022 凡人に俺のスプシはいじれない
「労働力発見です!ほら、二人じゃやっぱりしんどいですよ!どうにか作業できる人間を増やすべきです!」
「それもそうか」
言われてみればそのとおりである。
いつかは落ち着くだろうが、今はサービス開始直後ということもあって受注のたまり方が尋常じゃない。
俺は時間を忘れて一日20時間作業できるくらい大好きな作業だが、サーヤは時折意識を失ってぶっ倒れている。
目を血走らせて金金金金呟く彼女を見ていると精神衛生的にもよくない。
「なんの話だお」
「うちのデータ分析事業のお手伝いをしてもらいたいんですぅ〜もちろん給料はお支払い致しますので〜」
俺はとりあえず、二人分の真っ白なシートを用意した。
「試しに少し使ってみてくれないか?スキルの検証もしたいんだ」
「それじゃちょっと触ってみますね」
「俺はパスだお。こっちの世界でまで仕事なんてしたくないお……」
「七瀬さんお願いします〜こっちの頭が悪そうなデブには期待してませんでしたし〜」
サーヤがフトシを挑発する。
「し、仕方ない!社会人の力を見せてやるお」
フトシも額に青筋を浮かべながらスプシの前に移動した。サーヤの挑発にまんまと乗った形だ。
「それじゃ俺の指示する通りに記入してみてくれ。まず、=TRADELOG(と入力して、次にSPACEと入力。住所の指定にはEF14-11と記入してくれ」
「できたお」
フトシが凄まじく得意げな顔を浮かべてサーヤと俺の方を見る。七瀬ちゃんはスプシを使ったことがあまりないらしく手こずっているようだ。
「それじゃフトシは関数を実行してくれ」
「あいっよおおおおおおおおお!!!!!」
フトシが絶叫する。
「「やっぱりこうなるか」」
目の前で、フトシが頭を抑えながらのたうち回っていた。
俺はフトシのスプシの関数を削除した。
「あ、頭の中に数字がぶわぁぁぁってなだれ込んできたお……」
フトシが息を整えながら、怯えた目でこちらを見る。文句を言う気力もないらしい。
「え、怖いんですけど!私そういうの嫌ですよ!」
七瀬ちゃんも怯えた顔を浮かべている。
「いったいどういうことなんだお……」
「このスキル、色んな情報が取得できるっていうスキルなんだけど、なんか俺に最適化されているみたいでさ」
俺は普通に説明する。
「俺の情報認識のやり方そのままに、例えば、頭に浮かべた情報を全て一瞬でペーストできるかわりに、書き込む際に記載されている情報全てが同時に脳に認識されるんだ」
今回の場合は何も書かれていないシートをまず渡した。
関数が実行されて出力された瞬間、情報が脳に流れ込んだというわけだ。
「まさにその感じだったお……」
「多分、マルチタスクに慣れてたり、若かったり、数学や計算が得意だったら耐えられないことも無いと思うんだけど……」
俺とサーヤとフトシが期待を込めた目で七瀬ちゃんの方を見る。
飛び級博士課程、年齢は現役女子高生、学術書を読みながら予知スキルを使うという並列処理能力……彼女以上のポテンシャルを持った人材はいないだろう。
「な、なんか怖いんですけど......ちょっと興味もあるのでやってみましょうか……」
七瀬ちゃんは少し照れながら、関数を実行してくれた。
「あ、あ、あ!これは……うわぁ……目がしばしばするぅ〜……」
この子、面白い感想だな。
七瀬ちゃんは半目で遠くを見ながらよたよたしている。
1秒に3回くらいのペースでまばたきをしてどうにか情報を処理しているようだった。
「余裕があったらデータを並び替えてみようか。データを複製して並び替えを思い浮かべてみて」
「は、はいぃ……」
画面上に並び替えられたデータが表示されていく。
「あひゃわぁぁぁぁ……」
頭の中でデータが整列していく感覚に背筋がゾクゾクしているようだ。脳内でのデータの並び替えには独特の感覚があるんだよな。
「それじゃ一回データを消すね」
「はふぅ……」
画面上のデータを消すと彼女の頭の中で踊っていたデータも消えたようだ。
「これって、めちゃくちゃスゴイんじゃない?」
「これは適性アリアリですよぉ!」
サーヤさんも同意してくれた。
「レーヤさんのデータ処理の感覚が知れてよかったです。めちゃくちゃ脳が疲れましたけど……サーヤさんは長時間こんな作業してたんですよね……?すごくないですか?」
七瀬ちゃんが気づいたようだ。
そう、サーヤは長時間スプシを使って作業ができる。
「金金つぶやいてないと心が持っていかれそうになるんで、大変なんですよぉ……」
サーヤができるのはスキルのおかげなのだが、彼女も隠しているようだし俺も言わないでおこう。
「それより七瀬さん!うちで分析手伝ってもらえませんか!お給料も時給1,000Gお支払いしますので……」
「1,000Gじゃちょっと……」
「3,000G!」
依然として渋そうな顔の七瀬ちゃん。
「ご、5,000G……」
「ごめんなさい……」
泣きそうになりながら時給をあげていくサーヤだったが、七瀬ちゃんに断られてしまう。
いやぁ日本円換算時給500円は厳しいでしょう……
サーヤが悔しがりながらバンバン地面を叩いていた。
「まぁこっちの世界でビジネスしようって考えた人間も多いけど、そう簡単にいかない理由がこれだお」
「物価の違いは大きすぎるなぁ……」
「10倍安い労働力がある市場じゃさすがに誰も参入しないんだお。あとは俺達の強みは無限の命にあるんだお」
「リスポーンか」
「死亡しても最寄りの都市に再召喚されるんだお。命が一つっきりのNPCにはリスクが高い、冒険系の仕事が儲かるんだお」
「なるほどねぇ……」
まったく、うまいことできた世界だ。
あのAI、こんなんで大丈夫か?と心配していたが、存外ちゃんと仕事をしているようだ。
「あの、そういえばサーヤさん、パフェっ娘の件はどうなりましたかね……」
そっぽを向いて口笛吹いても無駄ですよ。
「まぁ少し教えて下さいな。この事業、めちゃくちゃ儲かってますけど、王国全土に我々の名前は知れ渡ってますかね?」
「イケてる企業の耳にはだいたい入ってると思いますね」
「じゃあ優秀なパフェっ娘の耳にその情報は入ってますかね?」
「入ってると思いますが、そもそも優秀なパフェっ娘は営業なんかしなくても契約先が決まってるようなもんなんですよ」
俺はサーヤの顔を手で挟む。
んぶちゅう!とサーヤの悲鳴が響いた。
「その情報は聞いてなかったなぁ……」
「ひったら、へったいひぎょうやってふえなかったははいでふか!」
言ったら絶対事業やってくれなかったじゃないですか!って言ってるんだろうな。
「じゃあどんなパフェっ娘が来ると思う?」
俺は少し手を緩めてサーヤに返答を求めた。
「相当な変人が興味本位で、あとは大企業、貴族の令嬢がコネ作りでやってくることをワンチャン期待っていう感じでした」
「先週末の時点で契約の予定がないのに優秀なパフェっ娘なんて、山で修行している〜みたいな超変人か、一族で修行のためのお金をまかなえる金持ちくらいしかいないんですよぉ」
「ふむ……」
今の話を聞くに、実際契約できる見込みも少しはあったんじゃないだろうか。
「どうして誰も来てないんだと思う?」
「実際何人かは来てるんでしょうけど……」
「テナントがボロすぎて儲けてる企業とは到底思えないし、そのまま帰っちゃったっていうのが一番有り得そうですね」
「あとはサーヤさんの鳴き声も問題だお」
金金金金とフトシが変顔をしながらモノマネをした。
「仕方ないじゃないですか!案件も貯まってるし、無言でやってたら気が狂うんですもん!」
「無理にでも引っ越ししておくんだったなぁ」
サーヤが金金言いながら作業を始めた時点で引っ越しを提案しなかったことを俺は後悔した。
「あと、どうしても噂が広がるのが間に合わなかったです。さすがに時間が足りませんでした……」
「そっかぁ……」
サーヤも悔しげな顔を見せる。
サーヤは一流の商売人だ。
自分で提案した目標を達成できず、悔しい気持ちもあるのだろう。
まぁ来なかったものは仕方がない。
切り替えて事業の方をやっていきますか!
そう思った瞬間だった。
「あのぉ……」
小さなメイド服の女の子が入り口に立っていた。
「パフェっ娘のエリと申します。契約先を探しているのですが、よろしければご検討頂けませんか?」
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