7.誤解とプライド
数日後、ノアゲ村へ行ったときの腐敗地域浄化について反省会が行われた。どうやら小規模な場所にもかかわらず魔物との戦闘に苦戦したのが原因らしい。
「ですのでドーセリアン長老、六名では少ないと思われます。現に魔物討伐をする場合は一から二個小隊を動かすのですから、いくら騎士だけで構成したと言っても少なすぎます」
「だが一般兵を動かすのは財政的に厳しく…… かといってこれ以上騎士を動員するといざというときの守りがおろそかになりますゆえ難しいかと」
「ならば次回は魔物討伐の予定にあわせて我々聖騎士隊も同行することにしたらいかがでしょうか。そうすれば人員の問題は解決されるはずです」
「うーむ、現場の責任者であるマルセリード殿がそうおっしゃるのであれば確かに人員は不足なのでしょう。ですがまだ一度の浄化に成功しただけの聖女様を大規模な汚染地域へお連れするのは無体ではございませぬか?」
どうやら次回以降の作戦について話し合っているようだけど、マルスとドーセリアンで意見が割れているようだ。
その理由と言うか原因は聖女であるアタシの技量や経験の不足を心配してのことだろう。当事者としては人数を増やしてもらえるなら安心感は増す。
ただ無理を通すことでマルスの立場が悪くなるのは避けたいところだ。
「あのう―― 口を挟んでしまって申し訳ありませんが、アタシとしては今の人数でできそうなところで経験を積みたいと考えています。隊長? それではだめなんでしょうか」
「いいえ、だめではありません。ただ今回のように聖女様に危険が及ぶことは万が一にも許されません。聖女様だけは兵たちと違って代わりが効かないのですから」
「ありがたいお話ですが、騎士たちも兵たちも代わりが効かないのは同じこと。誰でもその人の人生を生きているのです。だからそんな冷たい言い方しないでください」
「そ、それは…… 語弊があったようで申し訳ございません」
「ただ、ご心配くださることはうれしいです。でもご覧いただいたように、アタシは自分の身くらい守れますから過剰にご心配なさらぬようお願いしますね」
そう言った瞬間、同席している他の騎士から失笑がこぼれた。そりゃ見ていた騎士たちは理解してくれているはずだけど、同行していなかった騎士たちにとってみればただの小娘にしか見えないだろう。
「おまえたち、またそうやって聖女様を愚弄するような態度を! あの剣技を見たら笑われるのはどちらだと思うのだ? もしかすると私でも負けるかもしれない、それくらい素晴らしいものだったのだぞ?」
「マルセリード副団長? いくら聖女様を擁護したいとしてもそれは大げさすぎます。聖女様が魔物を倒したなどと言われ誰が信じると言うのです?」
これにはついカチンと来てしまい思わず拳を固く握りしめた。しかしこの場で大口をたたいてもなにも始まらない。黙っているが吉だろう。
「では問おう、聖騎士隊の面々よ、私の言っていることに疑問があるなら申し出るがいい。不満があるのなら聖騎士隊から外してもいいぞ」
「いいえ、マルセリード隊長、私は一番近くで拝見させていただきましたが間違いございません。あの剣技が無ければ私は命を落とさないまでも大ケガをしていました」
モモが真っ先に声を上げてくれた。それ自体はうれしいけれど、騎士団の中での立場が悪くなったりしなければいいのだがと心配になる。
ほかの隊員も異論はないようで、アタシを笑った騎士はすこぶる不満そうである。
「ならばこうしよう。君の選んだ騎士と聖女様による模擬戦だ。もちろん君自身が手をあげても構わんぞ?」
「ちょっと隊長!? いったい何を言い出すのよ!」
思わず素が出てしまうくらいには驚いてしまったが、おそらくは大した腕ではないのだろう。
エターナル王国の騎士は兵士として優れているから抜擢されるのではなく、加護を持っているから選ばれるだけ。つまり剣技に優れているとは限らない。
それに今のアタシは相手がスローモーションに見えると言うインチキな強さまで身に着けている。負けるほうが難しいと言うものだ。
だがそうだとしても実際に立ち会うのは別問題である。もちろん大勢の前で負けて恥をかくのは嫌だけど、勝っても恨まれそうだし恥をかかせることにもなる。
それなのにマルス隊長はなにを考えているのか。その答えはモモが持っていた。
「ハルカ様、マルセリード隊長はものすごく勝負にこだわる方なんです。何ごとも最後は模擬戦で片づけようとするくらいには……」
「まさかあの完璧すぎるマルスにそんな一面があるなんて思いもしなかったわ。もしかしてこれってもう避けられないのでは?」
「かもしれません。諦めてください……」
アタシとモモがひそひそと話をしていると、さらにその行動が火をつけてしまったのか、相手の騎士がテーブルを叩きながら勢いよく立ちあがった。
「副団長がそこまで言うのならやってやりましょう。聖女などいなくても魔物討伐は我々騎士団がかじ取りをすれば済むこともあわせて思い知らせてやる。
どうやら彼は、今まで必死に国を守ってきたのにひょっこり現れた聖女が魔物討伐の最前線となり旗振りをするのが気にくわないようだ。
少なくともアタシにはそう感じられて誤解を解きたくなる。もちろんその境遇に少々同情もするし、説明をきちんとしていない側にも原因があるだろう。
それでも久しぶりの立ち合いにアタシはワクワクが止まらなくなっていた。




