権力の巣窟鑑賞会……?①
◇◇◇◇◇◇
煌々と灯りが灯る王宮の車寄せでは、次々と高級馬車が横付けされ、着飾った貴族たちが降り立っていく。
リオンは思わず感嘆の声を出した。
「なるほど~。王宮はこうなってるんだね」
「離宮よりやっぱりでかいな」
「でも私は離宮の造りの方が好きかな。ロココ調っぽくてかわいい」
「……ほら、到着したぞ。そろそろ降りる準備をしてくれ」
緊張したアルヴィスの声に、リオンとレンは「はーい」と小声で返事をした。
「……じゃあレン。馬車から降りるときに『オン』ね」
「了解。よっしゃ~! 楽しむぞ!」
扉が開かれ、アルが先に降り、そのあとでレンが降りる。
二人してリオンへ手をスッと差し出してきた。
レンは見知った姿だからともかく、アルの姿があまりに美しくて。
(……ほんとずるいよね。カッコ良すぎるんだよ)
一瞬見惚れそうになりながらも──リオンはスイッチを切り替えた。
アルとレンの腕にそっと自分の手を重ね、背筋をスッと伸ばす。
超絶美形と、極上の美少年(に見えるであろう弟)のダブルエスコート。
「リオン。絶対守るから……俺のそばにいてくれ」
アルが耳元でささやいた。
真剣なその表情に胸がトクンと……いや、バクンッ!と大きく飛び跳ねた。
(……もうね? 正装を初めて見たときから、アルすっごいから!?)
軍服をベースにした豪華絢爛な礼装は濃紺。ジャケットには金の刺繍が入ってる。
肩から胸にかけて垂れさがる金色のアギュレット。胸元に光る勲章。
腰には儀礼用の剣が差されている。
アルの銀髪がとてもよく映える服装だし、髪もちゃんと顔が見えるようにセットされていた。
(あれはね、もう──顔面国宝。これが傾国……いや、世界が滅ぼせるレベルの史上最強の美しさだよ? そんな人に耳元でささやかれてみて? 熱い視線込みだよ? もう……爆散しちゃうでしょっ! 私のスイッチがオンになってなかったらもう砕け散ってるからね!?)
と思いつつも、この状態のリオンは完璧なポーカーフェイススマイルを保つことができるため、このような内面を一切見せることはないのだが。
どんなに取り繕おうとも、中身が変わることなどないのだ。
リオンはふっと静かにほほ笑んだ。
「ありがとう存じます。わたくし、アルヴィス殿下とレンさんのそばを離れませんので」
「…………っ!?」
アルがリオンを二度見して、驚愕の表情を浮かべた。
「姉さま。ご安心ください。僕もおそばを離れません。──不本意ながら」
「……っ!?」
アルがレンへ振り向き、またしても目を丸くしている。
きっと離宮エントランスでの所作は、なんちゃってのまぐれだとでも思っていたのだろう。
これでも本来は一日の大半はこちらの姿で過ごしていたわけだから、馴染んでいて当然のこと。
オンとはつまり──学校モードのことである。
母も通っていた、お嬢様学校と名高い我が女子高。
エスカレーター式ミッション系の伝統校であり、普段の挨拶は「ごきげんよう」が基本だ。レンは男子校だけど、こっちも似たよう伝統校。
我が家は母方が名家である。
学校内では自分の両親のことを「お母様、お父様」と呼ぶのが原則。
外では弟レンのことも「レンさん」呼びするし、レンだってリオンのことを「姉さま」呼びにする必要がある。
家から制服で一歩外に出た時点で、口調は丁寧なものにしなければならない。
誰に見られているか分からない。制服は危険。
その反動からか、家での口調は雑なものとなっている。
母も実家に行くとかしこまった話し方となるけど、家では雑。
外でも家でも学校の口調のまま、という同級生もいるけど、リオンたちの家は反骨精神高めだった。
家では普通に、今どきの言葉を使う。
人間、使い分けが大事。
そのため今、服装に合うそれ相応の言葉遣いを、と学校モードになっているわけだ。
さすがにここまでゴージャスなドレスを着たことはないけれど、なんとかなるはず。
TPOの振る舞いができるなら、離宮は王子の城なんだから普段からちゃんとすればいいのに! というツッコミは不要。
その振る舞いが「できる」というのと、普段から「やりたい」は全く別のものなのだ──。
それに、オフモードで会った人とは、その後も常時オフモードが基本。
逆もまた然り。
……異世界に来てからずっとオフモードだが。
「あら、レンさんったら。不本意だなんて、面白いことをおっしゃるのね。うふふ」
うふふ、ははは、とわざとらしい笑みを浮かべたリオンとレンは、さぞかし仲睦まじい美しき姉弟に見えていることだろう──。
(でもね。今日絶対やらなきゃいけないことがある。アルを、誰からも『呪われた王子』だなんて攻撃させないってこと。私たちの存在が、あなたのプラスになるように。なにも返せてない私たちは、恩返しするためにここに来たんだよ。……もちろん暇だったのもあるけど!)
リオンは、アルの腕に添える手に、少しだけ力を込めた。
ようやく恩返しのチャンスだ。
ツルの恩返しならぬ、双子の恩返し。
「──アルヴィス殿下。ご安心ください。殿下の客人として参加する以上、決してあなたの名誉を損なうようなことはいたしません」
「必ずや、アルヴィス殿下の地位が付加価値がつくよう、動いてみせますので」
正面を向いたままのアルは──「……お前たちは本当に予想外のことばかり考えているのだな」とわずかに口角を上げた。
◇
──入り口に立った三人に、会場中の視線が一斉に集まった。
「あれは──アルヴィス殿下か!?」
「……美しい。真ん中の女性はどこのご令嬢だ」
「あの貴公子はどなたなの!?」
ざわめく会場内を遮るように儀典官と呼ばれるアナウンサーが、儀礼用の杖で床を二度叩いた。
「第二王子アルヴィス殿下! リオン様! レン様!」
ゆるりと魚が泳ぎ出すように滑らかに、微かな笑みを浮かべ歩き出した。
「──……リオン……噂の聖女か?」
「あんなに美しい方だったのか」
「うそ……じゃああちらの殿方は聖女様の弟の!?」
「なんてすてきなの」
ざわめく声が止まらない。
(うんっ! この声最高! そうそう。おしゃれしてる時くらい賛美の声が欲しいよね~。あ~、ぞくぞくして気持ちいいっ!)
完璧なお嬢様スマイルを張り付けたリオンは、満足していた。
外側を擬態することはできても、中身は別に変らない──。




