責任は取ってもらう④
本日5話まとめて投稿します。
4話目。
◇◇◇アルヴィス視点◇◇◇
ルルがレンの顔に激突し、レンがバランスを崩したそのとき、アルヴィスは咄嗟に双子二人を抱きとめようと腕を広げた。
レンと目がしっかりと合い、『頼む!』と言われた気がした瞬間。
彼はリオンをアルヴィスの方へ──押し飛ばした。
受け止めたリオンと共にバランスを崩したアルヴィスは、彼女をしっかりと抱きとめたまま、地面に倒れ込んだ。
その刹那。
バチッとパズルのピースがはまるように、今まで気になっていたことの答えが、明確になった気がした。
「……そういうことか」
「え、なに? どこ打った!? 頭は!? 打ってない!?」
彼女の動揺する心臓の音が、自分に伝わってくる。
つまり、自分の心臓の鼓動も彼女に聞こえているということだ。
──リオンとは違う意味での、心臓の音。
無意識にリオンに触れてしまった、あの日。
自分の気持ちに完全に気づいてしまった。
同時に、彼女がそういう目で自分を見ていないことも、はぐらかされたことも理解した。
最初こそ、アルヴィスに近寄ったのは別の理由だっただろうけれど。
結局のところ、離宮に来てからのリオンとレンは──自分を哀れんだだけなのだということも、今では分かっている。
二人は優しく……同時にひどく残酷だ。
あっという間にアルヴィスの心の大半を占めてしまったのに、それはただの同情にすぎなかったのだから。
哀れまれるだけの存在である自分が、情けなかった。
かばわれるだけの自分で、いたくなかった。
対等に見てもらいたい。
聖女であるリオンとレンのそばに立つには、離宮にこもってばかりではいられない──。
双子はやはり瘴気がまったく見えていない。
だが、そのような人間の記録は見たことがない。
そのため、自身が浄化していることすら気づいていないのだ。
だが、無自覚であろうとも、リオンは間違いなくおとぎ話にある『異世界からの聖女』だろう。
常識に疎くふざけた言動の裏で、双子の持つ知性は異常なほどに高い。
この世界の学問体系とは異なる、高度な知識や論理的思考を身につけているのだろう。
離宮の書庫にあった、学者たちが何年も頭を抱えていた未解決の幾何学書ですら、「懐かしい」と言いながら二人で競い合うように解いていたことをメイドが目撃していたし、捨てられた用紙にはその証拠がしっかりと残っていた。
聖女についての歴史書を多数取り寄せたところ、我が国以外ではあるが、ずいぶん昔に異世界から聖女が現れたという記録が二件残っていた。
一人は王族に嫁ぎ国の繁栄のために働き、もう一人は神殿で生涯を神に尽くしたという。
リオンが聖女である以上、どこかに取られてしまう可能性がある。
引きこもりの『呪われた第二王子』という立場は、あってないようなもの。
自分の地位を盤石にするため、王宮へ出仕するようになった。
聖女を任せても良いと思われたい。ただそれだけのために。
そこで一つの疑問が生まれた。
──レンのような存在は、いままであったのか、と。
一番不思議なのは、レンだ。
彼の持つ小さな袋は、明らかにその容積にふさわしくない品物を毎回取り出す。
隠しているつもりのような気もするが、バレバレだ。
双子の出身地が異世界で、チヨダーク村なるところも異世界のことだとすれば──必然的にレンはあの袋から、異世界の品々を取り出していることになる。
彼にしか使えないことは、リオンが「なんでレンにしか使えないの?」とぼやいていたから確かなのだろう。
……今までの聖女は、この世界に残っていた。
なぜだろう、とずっと不思議だった。
帰りたくはなかったのか、と──。
リオンを助けるため地面に倒れたアルヴィスは、その瞬間、唐突に思い至った。
──今までの聖女は、ただ『帰れなかった』だけなのだとしたら?
過去の聖女に、連れの者はいなかった。
だが今回は、初めて現れた『聖女の弟』がいる。
レンはもしかしたらその力を使って、聖女ともども異世界に帰ることができるのかもしれない。
……いや、きっと今はできないのだろう。
双子は離宮や城に目を輝かせてはいたものの、気圧されるようなことは一切なかった。
ときおり「こういうとこ、ほんと不便だよね。●●があればなぁ」と双子同士で耳慣れぬ言葉を小さくぼやく声も耳にした。
つまり彼女たちは単純に学力が高いだけではなく──今のこの国よりもはるかに高度な文明の世界からやってきたのではないか。
……だが、もし即座に帰ることができるのだとすれば、最初から帰っていたはず。
今もここにいるということは、条件がそろっていないのか、まだ自由には帰れないのだろう。
だが、ゆくゆくはきっと──。
(気まぐれに愛情を与えるだけ与えて、去るときはきっと何も言わずに消えるのだろうな、あの二人は。一時の感情しか考えていない、浅はかさ……この二人らしいと言えばそれまでだ。だが──それに対して悲しさはあっても、怒りすら湧かないほどこの二人に……リオンに心を奪われている。二人を憎むことなどできようはずもないのに。すぐに手放すつもりなら──……最初から拾わなければよかったんだ)
ヘーゼルの瞳を不安げに揺らしながら、アルヴィスを見つめるリオン。
アルヴィスにぴったりとくっついているというのに、意識すらしないリオン。
アルヴィスの心の中に、ほの暗い気持ちが宿った。
(──拾ったからには責任を取る必要がある。そうだろ? 責任……取ってもらわないと、な?)
下に敷かれた体勢のまま、アルヴィスは自分の顔にかかっているリオンの髪を、そっと頬をなでながら耳にかけてやった。
リオンが「……っ!?」と身体をはねさせたけれど、腕の力を弱めることなどしない。
背中に回していた腕の位置を少しずらし、逃げられないよう彼女の後頭部を押さえた。
「……へっ!? え、ちょ」
上から見下ろしてくるリオンの顔が、一気に赤く染まった。
これは、家族としての顔なんかじゃない。
明らかに、自分を男として意識した顔。
思わずふはっと笑ったアルヴィスは、腕にさらなる力をて、彼女の頭を引き寄せ、自身の顔の真横──耳元へと抱き込んだ。
(家族としてしか見れないのならば、見てもらえるよう──動くまでだ)
にやりと意地の悪い笑みを浮かべると、
「リオン。覚悟してろよ」
逃げ場をなくした彼女の耳元で、熱を込めてささやいた。
ようやくここまで行きついた!!




