1.聖女召喚
それは学校からの帰り道のことだった。いつものように道場へ向かうため、急いで小走りだったアタシの足元が突如光りだす。
「なにこれ! 新手の盗撮!?」
そんなことを叫ぶ間もなくアタシの全身は光に包まれ何も見えなくなった。いったい何が起きたと言うのだろう。
『おおお、聖女様が降臨なされたぞ』
『召喚の儀は成功だ!』
『これで我が国は救われるだろう』
なんだか大仰な声がいくつも聞こえてくる。いったいここはどこだろう。少なくとも通学路でないことは確かだ。
だんだんと目が慣れてきて視界が元に戻ってきたが、それでもここがどこなのかはさっぱりわからない。わかることと言えば大勢に囲まれていることくらいだった。
「ようこそお出でくださいました、聖女様。おそらくとまどっておられることでしょうが、ここはエターナル王国の儀式場、わたくしは長老のドーセリアンと申します」
白髪に白髭の老人が声をかけてくれたものの声が出ない。なぜなら老人が言ったことがあまりにも常識外れだったからである。
それでもなんとか声を振り絞り尋ねてみることにした。
「これはご丁寧に。アタシは鐘ヶ淵 遥です。それはともかく王国ってなんですか? ここは日本じゃないの? まさか聖女ってアタシのこと? どうでもいいから元に戻してください!」
「はて、日本と言うのは元々おられた国のことでしょうか。まことに申し訳ございませんがすぐにお戻しすることはできないのです。聖女様にはぜひご助力いただきたく存じます」
「なによ! そんなの誘拐と強制労働じゃないの―― ここは圏外みたいだしどうにもできそうにないけど、勝手なこと言われたって協力なんてしないんだから!」
スマホを確認する限りいつもいる場所でないことは間違いなさそうだ。それにしてもなんとか王国とか聖女とか意味不明すぎる。
それに助力と言われたってなにをどうするのかもわからないのに返事のしようがない。帰れないことも含めてめちゃくちゃだ。
「わたくしどもの身勝手なのは重々承知しております。ですがもう頼れるのはあなた様だけなのです。お願いでございます聖女様、どうか我々をお助けくださいませ」
「そりゃ困ってるなら助けてあげたいと思わなくもないけど、いったいアタシに何をさせようって言うわけ? できることとできないことがあるだろうし、元の世界に戻してくれるのが条件だからね?」
「それはもう必ずお返しいたします。ただ、召喚の儀を行えるのは赤の月が出ているときのみ、次はおよそ二十日後でございます。どうかその間に腐敗地域の浄化をお願い申し上げます」
「腐敗地域? 汚職的なことなら政治家の仕事でしょう? アタシに何かできるとは思えないけど?」
「いいえ、腐敗地域とは文字通り土地が腐っていく場所のことにございます。腐敗が始まると辺りは黒々と汚染され魔物が現れるのです。放っておけば近隣の村や町に被害が出てしまうのでございます」
「それは大変だけどアタシに何ができるわけ? 聖女って言われてもピンとこないし思い当たることもないわよ」
「ではこちらをお納めください。聖女としての力を発揮しやすいよう補助してくれる聖なる錫杖でございます。これをお持ちいただき浄化を念じて下さればその御力の一端はおわかりいただけるでしょう」
聖なる錫杖とやらを手渡されたアタシは、よくわからないまま両手で握りしめこの場を浄化するよう念じてみる。
すると錫杖が光だし周囲を明るく照らし出す。その直後、見た目にはよくわからないがなんとなくさっぱりした気分になるのだった。
「なんだろう、なんかお風呂上りみたいにきれいになったような――」
「おおお、なんということでしょう。またたく間にこの儀式場を清浄化してしまわれるとは素晴らしき御力でございます。これならすぐにでも腐敗の浄化も可能かと存じます」
「いやいや、さっき魔物? が出るし村や町が危険だって言ってたでしょ。それともアタシなら危ないところに送りこんでも構わないって言うこと!?」
「まさかそのようなことはございません。聖女様の御身は王国騎士団から選りすぐられた聖騎士隊にてお守りいたします。決して危険が及ぶことはございません」
「それならいいけど…… それで今すぐ連れて行こうなんて言わないわよね?」
「もちろんでございます。まずは王城にて数日ゆっくりとお過ごしください。その間に聖騎士隊員と向かう場所の選定を行いますゆえ」
「どうせ帰れないんだから言うこと聞くしかないってことね。もし何もしないで二十日間過ぎるのを待つって言ったらどうするの?」
「その場合は仕方ありません。聖女様のお気持ちを最優先で尊重いたします。国土全てが腐敗に飲まれるまでは、騎士団による魔物討伐をするしかございません」
「つまりそれって――」
「国が滅びることになるでしょう。もちろん我々含め民は全滅かと――」
ズルい。この言い方はズルすぎる。何かできることがあるならやってあげたいと、アタシの中の正義感が言っていた。
「わかったわよ。やればいいんでしょ。でもなにもかもうまくいくなんて考えないでちょうだい。アタシもまだなにがなんだかわからないんだから」
「ありがたき幸せ。後ほど国王様への謁見を予定しておりますので、それまではお部屋でごゆっくりおくつろぎくださいませ」
その後、アタシは聖女専属メイドだと言うアルマに引き渡され、教室の倍ほどある自室へと案内された。あまりの大きさに圧倒されてしまいかえって落ち着かない。
それでもお茶やお菓子を出してもらい、見かけだけのくつろぎ時間を過ごす。しばらくしたら国王との謁見と言われたがどうすればいいのだろう。
もしエラそうにされたらブチ切れてしまうかもしれない。とりあえず一緒にこちらへやってきた剣術道具の中から木刀を取り出し、もしもに備えて握りしめる。
こうしてアタシはよくわからないままに異世界? のエターナル王国で第一歩を踏み出したのだった。




