悪魔の再臨
『起きろ、起きろ、起きろ!』
どこかで聞いたような懐かしい声が頭の中で響く。
ああ、うるさい。もう少し休ませてくれ。
『馬鹿なことを言うな。家族の仇は、勇者たちへの復讐はどうした?』
俺はその言葉に、パッと目を見開いた。
「勇者!?」
ん? ここは、どこだ? 真っ暗で何も見えない。手足も、動かん。くそっ、記憶があいまいだ。俺は今まで何をしていた?
混乱する頭で何とか状況を整理しようとする。だが、どうにも今の状況と記憶がつながらない。それどころか、記憶がとぎれとぎれ、まるで音符の抜けた楽譜のようだ。
俺は、カイン。カイン・ユリウス
俺には家族がいた。フランと、メイリー。だけど、なぜだ? はっきりと思い出せない。彼女たちの姿を、思い出を。
『……』
思い出すのは、最悪の景色だけ。血にまみれたフランと、無惨にも首を切られたメイリー。そして、それを見ながら笑う。奴らの姿!
『そうだ。思い出したか?』
ああ、思い出した。俺は、奴らを、俺を裏切り、すべてを奪い去った勇者どもを殺すためにヘレル、お前と契約を交わした。
『いいぞ、その調子だ』
それから、それから……。
ここから記憶がない。俺は一体、それから何をしていたんだ?
『ちっ、仕方がない。とりあえずここから出るぞ。この、土の中からな』
ヘレルの言葉で、ようやく俺がいるのが土の只中であるという事に気付く。
そうか、どおりで冷たくて少し湿っているわけだ。しかし、なんで地面の中に埋まっているんだ?
『そんなことはどうでもいい! とにかく、手を伸ばせ。地上に這い上がれ!』
ヘレルの言う通り、俺は左腕を勢いよく上へと突き上げる。すると、左手が開けた空間に飛び出す感覚があった。どうやら、地上は思ったより近いらしい。
俺はそのまま、手足をバタバタと動かしながら少しずつ地上へと這い上がっていく。数分の格闘の後、俺はようやく体を土から出すことに成功した。
「はーっ、はーっ、はーっ……」
息を切らし、俺は額からこぼれる汗をぬぐう。それから全身の土を払い、辺りの様子を見渡した。
森。その中の不自然に開けた真っただ中に俺は立っている。見たことのない景色。だが、俺はこの場所を知っている。
「ぐっ!!」
突然、頭がズキンとうずいて、俺は両手で頭を抱えながら目を瞑る。そのまぶたの裏に映りだしたのは、かつて、この地にあったはずの小さな村の景色。
決して大きくはないが、皆助け合い、分かち合い、笑顔が絶えない村だった。子供から年寄りまで、皆が家族のような村だった。
そうだ、ここは。
「ラクナ村だ」
『そうだ。お前の故郷、ラクナ村、だった場所だ』
だった、か。お前の言う通りだな。勇者どもに、故郷を破壊された。村の皆を、親友を、家族を殺された。
ああ、思い出しただけで頭がどうにかなりそうだ! あの悪魔どもの邪悪な姿を!
俺は震える手で顔を覆う。そして、ゆっくりと深呼吸して、平静を取り戻した。
だが待て。奴らは家を燃やした。がれきの山は? 燃え跡は? どうしてちり1つ跡が残ってない?
『うーむ』
俺の問いかけにヘレルはどこか応えずら層にうなり声をあげた。
なんだ? あの惨劇の後、何が起こったんだ? 一体俺は何をしていた!?
『そ、それはだな……』
ヘレルがそう言いかけると同時に、森の中からかすかの声が聞こえてくる。
「なんだ……アレ?」
俺はその声に、すかさず腰に差さっていた剣を引き抜き、声の元へと投げつける。
「ひぃ!」
その剣は、その声の主の頬をかすめ、隣にあった木の根元へと突き刺さった。
な、今のは、なんで俺にあんなことができる?
俺は疑問に思いながらも、剣を回収するために木の方へと走っていく。そんな俺の姿を見て、頬から血を流す少年はおびえた表情をしていた。
「あ、あんた一体何もんだ!? さっきの攻撃、手練れの冒険者か!?」
俺の方を指さしながら、少年はそう叫ぶ。
「カイン・ユリウスだ」
「カイン・ユリウス? 聞いたことねえ、そんな名前!」
「そうか、一応、勇者パーティの仲間だったんだが……」
俺がそう呟くと、少年はとても驚いた表情をすると同時に、眉をひそめて俺の方を睨む。
「勇者パーティだぁ!? あの、だいぶ昔に魔王を討伐したって、あの!? そんなわけあるか! 勇者様たちの名前なんて、田舎者の俺でも知ってる! でもカインなんて名前の奴はいなかったぞ!」
少年の言葉に、俺は彼の胸ぐらをつかんだ。
別に俺のことを知らないからではない。奴らのことだ、どうせ国王様にでも言って、俺の記録を抹消させたのだろう。もともと、荷物係で、役に立ってなかったんだ。別にそんなことはどうでもいい。
俺が気になるのは、昔という少年が発した言葉だ。
「お前、今、昔と言ったな?」
「は、はぇ?」
「それはいつの話だ?」
「え、ええと。俺が今9で、俺が生まれる1年前くらいだって母ちゃんが言ってたから、たぶん10年位前、だと思う、ます……」
じゅ、10年だと……。俺は、10年もの間眠っていたのか? ただ、土の中で!
『それは違う』
ヘレルはそう言って俺の言葉を否定した。
「なんだと?」
『お前は10年間、ただ眠っていたわけではない。俺が与えた権能・地獄の力を使いこなすための修練を積んでいたのだ』
「修練、だと? ……ぐっ!!」
ヘレルの言葉と共に、俺はまたもや割れるような頭の痛みにおそわれた。




