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詐欺師聖女 ~呪われ王子(※ピュア)にめちゃくちゃ懐かれてます〜  作者: 月白セブン


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お化けも逃げ出す能天気②~アルヴィス視点~

アルヴィス視点です



 昨夜のことはただの都合の良い夢だったんだと思ったが……。

 朝食の席にリオンとレンは普通に現れた。


 そして、瘴気まみれで使用人すらも恐れおののいている。


「誰だよ、殿下の瘴気がなくなったって言ったやつは」

「どう見ても、いつも通りお顔は見えないわね……」


 朝、遠くでささやく使用人たちの怯える声が、風に乗って聞こえてきた。

 それなのに双子は、こんな自分の姿を前にして──昨夜と同じように笑った。



「アル、おっはよ~! 今日もかっこいいね! 朝から眼福眼福」

 

 リオンの足元で、白い子猫がミルクと食事を早速食べている。

 こんな自分を前にして、なぜここまで笑顔でいられるのか。

 なぜ、「かっこいい」などという言葉が吐けるのか。


 二人には一体、自分がどう見えているのか不思議でたまらない。



「アル、めっちゃいい部屋ありがとな。朝気づいたんだけど、庭すごいな!? 後から散歩して良い? アル、一緒に行ける?」

「王子様って、やっぱ忙しいのかな? って、うわっ! おいしそうな朝ごはん! ありがとうございます!」



 出された朝食を前にして、リオンが給仕係の男に対して満面の笑みを向けた。

 つい今までおどおどとしていた給仕係は、リオンの笑顔を前にして一気に頬を赤く染め、動揺している様子だった。


 ──その瞬間、なぜか心がざわっとした。


 今まで沸き起こったことのない感情に一人首を傾げていると──給仕係の男がアルヴィスの瘴気が大きくなったことに気づいたのか、一気に青ざめ、頭を下げて退室していった。



「散歩だな。問題ない。案内する」



 昨日はリオンとぶつかったタイミングで瘴気が消えたことを、ただの偶然だろうと思った。


 リオンの通り過ぎたところの瘴気が消えていくことも、双子はまったく気にしていない様子だったから、アルヴィスは自分の見たものを疑ってすらいた。


 だが、今日アルヴィスが瘴気をこれほどまでに纏っていようとも、そもそも気にする様子のない二人。

 そこから導き出されることは──。



(……もしかして、この二人は瘴気が見えていない、のか? そんなことあるのか?)



 和気あいあいと食事をしているが、使用人からすれば呪われた王子は今も健在で、黒いモヤの塊のようにしか見えていないだろう。


 それなのにこの二人はまったく気にした様子がない。

 瘴気など存在していないかのように。



「……二人はどこから来たんだ?」

「私たちはえっと……遠い西の村から来たの。こっち出てきて知ったんだけど、その村、すっごい独自の文化を築いてたみたい。村の住人としかかかわってなかったから、あんまり色々知らないんだ。色々間違ってたらごめんね」



 困ったようにリオンが笑う。



「村の名は?」

「……ち、チヨダーク村って言うんだけど! 田舎すぎて知らないだろ! あははっ」

「チヨダーク村か。勉強不足で存じ上げない。申し訳ない」

「いやいや、知らなくて当然なの。地図にも載ってないって言われてるし~。あはは……」



 彼らの持ち物『サッチューザイ』からすると、絶対にそれは田舎ではない。


 独自の進化を遂げた、非常に発展した文化を持っているのだろう。

 あまり詳しくは話したくないように感じるが、それも当然のこと。


 それほど発展した文化が辺境の地にあるのだとすれば……国の上層部が黙ってはいないはず。


 村が独自に開発したものを手中に収めるべく、兵を率いて進行するのは間違いない。

 隠したいのは当然のことなのかもしれない。



◇



 食事を終えたあと、まずレンが一目散に庭に走って行った。


「早く早く! うわ、やっぱこのバラ、めっちゃでかいぞっ! ほらルル、いい匂いだろ~」


 白猫を抱きかかえて歓喜の声を上げるレンに、アルヴィスの足取りは重かった。



(庭にそれほど楽しいものがあっただろうか。バラか……そういえばそんなのもあったが、レンがいるあの場所にあったか?)



 庭など、離宮に来てから一度も散策していない。

 手入れされているのは知っていたが、興味など微塵もなかった。


 朝も昼も夕も、咲いたばかりの花も枯れた花も……視界のすべては白黒で、何一つ変わりがなかったから。



「アル、早く行こうよ!」



 ──ゆっくりと歩くアルヴィスの手を、リオンが引っ張った。



 その刹那──パンッと音がした気がした。

 そして、視界が一気にモノクロからカラーに変わった。


 昨日の夕方の風景とはまったく違う、爆発的なまでの朝の光がなだれ込んできたのだ。


 グレーだった芝生が、一斉に鮮やかな萌黄色に染まった。

 頭上を仰げば、言葉を失うほどの真っ青な空が果てしなく広がっている。


 長く仕えてくれている庭師が毎朝欠かさず水を上げていたこのバラは、真紅とピンクの二種類だった。

 今までなんの香りもしなかったというのに、色を獲た瞬間、緑や花の香りが鮮明に漂ってきた。



(──これほどまでに……美しかったのか)



 昨夜、すでに色は見えていたはずだというのに、夜と朝ではまったく違う色をしていた。


 色彩の濁流の中、アルヴィスは涙がこぼれそうになっていた。

 十年間見ることのできなかった、色の海。


 庭を愛でることなどないと分かっていたのに、これほどまでに美しく保ってくれていたのは──庭師のカルロ爺だ。


 まだ瘴気の呪いにかかっていなかったころ。

 王宮の庭に出るたびに、たくさんの花や虫のことを教えてくれた。


 アルヴィスが離宮に移ることになったとき、彼も共に来てくれたのは知っていたが──絶望に打ちひしがれていた自分は、他人を気にする余裕などまったくなくて。


(それなのに、十年もずっとこの庭を維持してくれていたのか)


 ずっと誰も自分のことなど気にしない、恐れるだけだと思っていたけれど、気にかけてくれていた人間は本当はもっといたのかもしれない。


 気づこうとしなかっただけで、ずっとそこにあった。


「アル、大丈夫? どうしたの?」


 手をつないだままのリオンは小首をかしげ、顔を覗き込んできた。


(俺の瘴気がまた祓われたのは……やはりリオンが)



 朝の光の中でひときわ輝いて映るのは、リオンだった。


 新緑の風に艶やかな髪をなびかせ、こちらを見つめるヘーゼルの瞳は、アルヴィスの姿が鮮明に映っていた。



 奇跡を起こした当の本人は、自分の神業に微塵も気づいていない。


 無邪気に手を握ってくる姿に、胸を締め付けられる。

 この胸の痛みは、ただこの奇跡を手放したくないからという依存なのか。


 それとも、彼女の無邪気でコロコロと変わる表情に、優しさに、惹かれているからなのか。

 それがなんにせよ、アルヴィスは予感がしていた。



(俺は……この手を手放すことができなくなる気がする)



 自身のためしか考えていない、利己的で、どす黒い執着心。

 そんな自分に反吐が出る。


 その時、おとぎ話を思い出した。



【世界が終焉を迎えるとき、異世界からすべてを浄化する聖女が訪れる。慈悲深き聖女はその身を尽くし、世界を清浄の地へ導くだろう】



 最上位の神官ですら、アルヴィスの瘴気を三分の一も祓うことができない。


 異世界からすべてを浄化する聖女。


 世界を清浄の地へ導いた聖女は、その後どうなったのだろう。

 異世界へと戻ってしまったのか。

 

 もし双子が来たのが、本当は異世界だったら──この二人はいなくなってしまうのだろうか。



 ふらりと立ち寄っただけに見える、自由なリオンとレン。

 ずっとこのままなら、孤独に耐えられたかもしれないのに。


 リオンとレンはなんの意図もなく、空っぽのグラスにあたたかなものを一気に注いでくれた。


 ──たった半日で。


 そんな気持ちを知ってしまって、次の孤独を耐えられるのだろうか。


 アルヴィスはひどい不安に駆られいてた。






本日はもう1話、このまま投稿します。

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