6.帰還
今まで魔物の脅威にさらされてきたノアゲ村では歓喜の声が響いた。なんといってもこれで森へ狩りに行きやすくなり食料確保が楽になる。
もう何年も不自由な暮らしをしていたのだからその喜びは計り知れない。アタシがその助力になれたと言うのはとてもうれしく、まるで自分のことのように喜んでしまった。
「聖女様、本当にありがとうございました。なんとお礼を申し上げればよいかわかりません。全村民に変わり村長のわたくしめが御礼申し上げます。なにも差し上げるものはございませんが、せめてものもてなしをお受けくださいませ」
「アタシだけの力じゃなくて騎士さんたちの助力あってこそだし、村のみんなも今まで耐えてきたからこその喜びでしょう? だから全員で祝杯をあげましょう」
「おお、もったいなきお言葉ありがとう存じます。ホンになんと御礼を――」
泣き出してしまった村長を見れば、今までの苦労がわかると言うものだ。マルスをはじめとする騎士たちも満面の笑みを浮かべて満足げだ。
だけどこれで終わったわけではなく、全国に同じような腐敗地域がたくさんあるのだと言う。つまりこれは終わりではなく始まりと言うことになる。
本当にアタシに何かできるとは思ってなかったけど、実際にやってみると達成感があっていいものだと感じた。人の役に立つと言うのは自分にとっての喜びにもなるのだなあ、なんてね。
この夜は遅くまで宴席が続いたのだが、アタシはお酒も飲めないしまあまあ疲れていたので早めに床へついた。そのせいでモモまで切り上げてもらってしまったのは申し訳なかったけど。
◇◇◇
翌朝、陣を片付けてから出発となり、アタシたちはまたぞろぞろと王都へと戻った。
「聖女様、ご無事でのご帰還、このドーセリアン安心いたしました。それにしても最初から問題なく浄化を成功させるとはさすがでござます」
「何がさすがなのかわからないけど大きなトラブルがなかったのは良かったわ。筆頭長老もきっと心配してくれていたのでしょう? ありがとうございます」
「なにをおっしゃいますか。わたくしなぞなにもできずただお待ちするのみ。礼を賜るなどもったいないことでございます」
筆頭長老のドーセリアンは色々と大げさである。それでも喜んでくれているのは本心だろうから言われて悪い気はしない。
国王への報告はドーセリアンとマルスが済ませてくれると言うので、アタシはのんきに自室へと戻った。
「アルマ、ただいまー はあ疲れた。お風呂に入りたいんだけどこんな早い時間から用意をお願いしたら迷惑かな?」
「迷惑だなんてとんでもございません。今すぐに支度いたしますので、聖女様はおかけになってお待ちください。まずはお茶を淹れますのでおくつろぎくださいませ」
「ありがとう。やっぱりアルマがいてくれると気持ちが楽になるわ。任務中は女性の騎士がついていてくれたけどどうしても気が張ってしまうんだもん」
「そう言っていただけると嬉しく存じます。女性騎士は来賓で女性要人がいらしたときにも周辺警護を行いますが、今回は戦闘前提ですからメイドとは違って神経を研ぎ澄ませているのでしょう」
「それにしても聖騎士隊の剣術はなかなかのものだったわね。アタシも訓練に混ぜてくれないかしら。このまま上げ膳据え膳じゃ体がなまって仕方ないもん」
「訓練に参加するとはまさか剣術の!? 聖女様がそのようなことをするなんて筆頭長老が許可するとは思えませんが……」
「そっか、責任者はドーセリアンなのね。あとで聞いてみようっと。まだ帰れるまでには日があるしね」
「聖女様は帰ってしまわれるのですか? 今回はまだ近隣の一か所だけと聞いていたのでずっといらしてくださるのだと考えておりました」
そうか、二十日経ったら日本へ帰ることは公表しているわけじゃなかった。もしかしたら秘密だったのかもしれないが、言ってしまったものはしかたない。
アタシは紅茶を一口すすってから思い切って答えた。
「もちろんこうしてよくしてもらってるのはうれしいんだけど、アタシは別の世界から来たわけで向こうに家族や友達がいるのよね。だから帰れるなら帰りたいの」
「左様でございますか…… 少しさみしいですが事情は理解できます」
「でもね、もちろんこれで浄化が終わったわけじゃないし、ドーセリアンはきっとまた呼び出すんでしょうね。そうじゃなきゃ国全土が魔物の脅威から解放されるわけじゃないもの」
「ではまたいらしてくださるのですね! 良かったです」
「本当に行ったり来たりできるのかとか、ドーセリアンが別の聖女がいいっていいださないかとか、不確定なところもあるけどアタシはまた来るつもりでいるわ」
そのあたりもきっちりと話しておかないと、心構え的にどう考えて待っていればいいのかわからなくなる。
そもそもこっちで二十日も過ごしていたら出席日数が足りなくなって留年してしまうかもしれないし、大学入試にも影響しそうだ。
次来るときは勉強用になにか用意してこないとダメな気がする。カバンの中には教科書とノートは入ってるけど全部じゃないし、あとの所持品はスマホや充電器、それに胴着と木刀だけである。
考えることが多くて頭が痛いけど、まずはゆっくりとお湯につかって疲れを癒したいところだ。猫足のバスタブに入るなんて女子の夢だもん。
お風呂に入っているときはアルマに裸を見られてしまうのはハズいけど、髪の毛を洗ってもらうのはヘッドスパみたいで気持ちいい。
アルマがバスタブへお湯をためている間、アタシはお茶とお菓子を味わいながら楽しみに待つのだった。




