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【連載版】堕天使との契約で謎のスキル『ゲヘナ』を手に入れた平凡な冒険者は、自分から全てを奪った勇者たちに復讐を誓う  作者: 河村 大風


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序章・地獄

『起きろ、起きろ、起きろ!!』


「うっ、ううっ……」


 うめき声をあげながら、俺はゆっくりと目を開けた。


 くっ、一体、何が起こったんだ? なんで、村が、俺の故郷が燃えてる? どうして村のみんなが、ピクリとも動かずにそこら中に倒れてる!?


  朦朧とする意識の中、耳に響いて来るのは村の人たちの悲痛な声。そして目に入ってくるのは村中を包む真っ赤な炎だった。


 その光景はここが少し前まで人々が暮らす村だったとは思えないほど凄惨なものだった。


「っ……!!」


 激しい痛みに俺は頭を押さえる。


 血が、血が頭からあふれてる。全身が、砕けるように痛い! でもだめだ。立て、立つんだ! このままじゃ、フランとメイリーが! 俺の大切な家(・)族(・)が死んでしまう!


 俺は震える足を何とか動かし、ゆっくりと立ち上がる。そしてふらつく足取りで何とか歩き始めた。


「フラン! メイリー! 頼む、返事をしてくれええええ!」


 返事はない。ただ、その代わりとでもいうように、村人の悲鳴が聞こえてくる。


「や、やめて! なんで、なんでこんなことを!?」


 ? 妙だな。今の声、この惨状に対する言葉じゃない。


「ひどい! 私たちなんてどうでもいいってこと!?」


 またしてもそんな声が聞こえる。


 な、なんなんだ。まるで誰かに訴えるような……。


「ふざけるな! これが、これが、勇(・)者(・)のやることか!?」


 三度、村人の声が遠くで聞こえたが、今度は周りの雑音のせいで何と言っているかまでは聞こえなかった。


『嘘だな』


 とにかく、この角を曲がったらもう俺の、俺たちの我が家だ。大丈夫、きっと生きてる。怯えながら、俺の助けを待っているはずだ。


『本当にそう思うのか?』


 俺は走り出して、その曲がり角を曲がる。だがそこにはフランの姿も、メアリーの姿も見つからなかった。


「ああ、そんな……」


 思わず声が漏れた、その時だった。燃え盛る家の玄関から人影が1つ現れる。


 フランだ。それは俺の大切な妻、フランの姿だった。


 綺麗な白い肌は血に染まり、子供を守ってついたのであろうやけどの跡が痛々しい。そして、その腕に包まれるようにして抱きしめられているメイリーもまた、傷だらけだった。


 ひどい状態だ。だが、生きている。それだけで俺は嬉しさのあまり泣きそうになっていた。


「フラン! メイリー! ああ、よかった、生きていたんだな!」


 そんな俺の言葉に対し、彼女はなぜだか悲しそうな顔をしていた。


 逃げて……。


 声は聞こえなかったが、口の動きで彼女がそう言っていることが理解できた。だが、その意味までは理解できない。一体、何から逃げろというのか。


 ……ああ、思い出したぞ。


 彼女のもとに足を踏み出した瞬間、彼女たちが出てきた建物の中からこぼれる一筋の光がこぼれた。


 剣だ。


 血に染まった剣が、フランの背後から伸び、その胸元へと近づいていく。


 そんな、バカな。どうして? どうしてこんなことを!?


「やめろぉぉぉぉ!!」


 俺の叫びも、伸ばした手も、フランに届くことはなかった。


 国王様からもらった聖なる剣はフランを背後から突き、そしてゆっくりと引き抜かれる。


「そんなぁぁぁぁ!!」


 血を吐きながら倒れこむフランの姿を見て、俺は絶叫した。


「嘘だ、嘘だ嘘だ!!」


 慌てて駆け寄ろうと、走り出す。だが突然、膝から下の力が抜けた。


「え?」


 目線を下に向けると、俺の足によく見慣れた矢が突き刺さっている。


 これは……レミシュの矢?


「ひゅ~、泣けるねぇ。貧乏な夫婦の固い愛情ってか?」


 燃え盛る家の屋根の上で、帽子をひょいと弾きながら不敵に笑うレミシュ。


 は? 一体何してるんだ? 俺は仲間だろ?


『現実を見ろ』


 俺は矢を引き抜き、またしてもフランの元へと歩きだす。


「ちっ、しぶとい奴だな、雑魚のくせに!」


 ああ、今度はリウレか?


 彼女の声が聞こえると同時に、目の前が暗黒に包まれた。加えて音も、匂いも、手足の感覚すらない。


 これはリウレの感覚遮断(ブラックアウト)か。くそっ、どうして、どうして!? 仲間だろ!? なんでこんなことをするんだ!?


『奴らは貴様を仲間とは思っていない』


 俺の叫びは、おそらく彼らに届くことはない。ブラックアウトは自らが発する音さえもでなくなるから。


「……してあげてください。何も感じれないなんてかわいそうじゃありませんか」


 突然、アフレールの声が聞こえるようになる。視界も戻っている。どうやら彼女が能力を解除するようにリウレに言ってくれたらしい。


「ああ、ありがとう、アフレール……」


 そうだ、彼女は優しい。それにレミシュもリウレも。きっと、何か理由があるんだ。あの剣だって、何者かが彼(・)から奪ったんだ。そうだ、そうに決まってる。


 俺はゆっくりと顔をあげる。わずかな希望にすがりながら、彼らを信じたのだ。


 だが、それは単なる幻想に過ぎなかった。


 そこには、俺のことを心底見下した目で見てくるレミシュとリウレとアフレールの姿があった。


「カインさん、これから起こることを、しっかりとその両目に焼き付けてくださいね?」


 にこりと笑うアフレール。その笑顔にはひどく邪悪なもの浮かんでいた。俺は彼女から視線を移し、フランの方を見やった。


 ザクッ、ザクッ、ザクッ!!


「な、なにを、何をしてる……」


 目の前で起きていることが理解できない。アベルが、フランを、俺の妻を幾度となく刺している。彼女は既に死んでいる。もう助からない。


 じゃあ、なんでそんなことをする?


「はぁ~、なぜだか人を刺すのって気持ち良いんだよね~。なんだろ、やっぱりやっちゃいけないことだからかな? いい子ちゃんを演じてると無性に悪いことしたくなるんだよね~」


「ったく、やっぱりうちらのリーダーが一番狂ってるぜ」


「全くだ、アベルに比べたら暗殺者の私など可愛いものだな」


「でも、それがアベルさんの良さでしょ?」


 口々に、皆はそう言う。何度も、何度もフランのことを刺して、彼らはまるで悪魔のような笑い声をあげていた。


「やめてくれ……」


 もはや声を張り上げる気力もない。俺はかすれるような声でアベルに懇願する。そんな俺に対し、アベルは笑いながらこちらを向く。彼はフランの体の下でうめき声をあげているメイリーをまるで汚らしい物のように乱雑に摘み上げ、俺の元へと歩を進めた。


「カイン、ああ、カイン、カイン、カイン……」


 そう言うと、アベルはメイリーの手に剣を突き刺した。


「きゃああああっ!」


 娘の悲鳴が響く。


「助けて、パパ……!」


 痛みに泣き叫ぶメイリーを前に、俺はただ「やめてくれ」と繰り返すことしかできなかった。


「どうして、どうしてこんなことするんだ? 俺のこと、仲間だって言ってくれたじゃないか……」


「ぷふっ! あんなのまだ信じてたのか!? は、ハハハ!! こりゃあ傑作だよ! お前の頭はお花畑か何かか!? 最強の勇者たる僕たちが、お前みたいなゴミを仲間だと、大切な友だなんて言うなんて本気で思ってたのか!?」


「嘘だ……。あの時のお前は本気で俺のことを……」


「うるさいな~、黙れよゴミ」


 アベルは心底うんざりしたように吐き捨てた。


「全く、お前のせいだぞ。この村がこうなったのは。せっかくこれまで完璧で最強の勇者だったってのに、ちょっとしたミスであんな醜態をさらす羽目になった」


 アベルの顔から笑みが消えた。


「僕は完璧な勇者じゃなくちゃいけないんだ。ミスなんて許されない。だからこうやって全部なかったことにするんだよ」


 その邪悪な顔を見て、俺は必死に叫んだ。


「そうだ分かったぞ。あの、あの魔獣に操られてるんだ! 目を覚ましてくれアベル! お前はこんなことする奴じゃない! こんな俺を、弱い俺を仲間だと認めてくれたアベルに戻ってくれ!」


 俺の言葉にアベルは眉をひそめる。


「ああ、かわいそうに。でも残念ながらそんな魔法はないんですよ?」


 そんな彼の隣でアフレールがにこりと笑いながらそう言った。


「な、なに?」


「魔法には人を言動から操る魔法などないんですよ。権能(スキル)であれば、他者の体を操るようなものもありましょうが、それはただ物理的に操作するだけ。精神を乗っ取る魔法など、神の御業なのです。それにあの魔獣は死んだ。魔法の行使者が死ねば、魔法が解けることはあなたも理解しているはず」


 そんな、嘘だ。じゃあ、目の前にいるこれが、この邪悪な笑いを浮かべるこの男が本来のアベルだっていうのか?


「あ~、もうそろそろ飽きてきたな~」


 けだるそうにそう言ったアベルは、手に持った剣をシュッと横に振る。


 血しぶきが飛び、俺の顔にぴしゃりとかかった。


 ぼとり。


 なにかが、俺の目の前に、何かが転がった。


「は?」


 メイリー? メイリー? 頭がそこで、体があそこ? え? なにが?


「あああああああああああああああああ!!」


「うるさいな~。いちいちうるさいんだよカス」


 悪夢。そうだ、これは悪夢だ。操られたんじゃないんだとしたら、それしか考えられない。


『いい加減に認めろ。お前が仲間だと思っていたこいつらは、邪悪なクズだったんだ』


「夢じゃない。これ見ろ? ほ~ら、お前の可愛い娘は首なしのデュラハンみたいになっちゃいましたとさ!」


 HAHAHAHAHAHAHAHA!!


 アベルの、アフレールの、レミシュの、リウレの、悪魔のような笑い声がこれが現実であることをまざまざと実感させる。


「まあ、どうせ放っといても死ぬんだ。可愛い娘と妻に囲まれながら、幸せに死ねよ」


 満面の笑みを浮かべながら、アベルはそう言い残し、他の連中と共に炎の中へと消えていく。


 残ったのは、絶望と、自分の無力感。


 俺は、こんな奴らを仲間だと、友だと思っていたのか?


 薄れる意識の中で、俺はそんなことを思い涙を流した。


『この腰抜けが。このままでいいのか? このまま、何もできずにくたばるつもりか?』


 そんな声が、聴きなれない声が、頭の中で響く、ような気がした。


 今の俺にとって、そんな問いかけはどうでもよかった。フランを、メイリーを失ったこの世界に生きる価値などない。俺はこのまま、平凡な冒険者として、いやゴミとして死ぬ。


『ふざけるな。あんな外道どもをそのまま野放しにするのか?』


 その声は、俺を叱咤するようにそう言った。


 誰だ? 一体何者だ?


『俺は悪魔。天使でありながら大罪を犯し地獄へと堕とされた堕天使・ヘレルだ』


 悪魔? 堕天使? それが俺に何の用だ?


『よく見ろ。この惨状を、自分の愛する者たちの惨たらしい姿を!』


 その声に諭され、俺は目の前にいる、フランとメイリーの亡骸を見つめた。涙を流し、苦悶の表情を浮かべながら動かなくなった彼女たちの姿に、俺は自然と涙があふれてくる。


 フラン、メイリー。どうして、俺がいったい何をしたって言うんだ! 自分のできることを必死でしてきた! その結果がこれか!?


『そうだ、怒れ、叫べ! こんな結末を受け入れるのか!? 弱者のまま、強者に虐げられたまま死ぬのか!?』


 ああ、そうだ。フランがメイリーが殺された。あの、あの、心の底根まで腐りきった人間の皮をかぶった悪魔どもに!


『その通りだ。悪魔に対抗するには悪魔の力を使うしかない、だろう!?』


 ああ、ああ! お前の言う通りだ。どれだけの苦痛が待っていようと、禁忌に触れようと関係ない! 俺はどんな手段を使ってもあの勇者どもをぶち殺す!


『その言葉、二言はないな? ならば契約だ、貴様の魂を戴く代わりに、我が地獄(ゲヘナ)の力を授けてやろう!』


 ああ、悪魔か堕天使だか知らんが契約してやる。お前の力、俺によこせ!


 血にまみれた右腕を、光の差す方へと伸ばす。だがその光は白く輝く光ではない。黒く、引きずり込まれるような暗黒の輝きだった。


 瞬間、倒れこんだ地面が黒く染まり、俺の体がだんだんとその穴に引きずり込まれていく。


「な、なんだこれ!?」


『喜べ。お前を地獄に招待してやる。あの勇者どもを殺せる力を授けるためにな』


 や、やめろ! くそ、フラン、メイリーせめてお前たちの亡骸を……。


 彼女たちの骸に手を伸ばしたが、その手が届くことはなかった。


『1地獄から目覚めるは、復讐を誓う悪魔か、それとも……』


 薄れゆく意識の中で、くすくすと笑いながらそう呟くヘレルの声が聞こえた。


◇◇◇

序章を最後までご覧いただきありがとうございます!


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ひとまずここまで読んだ感想を書かせて頂きます。 ハードな展開が続きますね。今のところ一切救いが無くて胸がギュっとなりました。でも面白い。 果たしてあれが本当に勇者の本性だったのか。 仮に本性が邪悪…
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