ぼっちの王様④
◇◇◇アルヴィス◇◇◇
一時間後──。
「……信じられない」
着替えを終えて、離宮のエントランスに現れた双子を見て、アルヴィスは思わず息をのんだ。
控えていたメイドや執事たちも、口をあんぐりと開けて固まっている。
濃紺の燕尾服を美しく着こなし、スッキリと髪を整えたレンは、どこからどう見ても上位貴族の令息。
そして、アルヴィスが用意していた最高級のドレスを身にまとったリオンは──洗練された立ち姿で気品あふれる微笑みを浮かべ、まるで絵画から出てきた本物の姫君のようだった。
水色から淡い紫へと繊細なグラデーションを描くそのドレスは、幻想的な美しさを放っていた。
レース仕立てのチョーカーは大きな一粒ビジューが垂れ下がり、華奢な首筋を際立たせている。
胸元はハート型にカットされたビスチェタイプのドレスは、スッキリとしたデコルテライン。
両肩の装飾から流れるシフォン素材のアシメントリーなロングスリーブは、動くたびに揺れて光り輝く。
スカート部分も幾重にも重なるシフォンが美しい層を成し、歩みを進めるたびに海の中を優雅に泳ぐ熱帯魚のよう。
アルヴィスを見て、一瞬目を見開き硬直したリオンだったが、すぐさま完璧な淑女の笑みに戻った。
レンがリオンをエスコートし、ゆっくりと歩いてくる。
今までの二人とは、なにより姿勢が違う。
これは、一朝一夕で身につくものではないということを、この場にいる誰もが知っていた。
着付けをしていたメイドたちも二人の後ろに付き従っているが、非常に困惑した表情となっていた。
自分たちが仕上げたものの、ここまで開花してしまったことに、とても信じられない様子。
茫然とするアルヴィスに向かって、階段を下りたリオンは優雅にドレスの裾を少し持ち上げ、完璧なカーテシーを披露してみせた。
「ごきげんよう。お待たせいたしました。アルヴィス殿下」
今までのかわいらしい雰囲気だけではない。
凛とした美しさが備わっていて──。
(リオン、なのか? なんなんだこの美しさは。ただ着飾っただけではこうはならない。なにより、所作が完璧で……これは完全に上位貴族のものだ。視線一つ、表情一つとっても、今までとはまるで別人ではないか)
「ごきげんよう。殿下。こちらの装いで問題ございませんか?」
レンも胸に手をあて、静かにほほ笑みを浮かべながらたずねてくる。
この場にいる全員がこくこくと頷くだけで、声を出せずにいたら──。
「……なぁんちゃって! どう? 似合ってる!? リオンちゃん、かわいい!? ていうか、どう見てもめっちゃかわいいよね!? やばすぎない!?」
「──完璧すぎて本当に怖いです。リオン様……」
一瞬でいつものへらへら顔に戻った双子に、リオンを着つけたメイドが、胃を押さえながら呟いた。
「え、なにそれ。ひどーいっ!」
「ねーちゃん。身だしなみさえきちんとしてれば、人間なんとかなるもんなんだよ。馬子にも衣裳って言うだろ? こんな最上級の服着て、いつもより悪くなってたらもう最悪だよ」
「レン、あんたヒールで踏まれたいの?」
「うわ、まじで勘弁して! これまで何回踏まれたと思ってんだよ」
「いつまでも昔の話をしない。──よし、じゃあ行こうか! 陰謀うずまく権力の巣窟鑑賞会……じゃなくて、夜会へ!」
「おうっ! めっちゃドロドロしてるとこ、見れるといいな!」
元気よくこぶしを突き上げたリオンとレンだが、誰もが思った。
……どこに行こうとしているんだ、と。
(なんなんだ。「陰謀うずまく権力の巣窟鑑賞会」って。ドロドロしてちゃだめだろ)
この二人はどこに行っても楽しもうとするのだな、と思うと、笑いがこみ上げてくる。
きっと窮屈な思いをするだろう、このようなことになって申し訳ないと思っていたが。
気が楽になったアルヴィスだった。
ふとリオンの後ろを見ると、胃痛メイドがまたしても「……うっ!」と胃を押さえた。
彼女は侍女としてリオンにつくため、夜会でも行動を共にする予定だ。
……少しかわいそうになってきた。




