悪魔召喚
剣、槍、斧、更に弓矢まで。
俺は獄炎の自在性を確認するため、ノード村へと向かいつつ様々な武器や道具を炎で作り出していた。
これはいい! まさに比類ない素材だ。柔らかく肌触りのいい布から、極めて頑丈な金属まで、数多の素材に変容することができるとは。
『だから言っただろう? 地獄の業火は普通の炎とはわけが違うとな』
俺がインフェルノの能力に感嘆していると、自慢げにヘレルがそう言ってきた。
「ああ。だがまさかこれ程までとは」
『そうだ、いいことを考えたぞ。カイン、その炎を包帯のように体に巻き付けてみろ』
名案だ、と言わんばかりにヘレルは言った。その言葉に俺は首をかしげながらも、手のひらの炎を首や頭、手に巻き付ける。そしてその炎を黒い包帯のような布に変化させた。
「これが何だって言うんだ?」
『さっきの子供を見たろ? 恐らく奴はお前のひび割れた顔が怖くて逃げたんだ。こうやって包帯で覆えば、ほら、見えなくなったぞ』
「そういう問題じゃないと思うけどな……」
そう呟く俺にヘレルは『どういうことだ?』と首を傾げる様子だった。
◇◇◇
しばらくの間変わらぬ森の景色の中を歩いていると、ようやく木々が開けた場所に出る。そこはどこか道のようで、一直線に左右へと延びていた。
なんだこの道は? こんな道、10年前はなかったぞ?
『人間はたった10年でこんな道を作るのか。さすが、数が多いだけはある』
いや、そう言う問題じゃない。ここら辺は小さな村が集まった集落地帯だ。そんな小さな村々のためにこれだけの道を作るはずはない!
俺が目の前の光景に困惑していると左手の道の先から、馬車に乗った商人らしき男がゆっくりとこちらに近づいて来る。
その男は道中に立ち尽くす俺の姿を見るや否や、馬車を止めて運転席から降りた。男はどうやら俺のことを見て恐怖しているようで、荷台から槍を取り出してゆっくりと近づいてくる。
「お、おい! あ、あんた何もんだ!? そこにいられると邪魔だ、どいてくれ!」
ふくよかな体型で、白い口髭を蓄えた男は槍をこちらへと向けながらそう叫ぶ。
『どうしてだ? せっかくひび割れを包帯で覆ったというのに……』
「当たり前だ。今の姿を見てみろ? ほぼミイラだぞ?」
『ばかな、そんなわけあるか』
俺はヘレルの言葉で自分の手を見やる。
ぐるぐる巻きにされた包帯。これが、顔にも巻き付いている。どこからどう見てもミイラだろ?
『……確かに、ミイラと言われても仕方ないかもしれないな』
諦めたようにヘレルはそう呟いた。
はあ、仕方ない。どちらにしたって怯えられるんだ。なら、こんな包帯取り去ってしまえ。
そう思って、俺は包帯を炎へと戻し、そのまま体の中へと収める。だが、どうやら、目の前の商人には逆効果だったようだ。その様子を見た商人は、手に持っていた槍を投げ捨て「ひぃ~」と情けない声をあげながら馬車を置いてどこかへと行ってしまった。
『ふん、人間はどいつもこいつも腰抜けか?』
仕方ないだろ。こんな、見た目の奴が目の前に現れたら大抵の奴は逃げる。
『そういうものか?』
ああ。……しかし困ったな、こんな顔じゃあ、勇者どもの情報を聞き出そうにも逃げられてしまう。どうにかして自然に顔を隠す方法はないものか……。
俺が考え込んでいると、ヘレルが頭の中でクスクスと笑い出した。
「何が可笑しい?」
『いや、顔を隠す必要などない、変えてしまえばいいのだ』
「顔を、変える?」
『ああ、ちょうどいい奴がいる。今こそ、悪魔召喚の時だ!』
◇◇◇
「悪魔召喚?」
地獄の苦痛にも少しずつ慣れ始めていた頃、次のステップと言って口にしたヘレルの言葉に対し、俺はそう返した。
「ああ」
「なんだ? お前を召喚するってことか?」
「いいや違う。他の悪魔を、だ」
バカな。あり得ない。
心の中で俺はそう思った。
俺がヘレルと交わした悪魔契約は、本来大陸全土で禁止されている禁術。その中でも、悪魔契約は未遂の時点で即極刑になるほどのタブー、禁忌である。故に、様々な魔導書でなぜ悪魔契約が禁止されているのか、その効果や危険性が記されている。
そして、俺が知っている悪魔契約の効果はヘレルが言うものとは少し異なるものだった。
「あり得ないな。悪魔契約の効果は、その契約した悪魔が持つ権能を現世で行使できるようになるのと、契約した悪魔を一定時間現世に顕現させられるというもの。他の悪魔を召喚できるなんて聞いたことがない」
ああ、そうだ。そんなことはあり得ないんだ。そもそも、なぜヘレルが他の悪魔を召喚できる? まさか、悪魔を統治する支配者とでもいうのか?
「その通りだ」
俺の頭の中の疑問に答えるように、ヘレルは一言そう呟いた。
「何?」
「貴様の思っている通りだと言っているのだ。会った時にも言ったろう、私はこの地獄を統べるもの、悪魔の王だ」
ヘレルは、いたって真剣な表情でそう言ってのけた。その顔には奴が冗談を言っている感じが微塵もない。
「悪魔の王か……。まさか、契約した奴がそんな恐ろしい奴だとは思わなかったな」
「喜ぶがいいぞ? 私以上の悪魔は存在しないのだからな」
そう言いながら笑うヘレルは気を取り直したように、話題をもとへと戻し、悪魔召喚の説明へと入った。
「召喚方法はいたって単純だ。インフェルノによって、地面にでも、空中にでも魔法陣を描き、召喚したい悪魔の名を言えば、魔法陣が地獄につながる暗黒の穴となって、そこから悪魔が出てくる」
「ほう。ちなみに、召喚できる悪魔の数は?」
「72種」
俺の問いかけにヘレルはそう答えた。だがその後、「本来ならば、だが……」と小さくつぶやく。
「多いな」
「ああ。そしてその誰もが、地獄の中で偉大な地位についている者だ」
地獄にも階級があるのか? はっ、どこに行こうが不平等はなくならないということか。
「まずはその中でも、比較的御しやすい奴から試すとしよう。いや、逆に制御などできないと言えるかもしれんが」
「は? 何を言って……」
「さあ、出てこい。地獄の大総統・オセよ!」




