう?」
その言葉を聞いた瞬間、リオンとレンの目が輝いた。
(……キタぁ~~~~! テンプレ通りの嫌みな展開っ! え、ドロドロしちゃう? これからしちゃう~!?)




