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最強とは

『おかあさん、おかあさん』


 えっと、コレは、なんだったっけ。


『おかあさん、どうして、こんなひどいことがおきるの?』


 そうだ――、たしか私がまだ小さい頃、お母さん達に被災地へ連れられて、そこで救助活動のお手伝いをしたんだっけ。


『――どうして、……それは難しい質問ですね。起こりうる原因の説明なら出来ますが、その理由付けとなると、私の専門外です』


 懐かしいなあ、お母さんはいつもこんな感じで、こどもだった私のくだらない質問にも、こうして唸りながらアゴに手を当てて悩んでいたっけ。


『たくさんのひとが、かなしいのは、わるいことだよね。どうしてわるいことをするのかな』

『……ふむ、災害にも意思があり、それは人々にとって悪となりうると。なるほど、それは興味深い。……ですが、いいですかミサ、それは災害が人々より強かったが故です』

『つよかったから?』

『そうです。強い者は弱い者のことなど気にしなくても良いのです。弱い者からすればそれは悪かもしれません。ですが、強い者からすれば、それは当然のことなのです』

『うーん……? よくわからないけど、じゃあわたしがいちばんつよくなって、みんなにやさしくなれば、だれもかなしまないのかな』

『そう、……ですね。ええ、そうですよミサ。アナタは人類全てを悲しみから救う希望なのです。励みなさい』


 今、思い返せばお互いにすごい事を言っていたものだ。だけど、この時のお母さんの笑顔は、なんだかどこか優しくって、今まで見たこともない表情で、そのせいで、こうして印象に残っているのだろう。

 お母さんの言ったことは極端だけど、これだけ長生きしてみると、その理屈もなんとなく納得できるもので、事実私は自分の正しいと思うことのために、多くの人間を殺してきた。

 弱いものは強いものを倒せない、だから、弱いものは強いものに黙って従うしかないのだ。


 目の前に立ち塞がる災害という名の獣、名前はイマイチ覚えてないけど、これはダメだ、ちょっと手に負えないなあ。

 最強だなんだと持て囃された私だって、雨が降れば傘をさすし、寝る前には電気を消す。それと何ら変わりなく、唯の一個体が、災害に対して何かができるハズもない。だって、できていたら私はやっているハズなのだから。

 暴風が全身に襲いかかる、肉ごと飛ばされそうな風圧は目も開けていられない、続いて風に混ざって雨で固まった砂利が降り注ぐ。マシンガンのようなその粒は、あたり一帯を穴だらけにするように抉り、そこから地面は崩れて灼熱の溶岩が吹き出して、熱の変動によって瞬時に雷雲が形成されて稲妻が走る。この間僅か一分にも満たず、私は自分の身を守るのに精一杯だというのに、私のことを敵と認識した獣達は、その攻撃の手を緩める気配はない。

 身をよじらせ猛攻を耐え凌ぐ、隙を伺いながら一発殴ってみても、身じろぎ一つしやしない。ならば災害同士の攻撃をぶつけ合わせたらどうだろう、と思ってそれも何度か試してみたものの、これといった手応えは無い。手詰まり、お手上げ、もうどうしたらいいのか分からない、時間稼ぎをするにしても、このままじゃ私よりも先に、この世界そのものが崩れてしまう。

 ああ、ダメだ。やっぱり怪物じゃ世界を救えない、私は勇者にも主人公にもなれないんだ。"自然の脅威、滅びの予言、世界崩壊の危機"、そんなものに太刀打ちできるものなんて、どこにもそんなの居ないんだ。


「――天に瞬く月よ光よ、我が手に祝福を、我が剣に力を、滅びの命運を覆す意思を示したまえ」

「我が力を求めし勇者よ、この月の女神の声に応えよ。汝、三界の担い手にして運命の破壊者なり。我が力は汝と共に、汝の願いは我が思いの果てに」


 だんだんと薄れていく自我と意識の微睡みの中、なんだか勇ましい声と、美しくも力強い声が、暴風雨に混ざって耳に届いた。するとどうだろう、すっかり霞んでぼやけた視界の中でも、燦然と輝く、一筋の光が大神殿の方から伸びていた。


「暗黒の夜を照らす光となれ! 我が剣は、滅びを滅ぼす魔剣なり! 『月夜、宵闇穿つ魔剣』(フルムーン・ダークキャリバー)!!」


 天高く伸びる蒼い光はそのまま倒れ、こちらに向かって伸びてくる。暖かく淡く、力強く気高い光は、私の頭上を抜けていくと、瞬時に辺り一帯の災害全てを飲み込んで、光の柱となって天に消えていった。

 四つの光の柱は天高く伸びて、ブ厚い雲を裂いて吹き飛ばし、何もかも無くなった周囲は不気味な程に静寂として、残った水面ですら飛沫一つあげず静まり返っていた。


「え……?」


 何が起こったのかもわからなかった私はすっかり放心して、仰向けに倒れ込んだまま空を見上げた。信じられないほど穏やかで和やかな青い空が目に写り、ほんの数分前までの全てがバカらしくなるような平和がそこにあった。

「ふふ、ふふふふふふ」

 そんな暖かくて優しい空を見て、思わず笑いが溢れ出る。疲れからか、その笑いは力なく渇いたもので、自分でも何故かよく分からないが、目からは雫が一粒溢れ、口からは息が漏れた。


「私がならなくっても、もうホントに居るじゃん……。勇者様」


 ああ、やっぱり、やっぱりそうなんだ。


 どう頑張っても、私は主人公になれないんだ。

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