騎士の懺悔と、青き「龍脈」の導き
雪解けの風が心地よい午後のことだった。庭では、新入りのルルが楽しげに転がったり跳ね回り、小さな前足で熱心に地面を掘り返していた。すると、掘り起こされた土の隙間から、鮮やかな青い光の筋が、地を這う血管のようにぼんやりと浮かび上がった。
「……何かしら、この光? 暖かいけれど、すごく力強い……」
メグミが不思議そうに覗き込むと、隣にいたカイルがその光を凝視し、重い口を開いた。
「……これは『龍脈』です。大地を流れる魔力の奔流……。かつて王都の騎士団書庫で、禁書に近い古文書の地図に記されているのを見たことがあります」
カイルはそのまま、メグミに向き直り、懐から泥に汚れた「王都の調査員紋章」を取り出した。
「メグミ殿。……隠していたことがあります。私が初めてここへ辿り着いた時、遭難していたのは事実ですが……私は偶然迷い込んだわけではありません。私は王国騎士団から『荒野の異常な魔力源』を調査するよう命じられていたのです。……ですが、あなたの優しさに救われ、この温かな食卓を知ってしまった。私は、任務よりもこの場所を守りたいという私情を優先し、本当のことを言い出せなかった」
カイルは深く頭を下げた。
「エリオットが戻った今、騎士団はここを『王国の資源』として接収しに来るでしょう。……私はハル坊やふくちゃん殿に、いざという時の護身を教え、メグミ殿も結界を多層化して防備を固めてこられた。ですが……本音を言えば、ここを戦場に変えたくはないのです」
メグミは、カイルが差し出した紋章を見つめた。彼がハルたちを鍛えていたのも、自分が「転移魔法を弾き飛ばし、こじ開けようとすればふくちゃんの輝きが爆発する」ような強固な防衛システムを構築していたのも、すべては「平和を守るため」だった。
「……私も、戦いたくないわ。せっかくみんなで仲良くなれたのに」
その時だった。ルルが掘り当てた「龍脈」の光に反応し、妖精さんたちが一斉に飛び出し、メグミの周りで円を描いて踊りだした。
『にげちゃえ!にげちゃえ! ひっこそう!』
『ここの地面、まるごともっていけるよ!』
『いい土地、しってるよ! 森の奥、悪い人間はこられない場所!』
『でも、メグミに会いたい「いい子」なら、妖精の道を通ってこられるよ!』
妖精さんたちがルルの周りでくるくると回ると、メグミの頭の中に、ルルと妖精さんたちを通じて「移住先」のビジョンが鮮やかに流れ込んできた。それは、今の荒野よりもずっと緑が深く、水が豊かな、光に満ちた隠された楽園のような場所。
「……お家ごと、移動できるの?」
メグミの問いに、ルルが「キュイッ!」と力強く鳴いた。カイルが驚きに目を見開く。
「……まさか。この龍脈に、メグミ殿の膨大な魔力を直接流し込み、聖域の結界と同期させるつもりですか!? それなら……このロッジも、畑も、外で草を食むルナシープたちの囲いも、空間ごと切り取って移動させられるかもしれません!」
「……やりましょう。誰も傷つけないために、私たち全員でお引っ越しよ!」
メグミが決意を口にすると、スピカが賛成するように優しく鼻先を寄せ、巨大化したモモも「プィ~ッ!」と頼もしく喉を鳴らした。
カイルは、持っていた王都の紋章を足元の雪解け水の中に静かに落とした。
「……承知いたしました。王都の連中がここへ踏み込む頃には、空っぽの荒野だけを残してやりましょう。これこそが、私の選ぶ騎士道です!」
こうして、聖域の家族たちは、戦わずして勝利し、新たな楽園へと旅立つための、ワクワクするような「拠点まるごと大移動作戦」を開始した。




