責任は取ってもらう⑤
本日5話まとめて投稿します。
5話目。
◇◇◇◇◇
「リオン。覚悟してろよ」
アルの指先がすごく熱くて。
そんなことあるはずないのに、触れられた頬がやけどしてしまいそうに感じた。
リオンを見つめるサファイヤブルーの瞳には、ほんの少しの悲壮感を漂わせた『今までのアル』からは感じたことのないような熱と強引さがあって──その宝石みたいに輝くきれいな瞳を、ただ茫然と見つめることしかできなかった。
やがて、自分の胸の音が外まで聞こえてしまうんじゃないかというほど、ドクンドクンと大きく高鳴っていく。
(な、なに!? それってどういう……そういう意味!?)
ようやく頭が状況を理解したときには、リオンの顔は夕日と同じくらい、赤く染まっていた。
超絶美形だけど隙のある、かわいい人だと思っていた。
でも、これはまったくの想定外だ。
王宮に行くようになり、段々とアルにたくましさを感じてきていたのを見ないふりしていた。
これからゆっくり他の人の魅力に気づいて、そのうち、家族みたいな友達のリオンなど蚊帳の外になって──悲しいけれど、そうなるのが適切だと思っていた。
リオンは詐欺師だし、異世界人だ。
アルにはもっとふさわしい、本物の王子様にぴったりな人がいるのは間違いない。
……そう、理屈では分かっている。
分かってるのに──アルはゆっくり成長するどころか、たった一瞬で儚さを宿した空気感を消し去り、好意の矢印のすべてをリオンに向けてきている……気がする。
覚悟してろよ、というのはきっと「これから絶対振り向かせるから、覚悟してろよ」という意味ではないだろうか。
そうとしか思えない。
(ちょ、ちょっと待って。これ……私、耐えられる!? アルに全力で迫られて、逃げ切れ……る気がまったくしないんですけど~!?)
パニックで頭がパンクしそうになっていた、そのとき。
甘い空気を盛大にぶった切るような、間の抜けた声が響いた。
「──で、二人とも、大丈夫?」
「へ!?」
弾かれたようにアルの上から飛びのき、声がした方に視線を移す。
すぐ近くで首を傾げているレンは──真っ白い絨毯の上にゆったりと腰かけていた。
「……ルル!?」
真っ白い絨毯ではない。
キラキラしたクリスタルのツノがついた、巨大化しているルルだ。
「な、なんでルル、おっきくなって……あ」
考えればすぐに分かった。
出迎えるために飛びついたルルが、転びそうになったレンを助けるために自ら大きくなって受け止めたのだ。
ルルはなんて賢いのだろう。
……だけど、これはまずい。
リオンたちを出迎えようと離宮の玄関先にいた使用人たちが、遠巻きにひそひそと、顔を青ざめさせてこちらを見ている。
「うそだろ」
「まさか……! なぜこんなところに!」
(──ルルが、おっきくなる種類だってバレちゃった~~~っ!)
リオンは慌ててルルに駆け寄り、そのもふもふの身体に抱きついた。
あの反応はやはり、非常に珍しい希少種だからに違いない。
(ニックさんが言ったことは、本当だったんだ!)
売られてしまってはたまらない!
「レンのバカっ! なんですぐにルルを小さくしないの? 見られちゃったじゃん!」
使用人たちを指さしながら、ルルが誘拐される危険性が跳ね上がったことに、リオンは半泣きである。
「いや、最初の段階でもう目があっちゃったんだよ。もう隠せないな~と思って、説明のためにも大きいままになってもらってる」
一度見られてしまった以上、説明が必要となのはわかる。
わかるけれど……。
このどうしようもない焦りと憤りをどこへぶつければいいのか。
「……リオン。それは──ルルなのか?」
いつの間にか立ち上がっていたアルが、見たこともないほど顔をこわばらせて、ルルを凝視している。
その直後、金属がこすれ合う音が響いた。
見れば、離宮の護衛や執事、メイドたちまでが、手に剣や槍、ほうきやナイフといった武器を構えて、集まっているではないか。
ルルを中心に、一定の距離を保って、緊迫した面持ちで囲い込んでいく。
(ル、ルルがっ! 売られちゃうっ!)
そう確信したリオンたちは一気に顔面蒼白になり、ルルをかばうように両手を広げて立ちはだかった。
「い、いくらすっごい珍しくて高級な猫でも、ルルは絶対売らないからね!?」
「そ、そうだそうだ! ルルはずっと僕たちの家族だ! いくら金を積まれても、絶対に渡さないぞ!」
キャンキャンと二人が叫び終わるか終わらないかのところで、離宮の騎士が悲壮な声を張り上げた。
「リオン様、レン様っ! 離れてください! それは──魔獣です!」
戦闘態勢に入ったのか、ひどく緊迫した表情をして剣先をルルに向ける騎士たち。
「早く離れてください!」
「殿下もお早く後ろへ! この魔獣、一体どこから現れたのだ!?」
他の騎士や使用人たちも、剣やほうきを手に生唾を吞み込んでいる。
(……ん? 魔獣?)
リオンとレンは顔を見合わせ、同時にコテンと首を傾げた。
実際に見たことはないが、魔獣とは確か──瘴気で凶暴になった動物、みたいな感じだったはず。
この世界では動物すらも精神状態と体調が密接で、ちょっとイライラすると凶暴になる病気にかかってしまうんだな、と以前悲しく思っていたが……。
……どう考えても、今のルルは違う。
凶暴さなど微塵もなく、穏やかそのものだ。
ちょっとやんちゃでいたずら好きなのは、子猫時代ならではの性格。
双子はぎぎぎ……と効果音が聞こえそうなぎこちなさで、首をアルの方に向けた。
(ルルはどう見ても魔物なんかじゃないでしょ!? なんなのあの人たち!? 怖いんですけど~!?)
必死の目力で「助けて!」と訴えかけた。
そんな双子を見たアルは、先ほどまでの緊張をどこかへ放り投げたように、ふっとおかしそうに目を細めた。
そして片手を静かに上げ、周囲を制する。
「良い。これは魔獣ではない」
「ですが殿下! このような巨体の獣、他におりません!」
(え、いないの? いるよ、いる! ルルはちょっと珍しい猫種なんだよ!?)
騎士とアルの緊迫した会話を、ハラハラしながら聞いていたリオンたち。
だが、『巨体=魔獣』と勘違いされているのだとすれば──話は簡単だ。
双子はバチッとアイコンタクトを交わし、力強く頷き合った。
「ルル! 小さくなって!」
ルルに向き直ったレンが叫ぶ。
大型もふもふニャンコだったルルは、ボフンッ! と音を立てて──。
「みゃ~う」
一瞬で真っ白い、両手に収まるサイズの子猫へと戻った。
リオンは間髪入れずにルルを拾い上げ、ぎゅっと胸に抱きかかえる。
「る、ルルは魔獣なんかじゃないですよ!?」
「おっきくもちっさくもなれる、ちょっと珍しい猫種なんです!!」
「だって魔獣って、凶暴なんでしょ!?」
「ルルは全然凶暴じゃないことくらい、みんな知ってるじゃないですかーーっ!」
リオンとレンは必死になって叫び、ルルをかばい続けたのだけれど。
──ふと見れば。
武器を構えていた騎士も、ほうきを握り締めていたメイドたちも。
──全員が、顎が落ちそうなほどにポカーンと口を開けたまま、完全に静止していた。
連投失礼しました。連休中は更新おやすみします。
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