徳島の廃病院
居間
「ほな、仕事の話に移るで」
5人の前に出された御茶
リンデルだけはオレンジジュ-スである
「織鶴から話は聞いとると思うけど、今回は[残骸]の処理や」
「その[残骸]って何なんですか?」
「…説明しとらんのかいな」
「忙しくってね…」
「何処かの馬鹿が空港から帰ったから」
「過ぎた事は忘れぇいや!」
「まぁ、ええか」
「一斑」
「はい」
「[残骸]って言うんは四国に存在する能力の残りカスみたいな物なんや」
「残りカス?」
「能力者が死んだ後、その能力者の能力のエネルギ-?って言うんかいな」
「まぁ、そんな物が一定の場所に溜まるねん」
「それが[残骸]」
「処理しなきゃいけないのか?」
「別に放っといても…」
「そうはいかんねん」
「そのエネルギ-はウイルスみたいな物でな」
「能力者っつ-入れモンから出たウイルスは動物とかに感染するねん」
「感染…?」
「そうや」
「人間に害は無いねんけど、動物には有るねんな」
「感染した動物は能力を持った動物になる」
「能力を持った!?」
「どういう…」
「燃える猫とか、凄いスピ-ドで走る犬とかやな」
「何で感染するかは解らんのやけど…」
「感染しないように処理するのか…」
「そう言う事や」
「でも、それだったら四国以外でも…」
「それが、そうでもないねん」
「何でか四国しか[残骸]は発生せんのや」
「何で…?」
「コレはワイの予想やねんけどな」
立ち上がる響
「四国八十八ヵ所って知っとるよな?」
「あのお寺を巡る…」
「そうや」
「ほれが原因ちゃうんかと思う」
「?」
「結界や」
「お寺には神聖な力が有るけいな」
「八十八の寺が作り出す結界でエネルギ-が外に霧散せんようになって溜まっとるちゃうかな」
「へぇ…」
「確証はないで?」
「神聖な力や言うても説明できんし」
「まぁ、理論はともかく、今回は処理するために来たんです」
「彩愛の言う通りだな」
「それで、計画なんだけど…」
「ん、ワイから説明するわ」
「今回は徳島の方に発生してな」
「廃病院やから幾ら壊してもええで」
「廃病院…」
「ほれがやな-、そこの廃病院は心霊スポットで有名やってな」
「人避けの結界はらなアカンねん」
「結界?」
「あ-、蒼空には言いそびれとったな」
「俺が言よった護身用ってのは結界の事やねん」
「どんなのなんだ?」
「見せたれ、一斑」
「解っとりますよ」
「ではでは」
一斑は棚から何か文字を書いた札を出してくる
「よう見よってな」
札の上にコップを乗せ、呪文を唱え出す
「天、浮、物」
「おぉ!」
ふわりと浮き上がる札
上に乗ったコップも浮き上がる
「凄い!!」
「やろ?」
「護符術言うてな、響さんに教えて貰うたんや」
「(眺)」
「リンデルちゃん、興味津々だな」
「俺が護符術を教えとんや」
「師匠の技、見ときぃや」
「(頷)」
「よしよし」
「な-にが師匠や」
「初めてコレやって時はワイに茶ぶっかけたやろ!」
「…苦い思い出やねぇ」
「目を逸らすな目を」
「…話がちょい逸れたな」
「で、その廃病院の見取り図なんやけど…」
ばさりと机の上に出される地図
病院は東病棟と西病棟に別れている
それぞれ4階で、入り口は西と東に3つずつ
「ワイは火星と西病棟に行くけんな」
「一斑と蒼空は東病棟に行ってくれんか」
「はい」
「解りました」
「彩愛は他のトコに[残骸]が集まっとらんか調べてな」
「リンデルは彩愛を手伝う事有るんだったら手伝いや」
「同じ女の子やし安心やろ?」
「(頷)」
「ほれと、全員に携帯電話渡しとくで」
「危ない事有ったら連絡しぃや」
全員に配られる携帯電話
旧式の物で、波斗が持っている物より古い
「ほな、徳島に行こか」
「彩愛とリンデルはここのパソコン使って頼むで」
「解りました」
「(頷)」
「レッツゴ-!や」
「全員分有るけいな、心配せんで良いで」
「おいおい、響」
「何や?」
「電車賃ぐらい出すよ」
「移動費は軍から支給されるし」
「…はぁ?何言うてんねん」
「え?」
「コレや!コレ!!」
「チャリや!!」
家の前に置かれた4台の自転車
「…まさかとは思うが」
「それで徳島まで?」
「余裕やろ?」
「余裕じゃねぇよ!!」
「何で電車使わないんだよ!?」
「電車賃が勿体ないねん」
「使えよ!!」
「え-」
「いつもの事ですから…」
「この前なんて「鳩サブレ食いたい!!」言うてチャリ乗って東京まで…」
「お前の脳みそはどうなってるんだよ!?」
「気合いや気合い」
「ほな、行こか」
「誰が行くかッッ!!」
ドイツ
遺跡最奥
ガラッ…
炎神ガルドラの槍から落ちる瓦礫
「化け物、か」
砕け散る祭峰の仮面
(鉄壁の翁の仮面が崩れるとはな…)
(もう馬常等は逃げ切っただろうし…)
「くははははっははっはっはぁ!!」
「良い!良いねぇ!!」
「壊れるにも程があるだろ…」
道理でおかしいはずだ
幾多の戦場で戦火に晒され、死を目前にしてきた男
幾人の人間を殺し続けた男
幾年に続けてきたそれらの行為
精神を通常に保てるはずがない
壊れて当然だ
…だが、この遺跡に入ってきたこの男は
噂に聞くゼロという男は
人間味に溢れてる
1人の人間として
一個人として
普通の人間だ
何故?
何故、精神を保っていられる?
戦場での負は何処に行った?
発散できる物などではないはずだ
どうやって無くしている?
簡単な話だった
無くしてなど無い
押さえ込んでいるのだ
心の奥底に
あまりに濃密なそれは心の奥底に沈殿し
普段は清い水のように静かに沈んでいる
だが、ゼロが
心の持ち主が揺らしたとき
それは揺れる
あまりに大きく
「どうしたぁ?そんなモンじゃねぇだろぉが…」
「…」
揺れによって波を起こしたそれは心を蝕む
覆い尽くす
支配する
結果的に波はゼロ自信を飲み込み
壊す
「…厄介だな」
あまりに巨大な波
奴はそれを制御しているのか?
…いや、溢れ出す前に出しているのだ
強敵との戦いや戦場で
常に限界ギリギリに保ち、溢れ出す前に出す
危険な行為
一歩間違えれば精神は壊れる
心は崩れる
(それを平然とこなしてきた男、か)
それが軍最強の能力者集団においてNo,3に蹂躙する男
ゼロ
「まだまだだろぉが!祭峰ぇええええええ!!!」
この男を侮っていた
流石だな、No,3よ
読んでいただきありがとうございました