責任は取ってもらう①
本日5話まとめて投稿します。
1話目。
この国の気候は比較的温暖で、カラッとした晴れた日が続く。
それでいて山間部には雨がしっかりと降るようで、水に困ることもさほどないようだ。
高温多湿の日本と比べると羨ましい限り。
離宮に来て半月。
リオンとレンは、週に二度ほど広場に出かけ、ソーラン節を踊り、詐欺師聖女活動を続けている。
離宮にいれば、至れり尽くせりとはいえ、家族ではない他人の家。
いつ放り出されるか分からないのだから、お金をためておくのは大事なことだ。
この異世界で生きていかなければならないのだから。
──王都の広場には大勢の人だかりができるようになってしまった。
「きゃー! 聖女様~!」
「聖女様、ありがとうございます~!」
三人から始まった、王都の観客。
すでに二百人はいると思う。
踊り終えたリオンが微笑みつつ手を振ると、「キャー!」という黄色い大歓声が起こる。
男性からは「うおぉ~~!」という野太い声が。
完全にライブ会場だ。
「きちゃった。私の時代、きちゃった」
「ソーラン節ブームがここまでになるとは」
手は観客に振りながら、口はまるで腹話術のように、ぼそぼそとレンと二人での密談である。
そのとき、目の前がいきなり暗くなった。
屈強な騎士が、双子の前に立ってる。
「リオン様。レン様。危ないのでそろそろお戻りになりましょう」
「あ、はい」
筋肉ムキムキ騎士姿の彼は、アルが双子につけてくれた護衛の一人、ランセルさんである。
アッシュグレーの短髪で、身長も身体もとにかく大きい。
三十代後半だがきりっとした顔立ちで、アクション俳優のよう。
マッチョが好きな人は虜になることだろう。
虜になったうちの一人である我が弟なんて、最近ランセルさんに弟子入り志願して、身体を鍛えているようだ。
筋肉に目覚めてしまったらしい。
そんな細身なのに、どうにかなるのか? と姉としてはいぶかしげに思ってる。
視線を観客に移すと、くすんだ金髪の若い男性が『聖女様』への寄付を集めるため、人の間を走り回っている。
「ご寄付は、こちらへお願いしま~す!」
彼は従者のニノだ。
にこにこと優しげで気弱そうに見えるけど、すっごくすばしっこい。
帰ろうと歩き始めたとき、リオンたちの前に三十代くらいの白い服を着た男性が立ちふさがった。
「──少しだけお時間をいただけないでしょうか。お話を伺いたいのですが」
にっこりとした柔和なその表情に──リオンたちは一気に青ざめた。
(……この服装。きっと神殿の人だ!)
リオンとレンが、自然とお互いの手を握った。
そんな双子の様子を見たランセルさんが、神官との間に身体を割り入れた。
「申し訳ございません。多忙ゆえ、失礼いたします」
リオンたちを守るようにしながら、即座へ馬車へと誘導した。
「ねーちゃん。あの神官の人、なんの用だったんだろう」
……まさか、詐欺師だということがバレたのか。
いや、でもお気持ちのお金しかもらってないし、今まで最低限の対策はしてきている。
喜んでくれてるからお金がもらえるだけで……。
問題ない……はず。
……聖女ではないけども。
「ただのファンだよ。うん。きっとそうだよ」
「だよね。怒った顔してなかったし」
ほんの少しの嫌な予感はしつつも、ひとまず気にしないことにした。
◇
今朝も、良く晴れたいいお天気。
朝食の間へと続く大きな扉を開けると、視界が真っ白な光で満たされた。
テラスへ続く大きなガラス扉は開け放たれ、朝のさわやかな風が吹き込んでいた。
窓を開けると虫が入ってきそうだけれど、そういえば来たばかりのときにたくさんいたあの小さな虫は、一度殺虫剤で退治して以降、全然見かけない。
虫の時期ではなくなったのだろう。
部屋の中央に置かれたテーブルには、小さな鈴のような白いスズランと淡いブルーのデルフィニウムの花が、小ぶりのガラス花瓶に活けられていた。
銀の食器が朝日を反射して、輝いている。
そして朝日の中でひときわ輝いているのが──特等席に座っているアルだ。
彼の銀髪は窓からの光を浴びて、キラキラと白銀色にきらめいている。
(アルってば、今日も朝から発光している……神々しい!)
聖女と呼ばれる自分ではあるが、神々しさは確実にアルに負けている。
目が合うと、アルはスッと目を細め、立ち上がった。
リオンはニコッと笑い、アルのそばまで行き──彼に抱きついた。
「アル~! おはよ~。今日もかっこいいね」
たどたどしく抱きしめ返すアルは、半月も経つというのに、いまだぎこちない。
「おはよう、リオン……レンは?」
「ルルがお庭に出ちゃったから、追いかけて行っちゃった。先に食べててって言ってたから、食べちゃお」
このハグの儀式。
今までスキンシップのなかったアルに、我が家伝統の朝ハグを伝授しているところだ。
祖父がイタリア人ということが関係しているのかは不明だが、伊集院家は親愛の情を包み隠さず表現するスタイルである。
朝起きたとき、出かけるとき、帰宅したときに軽めのハグと両頬へのチークキスを交わすのだ。
さすがに私とレンはしないのだけど、両親にはいつもしていた。
アルにはチークキスはしないまでも、ハグをすることにした。
もちろん、いつもはレンもアルにしてる。
ついでにアルのお化けも、リオンと触れることで一時的に家出してくれるようだし、一石二鳥。
(まぁ、根本的にこのお化けを引き離さないとどうにもならない気がするけど)
毎朝復活してしまうということは、リオンがいなくなれば、アルはまた元通りとなってしまうかもしれない。
どうやったらちゃんと消えるんだろう? と考えてはいるものの、なかなか良い考えは浮かばない。
◇
リオンたちの服は、アルがたくさん用意してくれた。
もともと持っていたものもこの世界で購入したものだし、王都で動く分には問題なかったのだけど、さすがに王子の客人としてはふさわしくなかったのだろう。
今日のリオンの服装は、胸元や袖に繊細なレースがあしらわれた、シフォン素材のクラシカルなロングワンピース。
淡いブルーでかわいい。
席に着くとすぐさま給仕係が歩み寄り、バスケットから焼き立ての香ばしいクロワッサンをトングで取り出し、リオンのパン皿へ置いた。
別の給仕係が目の前の深皿へ、黄金色に輝くコンソメスープを静かに注いでいく。
「ありがとうございます」
そう告げると、彼らは静かにほほ笑んだ。
この部屋にいる使用人たちの顔は、とても穏やかだ。
離宮に来たばかりの日とは大違い。
……ふとアルを見ると、不機嫌そうに眉間にしわを寄せているのはなぜだろう……?
コンソメスープが嫌いだったのかもしれない。
食事をとっていると、途中からルルを抱えたレンが入ってきた。
「見てこれ。ルル、草まみれになっちゃった。バッタ見つけて追いかけちゃってさぁ」
「みゃーう!」
ふわふわした白い毛にたくさん緑の草をつけながらも満足げなルルに、この場にいる全員の目尻が垂れ下がっている。
「ルル、楽しかったの~? そっか、良かったね~」
なぜ人は小さな動物や赤ちゃん相手になると、声がワントーン高くなるのだろう……。
レンの手から降りたルルが、リオンの足にするりと身体をこすりつけ、用意された自分の席(床)で食事を始めた。
みんなルルを見て、孫を愛でるおじいちゃんみたいな顔になっている……。
食事を終え、食後のお茶をいただいているときに、レンがふとたずねた。
「そういえば、アル。今日はどこか行くって言ってなかった?」
「ああ。日中は呪いが消えていることを報告したら、王宮に来るように、と」
「え!? 王宮っ!?」
レンが驚きの声を上げた。
王宮はすぐそこではあるが、林の中にあるこの離宮からは王宮を見ることはできない。
(……王宮かぁ。呪われたアルを、ただ一人離宮に閉じ込めてる家族がいるところでしょ? お化けが憑いてるアルが怖いのは分かるけどさ? なんかこう……もっと何かなかったの?)
じわじわと行き場のない憤りが胸に広がっていく。
それが顔に出ていたのか。
「ふっ。二人ともそんな顔をするな。別にもともと仕事をしていなかったわけではない。会議には出られなかったが、書類でのやり取りはしていたんだ」
「でも、顔を合わせるのってすごく久々なんじゃない?」
「いや、そうでもない。義母である王妃は三か月に一度こちらに顔を出してくださっていたし、第一王子である義兄上も定期的に来てくださっていた。良いお方たちだ」
「……え」
穏やかに告げたアルに、レンが驚きの声を発した。
──王妃はもともと側妃であり、アルの母が亡くなったあと、正妃の座に就いたという。
王妃は義母で、第一王子は義兄だったことを……双子はたった今知ったわけだ。
(……王家の即位問題、勃発! みたいなことにならないといいけど)




