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【連載版】堕天使との契約で謎のスキル『ゲヘナ』を手に入れた平凡な冒険者は、自分から全てを奪った勇者たちに復讐を誓う  作者: 河村 大風
プロローグ

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黒騎士が求めるもの

 ギルドの扉を開けると、そこには懐かしい景色が広がっていた。荒々しい冒険者たちの顔、掲示板に掲げられた数々の依頼書。俺はそんな景色を横目にギルドの受付へ向かう。


 対して、周りの冒険者たちは俺を見て眉をひそめていた。


「何だアイツ?」


「黒い鎧に顔もろくに見えねえ兜とはずいぶんとシャイな奴らしいな」


 ひそひそ声で、俺の姿をなじる声が聞こえてくる。


 だが、それも仕方のない事。周りの冒険者たちの装備はそろいもそろって軽装備。そんな中で、こんなごつい鎧を着ていたら、俺でなくたって目立つだろう。


 冒険者たちの言葉を聞き流しながら、受付のカウンターに手を置くと目の前の受付嬢が少し身を引いた。


「あ、あの? 何か御用でしょうか?」


「冒険者登録をしに来た」


「はい?」


「だから、冒険者登録だ」


「い、いえ、それは分かっておりますが、その装備、貴族の護衛か、都市の守備兵の方かと思いまして」


「違う。この装備は……まあ、拾ったものだ。何か職についてるわけでもないし、金を稼ぐために冒険者になりたい」


 俺の解答に対し、受付嬢はいぶかしみながらも登録用の書類を棚から取り出し、登録の準備を始めた。


「しょ、承知しました。では、まずご自身の使用可能魔法をお教えください」


「使用可能魔法は基本的な低級魔法全般のみだ」


「そう、ですか。では、権能(スキル)は?」


「地獄(ゲヘナ)」


「ゲヘナ? すいません、名前からどのようなスキルか想像できないのですが、能力の詳細はどのようなものでしょうか?」


「まあ、基本黒い炎を使えるような能力だ」


「分かりました、火炎系の攻撃スキルですね。では最後に登録名をお願いします」


「カイン、カ(・)イ(・)ン(・)・ユ(・)リ(・)ウ(・)ス(・)だ」


 俺の言葉に、書類を描く受付嬢の手が止まる。


「か、カイン・ユリウスって。勇者パーティの……。そんなはずは! だって、彼はラクナ村の事件で1(・)0(・)年(・)前(・)に(・)死(・)ん(・)で(・)……」


 やはり、そうなるか。


 俺が小さく舌打ちをしたその時、ギルドの扉がバン、と開く音が聞こえる。


「よ~、俺を追(・)い(・)出(・)し(・)て(・)おいて、雰囲気よさそうじゃねえか、あぁ!?」


 そんな怒声をあげながら、扉を開けた男はギルドの中へと足を踏み入れる。


 赤い髪に吊り上がった瞳、背には背丈ほどもあろうかという大剣。他の冒険者とは違う、立派な装備を身に着けたその男は周囲を睨みながらこちらへと歩いて来る。


「奴は?」


 受付嬢にそう問いかけると、彼女は苦々しい顔でこう答えた。


「彼はブレイズ。つい先日まではここを拠点とした冒険者だったのですが……」


「今は違うのか?」


「はい。確かに彼は冒険者として優秀でした。恵まれた身体能力に、魔法の覚えもよく、スキルも強力。ですが、彼は素行が悪すぎたのです」


 ひそひそ声でそう言う受付嬢。


「自分の強さに絶対の自信を持ち、私たちのような受付や同業の冒険者、依頼をくださる依頼主の方々にまでその粗暴な態度で接し、あまつさえ暴力さえ振るった」


「なるほど。それでギルドを追放されたわけか」


 俺の言葉に、受付嬢はこくりとうなずく。


「なあ、どうして、俺を追放、しやがったんだ!」


 周りにある椅子やテーブルを足蹴にしながら、ブレイズはだんだんとこちらへ近づいて来る。


「お、おい! やめろよブレイズ!」


 近くにいた冒険者の一人が声を上げた。だが次の瞬間、ブレイズの大剣が閃く。


 直後には既に冒険者は血を流して床に倒れこんでしまったっていた。


「きゃあああ!!」


 俺の目の前で、受付嬢が悲鳴を上げる。そして他の冒険者たちはブレイズの凶行に驚きつつも、奴に向かって武器をとっていた。


「なあ!? こんな雑魚より、俺が冒険者として劣るって!? ふざけんなよクソが! どいつもこいつもゴミばかり! なんで俺が追放されなくちゃいけねえんだ!」


 ブレイズはそう言いながら、あちらこちらに魔法をぶちまけている。氷結、雷電、火炎、風刃。


 それに対抗するように冒険者たちは、防御魔法を展開するが、ブレイズの魔法の前には太刀打ちできず、1人、また1人と倒れていった。


 なるほど、確かに実力はあるらしい


 そんなことを考えながらブレイズを眺めていると、奴の魔法攻撃の内の1つ、火炎球が俺の方へと向かってくる。


『お前みたいなゴミを仲間だと、大切な友だなんて言うなんて本気で信じてたのか?』


 瞬間、俺の脳裏に浮かび上がるかつての記憶。燃え上がる炎、村人たちの悲鳴、そして愛(・)す(・)る(・)者(・)た(・)ち(・)の亡骸。


 やめろ。


 やめろ、やめろ、やめろ!!


 脳裏に焼き付いた地獄の幻影を振り払うように、俺は腰の剣を引き抜いて火の玉を切り裂いた。


 くそっ、胸糞悪い記憶を思い出させやがって……。


「なあ、ほら! かかってこいよ!? 誰も俺に勝てねえだろ!? そうさ、俺はあの勇者とも親(・)友(・)なんだぜ! お前らとは格が違うんだよ!」


 ブレイズの挑発の言葉に、俺は指先を震わせる。奴の挑発が気に障ったからではない。


「勇者と親友、だと?」


 俺はそう呟きながら、おびえてカウンターの裏に隠れてしまった受付嬢にこう言った。


「おい、あいつを倒してやるから、俺を冒険者として新しく登録してくれ」


「え?」


「こっちにも事情があるんだ。10年前の記録を見て見ぬ振りすればいいだけだ」


 俺の言葉に、受付嬢は少し躊躇するような様子を見せるが、すぐに意を決したように「分かりました」と小さくつぶやいた。


「よし、契約成立だ」


 俺はそう言い残しブレイズの元へと歩き出す。


「あ!? てめえ誰だ!? ごつい甲冑なんか付けてかっこつけてるつもりかよ!?」


「気を付けてください! ブレイズさんの実力は本物です! 正直、あなたの能力ではとても……」


 親切心からか、受付嬢が後ろから震えた声をあげる。


「忠告感謝する。だが、問題ない」


「ほう、言うじゃねえか!」


 ブレイズはそう言うと両手から真っ赤な炎を生じさせる。


「叡智の炎(プロメテウス)!」


 奴はそう言いながら両手の炎を鞭のように変形させる。そして、その鞭を振り回し、周りの柵や机を燃やし、更には真っ二つにしてしまった。


「これが俺のスキル。炎を自在に操り、物質化する能力だ。どうだ、ビビッて声も出ねえか!?」


「……矮小」


「あ?」


「いや、お前があまりに小物なものでな、つい口からこぼれた」


 ブレイズの額に青筋が浮かぶ。


「てめぇ……、ぶっ殺す!」


 目にもとまらぬ炎の無知が唸りをあげて迫る。


 が俺にとってはゆるりと揺れる振り子。ブレイズの振るう鞭を目で追い、俺はゆっくりと鞭を掴んだ。


「な!?」


「あまりべらべら自分の能力を語るな。弱点を晒すことになる」


 俺はそう言いつつ鞭を引き寄せ、ブレイズの顔を睨みつけた。


「俺も実は炎を使えてな。正しい使い方を見せてやる」


 獄炎(インフェルノ)


 そう呟くと、体から黒い魔力があふれ、それが次第に炎のように揺らめき始める。その黒い炎は俺の体から放射状に延び、俺とブレイズを囲う檻をなす。


 そして、その檻からは次第に帳のように炎がおり、ついには周囲から完全に断絶した。


「なんだこりゃ!?」


「受付嬢が折角警告してくれたしな。俺も今持てる最大の力を持ってお前を倒す。これは周囲に被害が出ないようにするための安全策だ」


「はぁ?」


「悪(・)魔(・)召(・)喚(・)」


 詠唱と同時に、床には複数の魔法陣が描き出される。その魔法陣は一斉に黒い穴へと姿を変え、そこから禍々しい姿をした悪魔たちが姿を現した。


 老騎士フルカス、怪鳥イポス、牛魔ハーゲンティ、豹人オセ、烏魔マルファス。


 彼らの姿を見たブレイズは、体を震わせ、化け物を見るような目で持って俺を見つめていた。


「な、なんだこいつら!? お、お前の能力はこの黒い炎じゃないのか!?」


「勿論、どちらも俺の能力だ」


「バカ言え! スキルの能力は本来1つだ! 、それを拡大解釈して、複数の能力を作り出すことは出来るが、あくまでベースの能力は同じ! だがこれは違う! 黒い炎と、悪魔召喚? 似ても似つかねえだろうが!」


「まあ、確かに。だが仕方ない。俺のスキルは地獄(ゲヘナ)だからな」


 そこからの戦いは、実につまらないものだった。


 先ほどまで威勢よく吠えていたブレイズは、今や逃げ回るばかり。黒い檻の中を駆けずり回り、悪魔たちから必死に逃れようとしていた。


 だが、逃げ場などない。


 黒い炎が網のように広がり、行く手を塞ぐ。悪魔たちが一斉に襲いかかり、ついにブレイズの足を切り裂いた。


「いでぇ! 痛ぇよぉ!」


 足を切られ、血が滴り落ちる。その痛みから、ブレイズはそんな情けない声を漏らした。


 どうせ、今まで力のおかげで大した怪我もせずにやってこれたんだろう。この程度の怪我で根を上げるとは。


 ため息をつきながら近づく俺に対し、ブレイズは尻もちをついて遠ざかろうとする。


「ああ、頼む、頼む! 許してくれ、見逃してくれ!」


「地獄門(ヘルゲート)」


 ブレイズの懇願を無視して、俺は剣を地面に突き立てた。すると、背後から巨大な門が姿を現し、その扉がガバリと開く。


「許すかどうかは、コレが決めることだ」


 開け放たれた門から悪魔のような手が無数に飛び出す。その手は一直線にブレイズの元へと伸び、奴の体を拘束した。


「な、なんだよこれ!?」


「さあ、ヘ(・)レ(・)ル(・)、こいつの罪はなんだ?」


『第五罪位・戒め(アドモニション)だ。ふん、くだらん。実に滑稽で、小さい男よ』


「全くだ」


 俺がそう言うと、奴の体を掴んでいた手が徐々に形を変えていく。


 手同士が繋がり、より強く、深くブレイズの体を縛り付ける。それは黒い鎖となって奴の体に沈み込んでいく。


「なんだ、これ?」


「戒めの鎖。今後、貴様が悪事を働く時、その鎖が貴様を強く縛り付ける。その痛みは、その足の怪我など比ではないぞ」


 俺の答えに、ブレイズはまたしても怯えた声を漏らした。


 指をパチンと鳴らし、インフェルノの檻、そして召喚された悪魔たちを戻す。外ではすでに怪我をした冒険者たちの処置や救護が始まっていた。


「た、助かった? や、やった、やった!」


「待て、最後に聞きたいことがある」


 俺の言葉にブレイズはもとより、周りの冒険者たちも耳を傾ける様子を見せる。


「貴様、勇者と親友と言ったな? 奴らは今どこにいる?」


 俺の問いかけにブレイズはお気楽な表情を見せてこう答えた。


「あ〜、すいません、嘘です」


「……そうか」


「いや~、あの何と言……」


 俺はため息をつきながら、手に持っていた剣で奴の頭を跳ね飛ばした。


 その様子に、冒険者はどよめきの声を上げ、俺と話していた受付嬢は「そんな……」と呟きながら口を覆っている。


「受付嬢、契約は果たしてもらうぞ!」


 俺はブレイズの首元から溢れた、冒険者の証たる首飾りを手に取りながら受付嬢に向かってそう叫んだ。


 対して、受付嬢は怯えた目をしながら、俺にこう問いかける。


「あ、あなたは一体誰なんですか……」


「言っただろう、俺はカイン・ユリウス。俺から全てを奪い去った勇者パーティ(くそったれども)に、死の制裁を与える者だ」


 受付嬢にそう告げつつ、俺はギルドの外へ向かって歩き出す。


 やはり、フローレンス卿を探すしか道はないか。


 待っていろ、勇者ども。10年前、俺の信頼を、友情を裏切って故郷を燃やし、家族を奪ったことを必ずや後悔させてやる。


 そうだ、全ては12年前。奴が俺に手を差し伸べたことからすべてが狂いだした。

プロローグをお読みいただき誠にありがとうございます!


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