2.聖騎士隊
わけがわからないままで聖女召喚されてしまったアタシがエターナル王国へやってきてから四日が経った。
心配していた国王との謁見は考えてたよりも楽勝で、どちらかと言うと聖女のほうがエラそうな雰囲気もあった。
今日はいよいよ聖騎士の選定が終わるらしく、まもなく顔合わせが行われる予定である。公式に誰かと会うのはこれが二度目なので緊張する。
「聖女様、そろそろお召替えをいたしましょう。お手伝いいたします」
「アルマ? その聖女様ってやつやめない? 気楽に遥って呼んでくれたらいいんだけど?」
「そのようなご無礼許されません。私は聖女様に憧れておりますし、このままでご勘弁くださいませ」
「でもさあ、アタシには友達ひとりいないんだよ? かわいそうだと思ったら名前で呼んで。いつからでもいいから待ってるね」
毎日同じような会話をしながらこの日を待っていた。別に期待しているわけじゃないけど、なにもやることがなくご飯とお茶とおやつだけで過ごす毎日は退屈なのだ。
とは言ってももちろん素振りは欠かしてないし、運動がてら城内を散歩して回る程度には体を動かしていた。
その時に気が付いたけれど、驚くことに疲労感が全くないこととたまに周囲の動きが極端に遅く見えることがある。それはまるで自分だけ倍速で動いているようだ。
この状態で道場へ行けば師範代どころか師範にも勝てそう。そんなことを考えながらほくそ笑む。
「いかがいたしました? ご機嫌がよろしいのは喜ばしいのですが、お着替えをお願いいたします」
「そうだったわね。でも本当にこんなの着るの? 裾までひらひらしてて動きにくそうなんだけど? 行先って危ないところなんでしょ? これじゃ走ることも難しそうで心配だけどなあ」
「聖女様が走る必要の無いようお守りするのが聖騎士隊ではございませんか? 詳しくは存じ上げませんが、筆頭長老からはそう聞かされております」
筆頭長老と言うのはあのドーセリアンという老人のことらしい。ちなみにメイドとしていつもついていてくれるこのアルマも所属は聖教会とのことで、選抜を勝ち上がって聖女の世話係の座を射止めたらしい。
それにしても絵にかいたような聖職者的な服装である。白地に金刺繍の入ったAラインのドレス、その上には同じデザインのフード付きローブを着ることになる。
それと先日渡された金色の錫杖を持ったら、ガサツで男っぽいアタシでも聖女に見えるだろう。
一番の問題は着替えを手伝われることだ。はっきり言って恥ずかしいけど、断るとアルマの仕事が無くなってしまうと嘆かれるのだから我慢するしかない。
こうしてアタシは頭からつま先まですべてを整えられ、見た目だけは立派な聖女になった。
準備が整ったところでいよいよ聖騎士隊との顔合わせである。なるべく丁寧に足を運んでゆっくりと廊下を進んでいく。中庭が見えるところまで来ると整列している騎士たちが見えてきた。
「アレ全員が聖騎士なのかしら。五十人以上はいそうだけどおおげさじゃない?」
「あそこで整列しているのは騎士団全員のはずです。その下に一般兵がおりますので、王国軍自体はもっと大規模でございます」
「詳しいのね。もしかしてアルマも戦場へ出ることがあるの?」
「よほどのことが無ければございませんが、絶対にないとは言い切れません。特に加護を持った者は駆り出されるでしょう。私にはございませんので最後の最後になるかと」
加護と言うのは魔法のようなもので、アタシの聖なる力もその一つだ。火と水と大地があるらしく、騎士団に入るには必須だと聞いていた。
おしゃべりをしながら歩いてきたが、ようやく集合場所へと到着した。走ってくればすぐなのに、こんな恰好ではとても走り回ることなんてできない。
「聖女様、お待ちしておりました。ではこちらへどうぞ」
ドーセリアンが騎士団の前へと案内してくれたが、全員の視線が一気に集まり緊張が最高潮に達してしまった。
「どど、どうも。みなさん強そうですね」
「恐悦至極に存じます。この中から六名の精鋭を聖騎士隊として新たに編成いたしますので、聖女様に危険が及ぶご心配はまずないと考えております。では騎士団長、お願いします」
「かしこまりました。 ――それではみなのもの、聖騎士は筆頭長老の命により選抜した。呼ばれたものは前へ出るように」
騎士団長と言われた男性がメモ用紙のようなものを取り出し読み上げ始めた。
「サンカー、タクリーム、ニッシュ、モモ、ユーケス、そして聖騎士隊長にはマルセリード=シャローブッシュを任命する。全力で任務に当たれ!」
「「はっ!」」
確かに精鋭と言うことで皆パリッとしていて強そうな雰囲気を醸し出している。特に隊長へ任命されたマルセリードという騎士は別格に感じた。
しかし騎士団員全員が聖女に好意的とはいかないらしい。
『聖女か何か知らないが本当に腐敗の浄化なんてできるのかね』
『あんな貧弱そうな女じゃ魔物を前にしたら漏らすんじゃねえか?』
ひそひそとそんなことが聞こえてくるくらいには懐疑的な団員もいるらしい。そりゃ体を張っている騎士団に比べたらアタシなんて何ができるか自分でもわからないくらいだから言われても仕方ないだろう。
ところが――
「今小声で悪意を振りまいた者! 後ほど根性を叩き直してやるから覚悟するように。これは国の命運を賭けた一大作戦だ。文句があるなら堂々と言うことだな」
聖騎士隊長のマルセリードが大声で怒鳴りつけると、陰口を言っていたらしき騎士たちが小さくなった。
同時に、アタシは少しだけホッとして何とかなりそうな気になっていくのだった。




