お化けも逃げ出す能天気①
◇
──分厚いカーテンの隙間から、細長い朝の光が差し込んでいることに気づいた。
でもまだ起きたくなくて、リオンがごろりと寝返りを打つと、ベッドにしているルルのもふもふの毛がふわりと頬を撫でた。
ルルの体温があたたかいことに気づき、思わず口元がほころぶ。
ようやく薄らと目を開けると、いつものようにレンが眼前ですやすやと眠っている。
そして──見慣れぬ豪華な天井にステキな壁。
(……そういえばここはアルのおうちだったね)
双子はこちらに飛ばされて以来、すぐそばで寝るようにしている。
なにが起こるか分からないこちらの世界。
二人ならなんとかなると思えたし、単純に近くにいないと不安だから。
見えないところでレンに何かあってたら、と思うと気が気ではない。
多分それはレンも同じ。
レンの四次元きんちゃくだが、通せる物体の直径制限は徐々に広がりを見せている。
今では──三センチから七センチへの進化。
これは非常に大きな進歩である!
ちなみに、別に「テレレテッテレー♪」みたいなレベル上げの音は鳴らない。
いつの間にか広がっていた。
結局のところ、そのうち四次元きんちゃくからあっちに帰れるようになるのではないか、とリオンたちは目論んでいる。
それ以外のネット環境を必要とするものは使えないけど、写真も動画も撮れる。
さらにレンのスマホのマップ機能はその後も使えるままだった。
そのおかげで、道に迷うこともあまり困ることもなく、旅をすることができたわけだ。
きっと弟のスマホも、四次元きんちゃく並みの特殊仕様なんだろう。
なぜレンのだけ……とちょっと悔しい気持ちもするけれど。
最初にリオンたちがいた場所は──なんと、王都から五百キロも離れていた。
東京から大阪の距離。
徒歩なら毎日ずっと歩いて二十日はかかるところだった。
それをルルが夜に巨大化し、人目につかないよう双子を乗せて移動してくれたおかげで、さほど疲れることもなく済んだ。
夜はルルが移動、昼は子猫に戻ってすやすや眠るルルをリオン達が運ぶという連携。
すばらしい。
そして各地にしばらく滞在してソーラン節で稼いでは、また進む──を繰り返したというわけだ。
スマホのマップがあってからこそできた技。
レンがいなかったら、どうにもならなかった。
リオンなどソーラン節を踊ってるだけでなんにも役立ってない……。
……いや、詐欺師聖女として稼げているのは自分のおかげだ。
レンだけでは、きっとお金は稼げなかった。
(……そういうことにしよう。あの日、私がチョコを食べたいと駄々をこねなかったら、レンはきっときんちゃくを開けなかったはずだしねっ!)
つまりすべては姉であるリオンのおかげ。
──自己肯定感が強いのが、リオンの長所である。
……短所でもある。
手紙のやり取りは初日に気づいたため、家族には近況報告ができている状態。
あちらからの手紙も、「母さんから俺たち宛ての手紙!」とレンが念じて四次元きんちゃくに手を突っ込むとちゃんとゲットでき、双方向でのやり取りが可能だが、すべてはレンの意思次第。
時間経過はあちらとこちらに差異なく、急遽事情があってイタリアのおじいちゃんのところに滞在することになった──ということで学校に休みの申請をしてもらっている。
そして旅をして分かったことは、この世界に具体的な『魔法』と呼べるものは存在しないということ。
神殿に行くと瘴気病なるものが少し改善するらしい。
きっと、神殿で神官たちが日夜新しいダンスを踊ってるんだと推測してるけど、ソーラン節には敵わないようだ。
さすが、ソーラン節。
学年全員で踊ったら、きっととんでもない効果を生むはず。
できないけど。
ちなみに神殿には近づいていない。
聖女とみんなに呼ばれるよう誘導し、荒稼ぎしている身としては、本職の人に近づくのは当然危険だから。
ボロが出るに決まっている。
君子危うきに近寄らず、である。
朗報だったのが、聖石と呼ばれる石を動力源とした聖導具というものが存在して、結構便利だということ。
水も蛇口から出る。お湯も沸く。
それなりに高価なので、村にはあんまりなかったようだ。
王都に近づけば近づくほど、聖導具はかなり一般化していた。
レンのスマホから鳴る音楽も『すっごく珍しい聖導具』と思われているため、受け入れられている。
あの村でも、ニックさんが村人にそう説明したら、みんな容易く信じていた。
……異世界、ちょろい。
文字も読めるし、書こうとしたらこちらの文字になる。
芸術全般に関していえば、非常によく似ていると思う。
旅の途中でちらりと見かけただけで近寄りはしなかったけれど、楽器も地球のものと同じように見えた。
だからこそ、スマホからの音楽を珍しいと思うことはあっても、受け入れてくれるのだろう。
だが、リオンたちが決めたことがある。
『レン、いい? 四次元きんちゃくは自分たちが使用するためだけに使うこと!』
『え、なんで? あっちのもの売ったら、簡単に稼げると思うよ?』
『どこから持ってきたのかって聞かれても答えられないじゃん? 他のことで稼げるなら、わざわざ危険をおかす必要はないと思うの』
『……確かに。じゃあ、こっそり……だね』
レンの四次元きんちゃくから出す現代日本の品物を売ったり、人前で堂々と使ったりしない、ということだ。
ニックさんが、『権力者や神殿関係者に保護されるまでは異世界人ということを隠した方がいい』と言っていたわけだし。
リオンたちは詐欺師聖女として活動を始めたため、神殿関係者に保護される道は消滅している。
だが今は一応権力者らしき第二王子のアルの住まいにいるわけだし……保護されたというわけではないけれど、昨夜のチョコと殺虫剤はサービスだ。
これくらいなら、そんなに問題ないだろうと思って使用してしまった。
だって、虫はイヤなのだから仕方がない。
(驚いていたようだったけど、特にツッコまれなかったから……きっと大丈夫だよねっ!)
一人で頷いていたら、レンが身じろぎをした。
「んん~……、ねーちゃん、もう朝?」
「おはよ、レン。朝だよ。起きよ~。ルルもおはよ~」
レンがけだるそうに身体を起こした。
リオンはベッドになってくれていたルルにギュッと抱きつく。
「みゃーう!」
ぼふん、と小さくなったルルがリオンの頬にすり寄ってきた。
おっきくてもちっちゃくてもルルはかわいい。
両方楽しめるなんて異世界の猫、最高である。
◇◇◇アルヴィス視点◇◇◇
──十年ぶりに呪いの瘴気が晴れたアルヴィスだったが、翌朝──鏡を見て愕然とした。
「……瘴気が、戻っている」
鏡の前でも自身の顔など見えないほどに、濃い瘴気が全身から漂っている。
視界がまたモノクロになっていることに気づいた。
元に戻ってしまっていたのだ。
(やはり俺は……呪われたままなんだな)
お読みいただきありがとうございます。
今回はちょっと説明的に話なってしまいましたが、
・ABCチョコサイズ→殺虫剤が出せるように!
・ルルは乗れる!
・レンのスマホはマップが使える!
・到着したところと王都は、大阪から東京の距離!
・魔法というものはないらしい?
・聖導具はある(←なんかそれ、他の作品で聞いたことあるとか言わない)
・アルの呪いは朝には戻った!?←New!
ということでした。
そしてそして…評価やいいね、ブクマなど入れてくださって本当にありがとうございますっ!!
めちゃ嬉しかったです。
すごく励みになりました泣




