ぼっちの王様③
◇
──今日のリオンとレンは、厨房でおやつを盗み食いし、メイドをシーツの陰から驚かし、バラ風呂用に花びらをむしり、ルルと庭で鬼ごっこをして──。
──つまり、猛烈に暇であった。
「僕たちさぁ。最近暇すぎて幼児化してない?」
「うん。解き放たれすぎて一か月絶たずに、私、もうギブアップしそう」
衣食住はアルが完全に保証してくれている。
肝心の『詐欺師聖女活動』はというと、現在絶賛休止中だ。
理由は単純。
規模が大きくなりすぎたことと──神殿のパパラッチ(本物の神官)に追われ始めたこと。
「リオン様、どうかお話を! そのお力はいつから!?」
「お話を聞かせてくださいっ!」
「あなたのいるべき場所はそこではない! 神殿へお越しください!」
最初こそ、厳かな雰囲気だった彼らだけど、あっという間にイメージを変えた。
詐欺師だと疑われている様子はないのが幸いだけども……そもそも関わりたくない人たちだ。
……それなのに、すっごいグイグイくる。
彼らはリオンたちに執着しまくっており、なんと離宮にまで押し寄せていた。
警備上、中に入ることは不可能ということは幸いだったが。
そんなところに、さらに──。
「聖女様とはいえ、あのような舞……優雅さがございませんわ。異国の庶民ですのね」
「お美しいアルヴィス殿下のおそばにふさわしくないですわ」
──なんて、扇をパタパタさせながら、嫌味を言いに来た貴族のお嬢様方とエンカウントしたからだ。
(SNS上の匿名暴言に比べたら、ふかふかのお布団に包まれているレベルで優しい苦情なんだけどね~。ほんとその通りだし)
そんなお嬢様方も、ニノの集金袋にちゃっかり多額の寄付を入れてくれるのを目撃した。
(……え? そんなにくれるの? ツンデレなの?)
お嬢様方へお礼ににっこりとほほ笑み、手を振って別れたわけだが──。
さすがに目立ちすぎたと反省したのだ。
引き際は大事。アルに迷惑はかけられない。
……そう思って活動を控えた結果が、この『暇を持て余した双子の幼児化』である。
「はぁ……なんか刺激的なこと起きないかなぁ」
リオンが膝の上のルルを撫でながら空を仰いだ、まさにその時。
ばたばたと慌ただしい足音が近づいてきた。
「……あれ? アルだ。おかえり~」
「おかえり。今日帰るのめっちゃ早くね?」
すっかり腑抜けた声でへらへらと笑うリオンとレン。
呑気な双子に反して、急いできたのか汗ばんでいるアルはこわばった表情をしていた。
「悪い二人とも──今日の夜、王太子主催の夜会に招かれてしまった」
申し訳なさそうに視線を地面に落としたアルに、双子はぱちぱちと大きく瞬きをする。
最初に口火を切ったのはレン。
「……夕飯一緒に食べれないってことだろ? そんなの気にするなよ!」
あはは、と笑い、手首から先を力なく左右にひらひらと振った。
「そっかぁ、夜会とかあるんだねぇ。王子様は大変だね。あ、正装したら絶対見せてねぇ。かっこいいだろうなぁ」
リオンは暇を持て余しすぎて、もう声すらふにゃふにゃである。
思考がまったく働いていないのだ。
アルがグイグイ来るのを赤面しつつも、反対側にいるレンを見て毎回スン、となり『アルだってこれは恋愛感情じゃないんだから。懐いてるだけ』と自分に言い聞かせていたわけだが。
……そんな緊張や心の機微すらも忘れ、今のリオンは完全に腑抜けている。
お昼を食べたばかりで、お腹がいっぱいなのだ。
アルがじっと二人を見つめ、はぁ……と大きくため息をついた。
「──お前たち二人も連れてくるように言われたんだ。嫌なのは分かっているが」
「「行くっ!」」
がばりと起き上がった双子は、つい三秒前までのだらだら感を忘れ、急激に覚醒した。
同時に上がった食い気味の声に、アルは拍子抜けしたように目を丸くした。
「……えーっと。嫌ではないのか? 探られるような真似をされるかもしれないし、なにより面倒なマナーや言葉遣いを指摘されて、きっと嫌な思いをすることになると思うぞ」
「「ぜんっぜんOK!!」」
またしてもハモるリオンとレン。
急激に思考が鮮明になってきた二人は、お互いに顔を見合わせてニタァ……とあやしい笑みを浮かべた。
暇すぎて死にそうだったところに、ドレスコード付きの刺激的なエンタメが舞い込んできたのだ。
これに乗らなくて、なんに乗るというのだ。
「ドレスはクローゼットに入ってるあの中から着ればいいの?」
「あ、ああ。夜会でも問題ないのを揃えているはずだ」
「僕もあの燕尾服着たらいいのかな?」
「ああ。……断り切れず本当に申し訳ない。もう、ただひたすら黙って笑みを浮かべているだけでいいから。あとは俺がなんとかするから」
「「ノープロブレムッ!! 任せて!」」
キラン、と星が飛ぶようにウインクをし、親指を立てた二人だったが──。
アルだけではなく、集まってきていた護衛も、執事も、メイドも、すべての人が同じ表情を物語っているのくらい二人にも分かる。
──……絶対、任せられない……と思われてる顔だ。
メイドが顔面蒼白で胃を押さえている。
執事がめまいを起こしたのか、ふらりと倒れそうになり、すぐそばの木に手をついた。
リオンとレンは遠い目をして悟った。
これが、今まで自由なふるまいをしてきた代償か──と。
…………まったく信用してもらえていない。
「……なるほど。私たち、オオカミ少年ってやつね」
「だな。僕たちを信用できる要素が微塵もないんだ」
腕を組み、うんうんと頷いてみたものの……その場にいた双子以外の全員が思ったことだろう。
──自分で言うな……と。




