18.既知との遭遇
陣を張ってから夜の間には何ごともなく、無事に朝を迎えた。だが朝が安全で何ごともなかったわけではない。
「それで? あなたたちは何者なわけ? まさかこの期に及んで聖女だなんて言いださないわよね?」
「わたしたちが何者だろうとアンタなんかに関係ないでしょ? たかが騎士隊がでしゃばるんじゃないわよ!」
朝の見回りで発見遭遇したのは例の偽聖女一派だったのだ。まず偽聖女が一人、他は騎士風に装っているが、おそらく半グレみたいなの四十人ほどが一緒だ。
これだけの人数がいれば、街へ魔物を誘導することも可能だろう。それでも相応の技量は必要だろうし、その力を無駄に使っていると言える。
「我々は正規の騎士団員だ。抵抗せずに投降しろ。今ならまだやり直せるだろう」
マルスが半グレたちへ投降を呼びかけるがほとんどの輩はニヤニヤと笑っているのみだ。まあ言葉でわかるような連中なら初めから人の道を外れたことなどしない。
「その態度を見る限り、反省するつもりはないようだね。それでは正式に法へのっとった裁きを開始するとしよう。ハルカ様もお手伝いくださいますか?」
「ええもちろん。戦意を奪えばいいのよね? 骨くらいは折れてしまうかもしれないけど自分たちが悪いのだから我慢してもらうわ」
「ぐあっはっは。なにをバカなことを。本物の聖女だか何か知らないが、まさか人間を浄化するなんて言い出すんじゃねえだろうな。全くおもしれえ。野郎ども! やっちまうぞ。聖女と女騎士は全員で楽しむんだから大事にな、げへへ」
完全に一触即発、こうなったらどうにもできないだろう。やるかやられるか、だがせっかくマルスが気を使ってくれているのだから命を奪わないことは絶対である。
そしてそれはアタシたちが柄に手をかけた瞬間に始まった。
『カンカンカンッ!』
『ゴキッボコッガコン』
『キンッザアア、キンカキンキン』
普段なら全くひと気がないであろう腐食地域側のすぐそばで戦闘は行われている。しかもなんとも不毛なことに、これは人間対人間なのだ。
こんなところで無駄な戦闘をしていて絵も仕方ない、それにこの人数が相手だと技量で上回っているのはほぼ関係なく帳消しになってしまいそうだ。
さらに物事を複雑化しているのが魔物の存在である。彼らにしてみれば扇動の大勝でありあわよくば村へと向かわせそうなもの。
しかし完全に操れたりするような簡単な話ではないらしく、魔物たちは無差別に襲ってくるだけだった。
そんなこともあるので、アタシは対人戦にもかかわらず、不定期に聖なる雨を降らせるのだった。それは味方の騎士にも精神向上効果があるようで、指揮が高く保たれるという副産物ももたらしている。
始まってから二時間ほどが経っただろうか。森の中では甲高い掛け声とともに剣と木刀がぶつかる音が響き続けていた。
『カキッ、ポクッ! コココココツッ、ガキン』
「やあ、とう、てやあああ! はあ! 次っ!」
ついつい道場でのけいこが頭をよぎってしまう。ここ最近は立ち合いの機会がわずかなのでとにかく実践に飢えていた。だから今回の事件は願ったりなのだ。
たまに剣先がかすってしまうことはあったが大きな問題はない。今のところは順調に相手を減らしていくことに成功している。
それでも偽聖女を強固に守っている、有象無象ではない精鋭らしい戦士が残っているのだ。その構成はまるでこちらの聖騎士隊を写し取ったようで不気味ささえ感じてしまうがしょせん模倣だ。
その他大勢が片付くころ、ようやく剣を抜いたやつらは、疲労困憊である聖騎士隊の面々へと襲い掛かった。
一見すると不利、だがこれはチャンスでもある。なんといってもこちら側にはやつらが考えてもいなかっただろう聖女剣士がいるのだから。
アタシは中央での戦闘が始まった瞬間、一気に飛び出し偽聖女へと駆け寄った。王国で用意した衣装とはだいぶ違うが修道服のようではある。ただこんなあからさまに宗教色のある服装は珍しい。
もしかしたらこやつらは他国の人間!? そう考えているのはアタシだけじゃなくマルス隊長も同じだった。
「貴様ら、いったいどの国のものだ。今回の件、エターナル王国を混乱させるための策謀であろうに!」
「さあね、聞かれて話すくらいならこんなところにいねえさ。どうしても知りたいなら力づくで来るんだな。それができたら話してやってもいいぜ?」
どうやらあの返事をした戦士がボスなのだろう。マルス隊長との一騎打ちになっている。他も大体は一対一、そしてそこからあぶれているのは二人だけだ。
「さて、偽聖女さん? ゆっくりと話を聞かせてもらうわよ」
返事はないがそんなことはどうでもいい。アタシは木刀を片手に一気に距離を詰める。相手は丸腰だけど何か隠し持っているかもしれないので油断は禁物!
しかし――
「なっ、なんで無抵抗なの!?」
いくら木刀とは言え直撃すればけがでは済まないかもしれない。それなのに偽聖女はただ突っ立ったままでアタシの剣のまともに受けようとしていた。
もちろん無抵抗な相手を攻撃することなんてできないアタシは寸止めした。だがそれでもまだ動かない。まるで催眠術にでもかかっているようだ。
結局は屈服させるというよりは保護するように縛り上げ、ほかのやつらと一緒に並んで座らせた。
「なあ本物の聖女サンよ。その女は精神が壊れててまともに動くことも考えることもできねえんだ。だからウチのボスが連れ歩いて役立たせてやってたってこった」
「精神が―― 何かひどい目にでもあったの? それともあなたたちに壊されたのかしらね」
木刀を握る手が今まで以上に強張っていく。
「俺たちはあぶれてしまって厄介者になってたから連れてきてやっただけさ。魔物に襲われてボロボロになった村からな」
「もしかしてあなたたち全員――?」
「言い訳するつもりはねえが、もともとは被害者と言えるだろう。だが苦労して復興する道より楽してその日暮らしするほうを選んだんだ、だから罪人であることは間違いねえさ。はやく首をはねちまってくれ」
「アタシにそんな権限はないわ。全ては王都へ連行されて裁かれるでしょう。でもその女性は情状酌量の余地ありと言うことで報告しておくわ」
「かたじけねえ……」
アタシが名もなき賊と話をしている間に決着はつき、マルスがやつらのボスを引きずってきたところで全員が安堵のため息をついた。




