19.サヨナラ異世界
次の被害者を出す前、無事に偽聖女事件はカタが付いた。とはいっても彼らも一応犠牲者のがわだったことが気になっていた。
事件自体は擁護すべきところはないけど、そもそもなんでそうなったかという部分である。それは腐敗地域の出現と魔物討伐が仕切れていないことに起因する。
もちろんそれ自体は誰のせいでもないし、ましてアタシのせいではない。でも関係してしまったからにはこれから何とかしたいとの気持ちは大きい。
いったい腐敗地域や聖女と言うのは何なんだろう。どちらも普通に暮らして幾分には必要があるとは思えない。魔物にしたって同じことだ。
ここは日本でも地球でもないからいろいろと自然の摂理が違うことがある。その中でも魔物は異質すぎる。猛獣なんてくくりでは到底語れない。
自然界に不要なものはないなんて言う考えもあると思うが、一部の凶悪なウイルスや菌類と同じで、共謀すぎる動植物の存在意義がホントわからなすぎる。
地球だってそうなのに、こっちの世界ではさらに魔物だ。倒すと霧散して消えてしまったり、聖なる加護によって浄化されてしまったりするところを見ると単純に動物とも思えない。
つまりなんらかの思念体的なもの? 幽霊みたいなものに分類されるのだろうか。そもそも形はあっても死体がないのだから、腐敗地域からあふれ出てくるあの黒いもやもや自体が魔物なんだろう。
まああれこれ考えていてもなにも解決しないのだけは確か。アタシにできるのは浄化することだけだし、騎士たちにできるのは切り刻んで消滅させることだけだ。
偽聖女事件があまりに大ごとだったのでその次の工程を忘れそうになっていたが、本来の目的は腐敗地域の浄化だった。
アタシたちは騎士団の到着を待って偽聖女集団を引き渡し目的地へ向かった。その後はいつも通りに魔物と戦い地域を浄化して完了である。
これでフクラ村とバーババ村はしばらく大丈夫だろう。こちら方面だと次の腐敗地域までだいぶ遠いらしい。つまり人里近い場所にはないということだ。
それにしてもあらゆる場所が汚染されているのは困りものである。なんといっても聖女は一人しかいないから全国一斉に対処できない。
大本となる腐敗についてはきっとドーセリアン達みたいな長老が研究してるのだろう。協力できるならするつもりはあるが、浄化以外にできることがあるとは思えないけれど。
こうしてフクラ村とバーババ村の間にある腐敗地域も浄化が完了した。今回はこれで一段落かもしれないので、回復しつつある物流に期待しつつ王都観光でもしよう。
なんといっても旅の途中で赤い月の日、つまり皆既日食は過ぎてしまった。と言うことは帰れるようになるまでまだたっぷり二十日近くある。
それに観光でもしないことには騎士たちに嫌われてしまいそうなのだ。
「次っ! はああっ、たあ! 甘い! 次っ!」
「お願いします!」
練習場に木剣の音が響く。もちろんアタシは愛用の木刀を使っている。モモはサーベル型の木剣を作ってもらっており、それが主に女性騎士の間ではやり始めている。
偽聖女集団との戦いもあって、アタシの実力を疑う者はもういない。とはいっても相手がスローモーションになるほど早く動けるインチキ付きだけど。
そんなことはつゆ知らず、異世界からやってきた聖女が信じられないほどの剣士であるという噂はもうだいぶ広まってしまっていた。ここまで来たら隠し通せないしごまかすこともできない。
なのでもう開き直って騎士団や警備団への稽古をつけることにした。なんといっても魔物が街を襲わないわけじゃないということがわかったのだから、自衛のための訓練はしておいたほうがいい。
今回は人為的に起こされた事件だったけど、いつ何時自然災害として発生するかわからない。そうでなくても過酷な世界だ。
汚染地域のことが無かったらもっと楽に楽しく暮らせる、そんな世界になってもらいたい。だってみんな気のいい人たちなんだもの。
◇◇◇
「ではハルカ様、行ってらっしゃいませ。またのご帰還をお待ちしております」
「ハルカ様のお部屋はずっとそのままですからね。次にお世話できる日を心待ちにしています」
モモやアルマは今生の別れと言わんばかりに情けない顔をしているが、きっとドーセリアンが二十日ピッタリで呼び出すことだろう。
今回は四十日もこちらにいたので情の湧き方が強い気がする。二人の泣き顔を見るとアタシまで寂しくなってしまうのが困りものだ。
「それじゃいったん帰ってくるわね。ほらほら二人ともそんな顔しないで。次はまた二十日後に会いましょ。アタシも楽しみにしてるからさ」
「絶対ですよ? ハルカ様がいらっしゃらないとお茶を淹れるお相手もいらっしゃらなくてつまらないんですから。お菓子だってまたいっぱい用意しますからね!」
「ハルカ様、たった二十日の間ですがなるべく多くの研鑽を積み、少しでも追いつけるよう精進いたします。どうかそれまでの間ご心配無きよう」
「うんうん、二人ともありがとう。もちろんマルスや隊のみんなも元気でね!」
「ハルカ様、再びいらっしゃる時までに次の目的地を検討しておきます。できれば物流の影響をあまり受けていないところがよろしいでしょうね」
「そうね、観光できるならそれに越したことは無いわ! あっ、ドーセリアン? あなたのお別れも少しはさみしいわよ? でもきっとすぐ呼び出すんでしょう? 待ってるわね」
「これは聖女様よりもったいないお言葉を賜り、ありがとう存じます。次はまた二十日後にお会いいたしましょう」
「それじゃそろそろかな。月が赤く染まり始めて来たわ」
「左様でございますな。それではお送りいたしましょう」
辺りはいつものように真っ白になって行き、次に見えてきたのは自分の部屋だった。念のためスマホを確認すると出発時と同じ日次だったのでホッとする。ここで日数が過ぎていたら大ごとなのだ。
そんなご都合展開に苦笑しつつアタシは床に就く。次はいったいどんな体験ができるのか、そんな楽しみを抱えてることに驚きながら眠りにつくのだ。
まったく人生と言うのはどこで何が起こるかわからないもの、そんなことを頭に馬部ながら――




