勇者との出会い
ー12年前ー
「君を僕のパーティにスカウトしたい!」
「はぁ?」
ギルドに現れた謎の4人組の1人にそう言われ、俺は間の抜けた声を漏らした。
俺の名はカイン・ユリウス。冒険者ギルドに所属する冒険者だ。ランクは10。最大が99で、俺はもう3年ほどやっているから、そこまで飛びぬけた才能のある冒険者じゃない。
いや、今のはだいぶ優しい表現だ。
正直言って、才能は皆無と言っていいだろう。普通、ランク10なんて1年もすれば大体の奴が越える。
実際、今俺の横にいる親友のサルミエントは俺とほぼ同時に冒険者になったが、現在のランクは30にまで達していている。こいつはどちらかと言えば才能がある方だから、単純には比較できないが、これだけでも俺がどれだけ平凡なのかは理解できるだろう。
そんな平凡な俺を、なんでこんな立派な装備をした冒険者たちがスカウトし来た。
……いや、意味分からないだろ。
困惑する俺など気にも留めずに、男は俺の手を握りぶんぶんと振った。
「君がカイン・ユリウスだろ?」
「あ、ああ。そうだけど……」
「僕はアベル・ゴットハルト。実は、国王様の命でちょっとした大仕事に取り掛かっていてね!」
アベルと名乗ったその冒険者の言葉に、ギルドの中にいた冒険者たちは一斉にざわざわと騒ぎ始める。その声の中には、勇者だとか魔王だとかいう言葉が聞こえてくるようだった。
周りの様子に眉をひそめていると、横にいたサルミエントが俺の耳元でこうささやいた。
「おい、こいつら、噂の勇者パーティだぜ?」
サルミエントの言葉に、俺は驚いてアベルの手を放す。
「それ本当に言ってんのか? 最近噂の魔獣の王だか魔王だかを倒すために大陸中の国々が協力して最強の冒険者たちを集めて結成させたっていう、あの!?」
「ああ、間違いねえ。俺思い出したぜ。確かリーダーは金色の瞳と髪をしてて、俺たちよりも若い男だって聞いたぜ」
確かに、サルミエントの言った容姿とアベルは見事に一致していた。
だが、そうなると余計にわからん。
「だとしたら、なおさらおかしいだろ!? 魔王討伐をする勇者様がなんで何の才能もない俺のことスカウトすんだよ!?」
「知るか! まあ、確かにお前を連れてくなんて変だけどよ! 魔王討伐っていうプレッシャーで頭のねじが飛んじまったとか?」
「それ、結構俺にもダメージが来る言い方なんだが」
俺たちがひそひそ声でそう話していると、目の前のアベルが咳払いをした。
「……あの、聞こえてるよ?」
彼の言葉に、俺とサルミエントは同時に愛想笑いを浮かべた。
「ははっ、すいません、勇者様」
「いや、アベルでいいよ。だから僕も君のことをカインと呼んでもいいかな?」
「え? ああ、いいですけど……」
「じゃあよろしくカイン!」
そう言ってまたも手を差し伸べてくるアベルはにこりと笑っていた。
事情は分からないが、1人の冒険者として見てみればこれ以上ないチャンスだろう。魔王討伐という、最高クラスの依頼を受けたパーティに何の努力も無しに入れるのだから。だが、俺には彼の手を握れない、ある事情があった。
「家族が、いるんだ」
俺のつぶやきにアベルは不思議そうに首を傾げた。
「家族?」
俺にはフランという妻と、メイリーという娘がいる。
彼女たちを養うために俺は働かなくちゃいけない。俺が、才能がないのに冒険者を続ける理由はそれだ。フランに、メイリーに少しでも楽をさせるために必死に働いて金を稼がなくちゃいけない。
魔王討伐は魅力的だ。俺の体が、俺だけのものなら喜んで受けた。
だが、実際はそうじゃない。
魔王を倒しに行くとなれば、その旅は長く過酷なものになるだろう。その間、誰が彼女たちのために金を稼ぐ? 誰が彼女たちを守る?
俺はそんな事情をアベルに説明した。
「だから、俺はあんたたちの仲間にはなれない」
俺の言葉に対し、アベルは笑ったまま、差し出していた手で俺の肩を掴んだ。
「君はとても優しい人なんだね」
「いや、そんな事は……」
「でも大丈夫。心配いらないよ。君の家族の生活は国が保証してくれる」
「え?」
「魔王を討伐する冒険者の大切な家族だよ? 国が全力でサポートするさ」
アベルの言葉に俺は少しだけ安堵した。だが、それだけではだめだ。もし仮にフランたちが魔獣に襲われたり、危険な目に遭ったとき、一体誰が守る?
そう口を開こうとしたその時、横からサルミエントが俺の体を肘で小突く。
「心配すんなよ。フランたちは俺が守る」
「サルミエント……」
「俺たち小さい頃から同じ村で育った親友だろ? お前がこんなチャンスを捨てようとしてるところを見過ごすと思うか?」
なあ、どうしてだ? どうしてそんな純粋な目で、そんな事が言える? 俺、お前よりも20もランクが低いんだぜ? 才能あるお前の方がよっぽど適任だっていうのに。お前はそんな事、関係ないみたいに笑ってる。
……お前は、本当にいい奴だな。
親友の満面の笑みを見て、柄にもなく涙がこぼれそうになった。俺はその涙を何とか引っ込めながら、サルミエントに対してこうつぶやいた。
「……ありがとな」
「いいってことよ」
パンパン、と俺の背中を叩くサルミエント。その様子を見ているアベルも優し気な笑みを浮かべている。
「分かった。なぜ俺を選んでくれたのかは知らないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。俺をアンタのパーティに入れてくれ!」
「もちろん」
みたび差し出されたアベルの手を、今度は自分の意志で握りしめる。握られた手を見ながら、アベルはどこか悲しそうな笑顔を浮かべていた。
そうだ、ここからだったんだ。
俺はここから最強の冒険者への街道を一気に駆け上がるんだ!




