8.模擬戦
練習場は道場と同じく板張りなのだが、慣習の違いで土足なのがなんだか申し訳なくなる。だが素足では痛そうなので履いてきたローファーで挑む。他は聖女用のハイヒールしかないのだ。
かたやお相手は騎士らしく? シャツとパンツにブーツの組み合わせで動きやすそうである。これだけですでにハンデがありそうなんだけど誰もそんなことは言ってくれない。
「ではこれから模擬戦を始める。双方とも急所への寸止めを心掛けるように。防具のある部位への打撃は認めるものとする」
マルス隊長の合図で開始位置へと足を進めた。
「なお使用武器は各々得意とされるもの、聖女様は木刀、オウハヘロは木剣を使用することを認める。では双方前へ―――― 始め!」
「コーン、カコン、カッ、カッ」
練習場に木剣の打ち込みを木刀でいなす音が響く。木剣同士とはあ異なり乾いた音に懐かしさを感じてテンションを高めてくれる。
開始早々飛び込んできたオウハヘロと言う名の騎士、口だけではなく実力もそこそこだった。それでもアタシの敵ではなさそうだ。
なんといっても相手はスローモーション、見切るのが簡単すぎて申し訳なくなるくらいだ。問題はどうやって遺恨なく終わりにできるかだろう。
やはり空振りを誘って隙を突くのがいいだろう。
「やあっ! 聖女様はそれらしく大人しくしていればいいんだよっ!」
そんな風にしゃべりながら打ち込むほどの余裕があるのだろうか。それならそれでこちらも一気にカタをつけてもいいかもしれない。
アタシは後ろに飛び去りながら上段に構えた。すると胴ががら空きと見たオウハヘロが横なぎの一撃を放ってくる。
襲い掛かる木剣へ向かって木刀を斜めに打ち下ろす。上段の構えはフェイクだったのだからなんてことない剣裁きだ。
そのままからめ取るように剣筋をいなし、その手元へ籠手を打ち込みそのまま胴を払う。いわゆる籠手胴である。
アタシの通っている流派の道場では片手撃ちでのすね打ちや袈裟がけでの首打ちも認められている。しかしここではそんな荒業の出番もなく一般的な剣道の技で事足りた。
「そこまで! 聖女様の勝利!」
わかっていたこととはいえ、モモをはじめとして聖騎士隊のみんなが大喜びで駆け寄ってきた。マルスも満足げである。
かたや納得いかないといった風なのはオウハヘロであり、彼と仲の良い騎士たちだった。
「い、今のは油断しただけだ。もう一本頼む!」
「油断が取り返せるような戦場ばかりだといいのだがな。いい加減自分の非礼をわびたらどうだ? その上で稽古をつけてもらえばよかろう」
なぜマルスはわざわざ刺激するようなことを言うのか…… とにかく剣術バカであることは間違いないように思える。
それでも久しぶりの実戦形式は楽しく、直剣から派生した剣技に刺激を受ける部分もある。特に突きを重視しているところはきっと実践向けで威力重視なのだろう。
「アタシはまだまだやれますから構いませんよ。どなたかお相手いただけますか?」
周囲を取り囲む騎士たちはとまどっているようだが、それでも数人の手が上がった。どうやら相手には困らなそうである。
こうして次々に相手をしていって、十人ほど立ち合いをこなした。もちろん無敗である。技術的には拮抗してそうな相手もいたが、スローモーションでなくとも勝てそうな相手が多い。
最後に聖騎士隊の面々とも立ち合いをし、最後はモモが相手だった。本気を出すと稽古にならないので、モモの繰り出す剣を裁きながら動きの確認をしていく。
それでも延々とやっているわけにはいかないし、最終的には突きをはね上げこちらも首筋へ突きを打っておしまいとなった。
「ハルカ様? その湾曲した木刀の剣技を真似てもよろしいですか? 普段は直剣を使用しているのですが私には少々重く持て余しているのです。サーベルならうまく扱えるのですが威力に乏しく魔物の攻撃を受け止めるのも難しいのです」
「真似てくれるなんて嬉しい。アタシの国には刀という剣があってそれをかたどっているんだけど、刀身が薄くて包丁のようなのよ? だから攻撃を受け止めるよりは受け流すのに向いているかな」
「なるほど、流れるような剣技は剣の特徴を生かすものなのですね。刀―― 同じものが作れないかなじみの鍛冶師に相談してみます!」
「実物は持ってないから見せることができなくてごめんね。でもサーベルが似たようなものならきっと再現できるでしょうね。部屋に行けば写真―― えっと模写したものがあるから見せてあげる」
「それは助かります。ありがたきご配慮痛み入ります」
「じゃあお風呂が終わったらアルマに呼びに行ってもらうわ。お茶とお菓子も用意しておくから楽しみにしててね」
そんなこんなで立ち合いは終わり、アタシは満足げに鼻歌交じりで部屋へと戻ったのだった。




