ぼっちの王様②
◇
──ルルの巨大化を目撃していた屋敷の者たちには、外部に漏らさないよう、離宮の一室に集まってもらっていた。
「ルルが『銀嶺の守護獣ルミナーク』なのは決定だろう。だが、二人は知らない。あの二人に明かすと……よそにバレる危険性が増す気がしてならない」
アルヴィスが告げると、全員驚きの表情をしたあとで──肩を落とし、苦笑しながら「……そうですね。そう思います」と同意した。
双子の破天荒さを散々目の当たりにしてきた使用人たちだ。
理解が早くて助かる。
「二人にもそうだが、外部にもルルの正体を完全に秘匿とする。これは命令だ」
「では、王宮にも報告しない──ということでよろしいでしょうか」
老執事が硬い顔でたずねた。
本来であれば、王宮側に伝えるべきなのは当然のことだが──そうすればどうなるかは目に見えている。
王宮で保護しようと、双子ともども囲い込もうとするはずだ。
それはきっと、自由な二人にとって非常に窮屈なことなのは目に見えているし、アルヴィス自身、二人を手放すことは望まない。
とはいえ、リオンの聖女としての知名度はどんどん増している。
王宮に見つかるのも時間の問題かもしれないし、すでに名が届いているかもしれないが──まだ今は。
アルヴィスはきっぱりと頷いた。
「──もちろん王宮にも、だ。今まで通り、ルルは猫だ。ルルの前でも二人の前でも態度を変えるな。詳細を決して明かすな」
「御意」
集まった者たちは一斉に胸へ手を当て、静かに頭を下げた。
アルヴィスはこれ以上のことを彼らに共有すべきか、先ほどから迷っていた。
だがこの先、いろんなことが暴露してしまえば、離宮に踏み込まれることもあるかもしれない。
それなら──全員で協力すべきだ。
「薄々気づいていただろうが──あの二人は自分たちがどれほど偉大なことをやっているのか、何も分かっていないんだ。あの二人は多分、いや、確実に……瘴気が見えていない。俺は──二人を守りたい。神聖視されすぎた結果、神殿や王宮の奥に閉じ込められて、喜ぶような二人ではないと思うから」
アルヴィスは静かに、だがきっぱりと伝えた。
「……それは」
「そうでしょうね」
「はい。確実に」
「王宮は似合わないかと」
「貴族に上からモノを言われようものなら、お二人は全力でいたずらを仕掛けそうで……心痛でこちらの身が持ちません」
顔をしかめ、胃を押さえているのは、リオンたちの世話を任せているメイドだ。
(……あいつらは俺の見ていないところで一体何をしたんだ……)
後から知った話だが、二人は暇になるとすぐに使用人を巻き込んでかくれんぼをしたり、こっそり厨房に忍び込んでつまみ食いをしたり、アルヴィスの王宮からの扱いように憤慨し、どうやって懲らしめてやろうかと笑いながら架空の作戦を練っていたらしい。
──こうして、離宮一丸となっての隠ぺい作戦は静かに決定したのだった。
◇◇◇◇◇◇
あの日「覚悟してろよ」とアルに言われて以来──。
夜、寝る前に「おやすみ、リオン」と腕の中に閉じ込められるように抱きしめられたり。
ソファで寛いでいるときに、当然のように肩に回された腕で引き寄せられ、耳元に触れるほど近くで「今日のドレスもかわいい……すごく好きだ」と、あの極上の低温ボイスで囁かれたり。
至近距離で重なる、熱を帯びたサファイヤブルーの瞳。
触れるか触れないかの距離でささやかれる甘い言葉と、耳をくすぐる吐息に心臓は痛いくらいに跳ねるし、顔から火が吹き出そうなほど熱くなる。
(……ズルいよね。そんな顔で、そんな声で迫られたら……)
国宝級のイケメンに本気で口説かれているような錯覚に、頭がクラクラする。
──けれど。
ふと視線を彼の顔から下へと移した瞬間。
毎回のように、リオンのきゅんとした乙女心は、一瞬で冷や水をぶっかけられる。
(……だからさぁ~!? なんで反対の手でレンの手を握りしめてんの!?)
そう。
アルは左腕でリオンの腰を引き寄せ、熱っぽい視線を投げておきながら──右手はレンの手をぎゅっと握り締めているのだ。
(え、なに? ほんっとありえないんだけど!? なにこれどういうこと!? 私とレンはセット販売なの!?)
最初こそ、アルが自分に惚れてしまった、大変だ! と思っていたけれど。
どうやら、ただの自惚れだったと思い知らされた。
『大好きだよ』みたいな甘々な雰囲気を色気むんむんで全身から醸し出しつつ、しっかり弟も侍らせている男──アル。
(じゃあ……そんな熱い目で見つめて来なければいいのに。思わせぶりな態度で私だけドキドキして……アルには異世界人の私じゃダメなのにどうしようって、すっごく悩んだのに。バッカみたい)
「覚悟してろよ」というあのセリフも、恋愛的な意味ではなかったのは明白。
異世界独特の、なんらかの言い回しだったのだ。よく分からないけど。
人に接してなかったから、リオンたちに懐いただけだったのだ。
(……紛らわしいこと、しないでよ!)
隣に無表情な弟がいるせいでムードなど当然台無しだ。
そういう意味ではなかったということに、ほんの少しだけホッとしているのと同時に──ひどく胸が痛む。
アルの体温と、甘い声がこびりついて離れない。
まんまと翻弄されている自分が悔しくて、リオンはぎゅっとこぶしを握り締めた。




