責任は取ってもらう③
本日5話まとめて投稿します。
3話目。
──アルの離宮(ここは離宮というらしい)に滞在して、早一か月。
最近、ルルはすっかり離宮の庭が気に入ったようだ。
リオンたちから離れての個別活動が多くなり、若干寂しい思いをしている。
日当たりのよい、お気に入りのお昼寝場所がいくつか自分で用意している。
虫を見つけて追いかけたり、一人かくれんぼをしていたり。
もうほんとかわいい。
庭師さんやメイドさんも、ルルが癒しになっているようだ。
最近は、『聖女様』がアルの離宮に滞在しているのが徐々に噂になっているという。
しかもアルの呪いが解けたと話題になり、同時にその容姿ももっぱら話題に。
アルに関しては、王宮に行き始めた以上、そうなると思っていた。
「聖女様! アルヴィス殿下の離宮に滞在されているというのは本当ですか!?」
「アルヴィス殿下の呪いを解いたのは、聖女様なのですか!?」
「どうかお話を!」
新聞記者がやってくるようになったため、ランセルさんがSPのようにガードしてくれるという……パパラッチから守られる女優のような状態になっていて、ちょっと面白いような恥ずかしいような。
馬車に二人で乗りこみ、離宮までの岐路に向かう間も、沿道から「聖女様~!」という声が聞こえる。
(完全に私……異世界のトップアイドル!)
ちょっとだけ鼻高々になった。
とはいえ『聖女』という謳い文句がなければ、人が集まることはきっとなかった。
実際、はっきりとこちらから『聖女』と名乗ったことはないのだけど、誘導している。
そこを偽っている以上、詐欺に変わりはないのだけど……お金に罪はない。
そして相変わらず、たまに神官っぽい人がリオンたちと会話をしようと広場にやってくる。
当然、距離を取って会話をすることはないのだけど。
……ただのファンだ。きっとそう。
◇
馬車の中で、聖女用の服をもぞもぞと脱いだ。
肌が見えないよう長袖の上、足首まである分厚い生地の服は、季節が変わり始めようとしている今、なかなか暑い。
もともと脱ぐつもりだったため、聖女服の下に着こんでいたのは、薄手の白いワンピース。
胸元は大きめにあいたスクエアネック。
袖はパフスリーブのワンピースは、ウエストが絞られていてエレガントなシルエットだけど、小花柄のカットワークでガーリーな印象。
一気に通気性が良くなり、爽快感で満たされる。
少し落ち着いたところで、ニノが集めてくれた皮袋を覗き込むと……。
双子の口角が引きあがった。
「うわ、やば。めっちゃ稼いだな!」
「うん! この異世界、ほんと心配になるくらいチョロいわ」
ほんとうにチョロすぎである。
詐欺師が言う立場ではないが、この世界の人にはもう一度よく考えてほしい。
本当にそれでいいのか、と。
素人のソーラン節を見せるだけで、大量に課金してくれる世界って……なんなんだ。
お金になるからやっているものの、気分=体調に直結する彼らが、ただリオンが踊るだけで元気になるなら──。
「なんで私たちの真似する人、出ないんだろうね?」
「だよな~? 踊るの見るだけで元気になるなら、この際自分で踊ればいいのに」
見るより踊った方が元気になる……人もいるだろう。
「もっと後進が育っても良いよね。この際、みんなでソーラン節とか。ソーラン節って本来はそっちだしさぁ。あ、分かった。音楽がないんだ」
「そっか。スマホがないから……」
「え、もしかしてさ。私の踊りじゃなくて、レンの音楽で元気になってる説、ある?」
「まぁソーラン節は音楽ないとイマイチかもだけど、音楽だけだったらみんなポカーンってするだけな気がする。それにねーちゃんはアルの呪い解いてる実績があるわけだし」
「そっかぁ。じゃあやっぱり私のおかげってことかぁ」
馬車内で腕を組み、自分のすばらしさにうんうんと頷く。
「……そう言われるとなんか微妙にむかつくな。でも実際のところさぁ……呪いを解いたって言われても、僕たちなんにも見えないもんな?」
「うん。そもそもほんとにお化け、毎日いなくなってるの?」
見えない双子には、いなくなっててもそのままいても、なんにも分からない。
アルは、リオンが抱きつくと嬉しそうに笑うから、それを基準に「お化け、いま消えたかな?」と予想していたが。
この前、アルの気持ちを目の当たりにして、あの笑顔は違う意味なのでは、と思ったり。
そう思いつつもスルーしたり。
結局、今のところアルとの関係はさほど変わりないものの、朝ハグ以外の接触は少しずつ減らそうとしている。
(だってさ。いきなりスキンシップ激減すると、アルのことだから「嫌われた」ってショックを受けそうだし。元気がなくなった結果、瘴気病になっちゃうかもしれないってことだもんね? こっちの人って、難儀だよねぇ……)
このことを考えると、いつも胸の奥がずくずくと重くなってしまう。
でも、どうにもならないことをを考えていたって仕方がない、と思考を切り替えるようと努力する日々だった。
馬車は王宮を横目に、木立の中を進んでいた。
木々の間から差し込む夕日は、枝葉にさえぎられ、地面に茜色のまだらでやわらかな光の模様を落としていた。
もうすぐ離宮に到着する。
「ねーちゃんさ。朝、アルに触る瞬間って、なんか静電気が来るとか、ぶわっと風が来るとか、そういった変化、ないわけ?」
「……ほんとに、これっぽっちもなんにもないんだよね」
超ポジティブごときで、本当にお化けが消えるのか。
リオンが最上位のポジティブだとすれば、この世界の人々はどれだけネガティブがベースなんだ……と思えてしまう。
(私、確かにオフのときは軽い言動ばっかりだけど、実際そこまで能天気じゃないと思うんだけどなぁ?)
腕を組み、首をひねるものの、何も見えないリオンに答えなど出しようがなかった。
◇
──離宮の玄関前には、すでにアルが立っていた。
最近のアルは毎日王宮へ通っているが、今日は公務が早く片付いたのだろう。
馬車が完全に止まるのを見届けたアルは、静かにステップに歩み寄ってくる。
「おかえり、リオン」
低く色気のある声と共に、彼がすっと手を差し出してきた。
相変わらず無表情気味なのは、まだ表情筋が鍛えらえれていないからだろう。
双子と共に爆笑したときなど、途中から「顔が痛い」と言っていたから。
夕日に照らされて、アルの銀髪が茜色に染まり、キラキラと光り輝いていた。
(……あ、これ、エスコートだ)
ついさっきまでお金のことばかり考えていた詐欺師聖女の自分がウソのように、リオンの胸はひそかに跳ねた。
差し出された手に、ゆっくりと自分の手を重ねる。
「ふふ。ありがとう。アル、王子様みたいだねっ!」
ふざけて明るく言うと、アルは不満そうにほんの少しだけ口を尖らせた。
「……みたいではなく、一応王子なのだが」
接触を極力避けるようにしたいとは言いつつも、こういう時にエスコートを断ることなどできない。
リオンが馬車のステップから降りた、その時。
「アル~、僕のエスコートはぁ?」
間延びした、明らかにふざけている声が背後からした。
もちろん声の持ち主はレン。
リオンとアルがふふっ、と笑おうとした、その瞬間。
二人の間を颯爽と何かが駆け抜け──飛んだ。
「……っ!? わあぁっ!?」
ルルがレンの顔面目掛けて飛び、驚いたレンはバランスを崩し、馬車のステップから足を踏み外した。
レンの身体が、自分めがけて傾いてくる。
(……ぶつかるっ!)
リオンがギュッと目をつぶった瞬間、ドン、と強い衝撃があった。
確実にレンの下敷きになってこける。
どう考えても怪我をする。
打ち身に擦り傷、間違いなし。
(レンのバカバカバカァ!! 後で覚えておきなさいよ~っ!)
傾いでいく身体とともにリオンは恨みがましく思ったが。
「……?」
地面にぶつかり水平になった衝撃はあったものの、ほとんど痛くなかった。
むしろ、何かに包み込まれているような。
恐る恐る目を開けると──地面に横たわるアルが、自身の上に乗るリオンの背中と腰をしっかりと抱きしめていた。
身動き取れないほど、きつく抱きしめられている。
地面とリオンの全力サンドイッチを食らっているアルは──眉間に大きな皺を作っていた。
「ごめんっ! アル、大丈夫!?」
咄嗟にアルがかばってくれたため、リオンは無傷。
「すぐどくから……ん?」
抱きしめているアルは身動き一つせず、手の力も緩めることがない。これでは抜け出すことができない。
「……そういうことか」
「え、なに? どこ打った!? 頭は!? 打ってない!?」
打ち所が悪かったのかと顔面蒼白になり、リオンの心臓がばくばくと大きな音を鳴らし始めた。




