ランチタイムに女神の微笑を添えて
時刻はお昼、私が空き教室の隅っこで一人お弁当を広げていると、菓子パンとカレーパンをぶら下げたミサキちゃんがやって来た。彼女はそのまま前の席をくっ付けて私と対面するように座り、一緒に午前の授業の話とかをして、お昼休みを共に満喫していた。
「あー、えっとミサ。例の先パイだけどサ、ぶっちゃけ何がそんな好きなワケ?」
「んぐぃっ……!」
私が大好きなミートボールを口に入れると、ミサキちゃんは私に目をあわさないまま突然問いかけた。
「い、いきなりやめてよミサキちゃん……、わ、私だってまだ気持ちの整理とか、心の準備が出来てないんだからぁ」
「あー、うん。前も言ってたしね。いや、そう、だからこそね、今朝たまたま見かけたけど、アレに関わるのだけはやめた方がいいってゆーか? そーしてくれるとあーしも心苦しくないっていうか……」
「いやいやー、たしかに冴えない感じの印象かもだけどー、先パイは私を助けようとしてくれた王子サマなんだよー、ここだけの話、遅刻しそうな私を背におぶさって学校まで連れてきてくれたんだよー?」
ミサは紅くなったほっぺに手を当てながら、だらけた笑顔でえへへえへへと言いながらくねくねしていた。
その有様を見て、ミサキは随分と困ったような表情を浮かべて眉をひそめる。
「オハナシは聞かせていたダきましたよ! ガールミーツガール!」
すると、二人の他愛の無い会話に一人の女子生徒が割って入ってきた。
ウェーブのかかった長い金髪に透き通った青い瞳、ぷるぷるの唇と見上げるような高い身長、ミサの常識には無い規格外のサイズの胸を揺らす、学年皆が注目するカタコト少女。日本人離れしたルックスから誰もがどこかの国の留学生か何かと思っているだろうが、よもや異世界から訪れた大女神様だとは思うまい、その正体こそは、我らが麗しのミサミサエル様であった。
「は? アンタ誰? あーしらのランチタイムを邪魔しないでほしーんですケド~?」
だが当然彼女らはそんな正体など知る由も無いので、ミサキは今まで聞いたことも無い低い声で女神を威嚇する。突然の事態に慣れてないミサはどうやら怯えている様子だが、それは普段見せない怖い所を出した友人に対してなのか、それとも目の前の変人に対してなのか、女神の方とて知ることは無い。
「アナタ達が話していたオトコ、それはズバリ天草イルのことデスね? 身長百六十八センチ、体重六十七キログラム、やや筋肉質で短い黒髪を切りそろえた、身の丈ほどある大きな剣を持ったコーコーセーダンシ……」
しかし女神様はさすが御心が広いのか、それとも単純に自分の言いたいこと以外は全てどうでもいいのか、ミサキの不遜な態度も言葉もまるで意にも介さず発言した。
「そこまで詳しいことは知らないですけど……、大剣を持った男子高校生なので、その、間違いないかと」
「オーゥ! やはりアナタの意中のお相手でお間違いアリマせんね!? ソれはソれは!」
実に都合が良い。
ああ、なんということでしょう。これはハイパームテキメガミも超ラッキー! ボーナス確定演出虹回転と言った所、バットもエイリアンに躓くプレミアムな事態に遭遇してしまいました。
愛や恋やというものは幸せを無限に生み出す超最強素敵感情的なにがし、故に鬱屈したカビ臭いジャリボーイだろうと、愛だの恋だのの持つ甘々しくもちょっぴり苦いオトナの味と香りはふわりと広がり、生きとし生けるもの全てに華を持たせて幸せになるのです。
ああ、いいですね愛。都合が良くてとっても便利。私がまだ新米のクピドだった頃を思い出します……。あの時はそれこそ毎日のノルマに追われて、酒の勢いで村一番の美少年と鍛冶屋の親父をくっ付けてしまったっけ……。
ああいえ、とにかく、思いを寄せる少女などもはや無敵、恋する乙女こそ地上において何よりも最強、即ち恋に思いを寄せる少女など、ありとあらゆる不浄に効果バツグンの特効薬、万能の願望器であると言っても過言ではありません。コレを利用しない手は無いでしょう、『拾った木の枝が魔王特効!? 異世界勇者のチート無双冒険譚!』ぐらいには都合が良いのですから。皮肉なことに。
つまり、そう! この恋焦がれる少女と、あの忌々しき小汚いコーコーセーダンシをくっ付けて、そのまま幸せという大海原に溺れさせてしまいましょうや! ヤッター! なんという素敵企画、これは類を見ない最強の後押しをされた究極のカップルの誕生か、よもやこの偉大で崇高で麗しき超絶美貌大女神様が生み出したカップルなど、金輪際現れることはないでしょう、クク、ククククク……!
女神のテンションは天まで高まる程にブチ上がった。そしてこの地上においてもっとも有効に使えそうなミサの身体を、頭のてっぺんからつま先まで、嘗め回すようにまじまじと見つめていく。
「ホーゥホウホウホウ~? なるホド、なるホド? 中々どうして可愛らしいおめめをしていマス、お身体の方はやや貧相デスが、それでもこれならオトコなど上目遣い一つでイチゲキコロリ! すばらしい戦闘力デース!」
くるくる回ってキラキラ輝く目の前の奇人相手に、ミサキは牙を剥き出して警戒する。自身のコンプレックスの一つでもある貧相な身体を持ったミサは、今の発言が中々にショックだったようで、自分の胸をぺたぺたと触りながら、自身の外部装甲と内部のカーボンナノチューブの質感にため息を吐いた。
「さっきっからアンタなんなワケ? あんまミサを困らせるようなことすんなら容赦しな――」
「ご安心を! 何を隠そうこのワタクシの狙いはあのオトコ! 是非とも利用させていただきマース!」
そしてついに、人の心の分からぬ女神はテンアゲの勢いのまま、とてつもない失言を吐いてしまった。
「うえええええん、身体的差別と言葉の暴力ぅぅぅっっ! おっぱい大戦争ーーーーッッ!」
その直後、ミサは子供のように泣きじゃくりながらワケの分からない言葉を垂れて教室を飛び出した。
ミサキは引き止めようと手を伸ばすも、マッハ四に達するであろう乙女の足には追いつけるワケもなく、伸ばした手は女神の胸倉へと矛先を変えていた。
「サイッテー……! アンタが何しようが勝手だけど、二度とあーしらに話かけんな……!」
魔物のような鋭い眼光を女神に浴びせ、ミサキは恐ろしい形相のまま、逃げ出したミサの後を追って教室を後にした。
「あれ、女神また何かやっちゃいました?」
一人残された金髪ボインはどうしようもない戯言を吐き、自身の発言を遡って二、三分ほど考えて、そしてようやくその間違いに気がついた。
違う、違う。あんな冴えないオトコに好意を寄せてるワケじゃない、っていうか何ですかそのおぞましい勘違いは、や、やばば、やばばばあばばああばばあばばば……、
焦った女神は自身の愚かさと、ちょっとでも脳内で補正をかけた、コーコーセーダンシに思いを寄せる自分自身の姿を想像して、その気持ち悪さにさっき食べたお昼ご飯を全部吐いた。(女神なのできたなくない)
「……あの女生徒は……、もしかして……」
すると、コレまでの騒ぎをききつけたのか、どこからか覗きこんでいた日陰のような少女が一人、ぽつりと声を漏らした。
その顔はどこか嬉しそうであり、その姿は何か企んでいるような不気味さを持ちながら、少女は誰にも見つかることなく、ひっそりと影へと消えていった。




