16.新たなる力
騎士団とのつなぎ役で街へ残ることになったサンカーはだいぶ不満そうだったが、隊長命令と言うことで耐えてくれた。
その分、魔物討伐と腐敗地域浄化へ向かうのは一人少なくなっている。だがアタシは一つの解決策を考えついていた。
「ハルカ様、まもなく到着しますね。本当に私でもうまくできるでしょうか」
「大丈夫よ、モモやタクリームのつかう水の加護とはきっと相性がいいと思っているの。ブッツケ本番だけどアタシを信じてみて? もしダメでもいつも通りなだけだし心配いらないわよ」
「そ、そうですよね。いつもと同じ―― いつもと同じ……」
モモはだいぶ不安そうにしているがきっとうまくいく。根拠はないけどアタシは確信していた。なんだかようやく聖女の力に目覚めた気がしているのだ。
あたりが大分暗くなり遠目には腐敗した沼が見えてきた。オオカミとヤマネコの魔物が出てきたしそろそろいいだろう。
「抜刀!」
マルスの掛け声を合図に馬車が止まる。それを受けてアタシはすぐに扉を開けて飛び出しタクリームへと向かう。後ろからモモがついてきて三人で構えを取った。
「聖なる力よお願い。私たちに力を貸して! 剣に祝福あれ!」
アタシは願いを口にしてから両手を頭上へと掲げた。するとさっきと同じように光の粒子が頭上からばらまかれたように降り注ぐ。
ほぼ同時に、モモとタクリームは自らの加護を解放した。彼女たちの加護は水であるため刀身に薄い水の膜ができるのだが、そこへ聖なる加護の光が吸い込まれていった。
こうして現れた擬似的な聖剣の力は魔物を軽々と一刀両断していく。あっという間に数を減らしていき露払いには十分だ。
これで集中できる環境になったため、アタシはこれまでのように心の中で願うだけではなく、言葉に出すことを選ぶ。
「聖なる加護の光よ。この場へと現れ力をお貸しください。腐敗を浄化せよ! 降り注げ!」
セリフはなんとなく頭に浮かんだだけで決まり文句と言うわけではない。それでも心の中に湧き出る願望と目の前に出てきてほしい状態を思い浮かべながら叫んだ。
するとやはり先ほどと同じように光の雨が降り注ぎ始める。もちろん出どこはアタシの手のひらである。
汚染された沼地へと降り注ぐ粒子はどんどんと腐敗を浄化していく。ついでに魔物もあっという間に弱体化していった。
沼地のそばにいた魔物は、聖なる加護をまとわせた木刀でアタシがあっさりと切り捨てていたのでもう残り少なである。
やがて完全に腐敗が浄化され、沼だったものはただの水たまりへと戻っていく。いったいどういう仕組みでこうなるのか全く分かっていないらしいが、何もないところに腐敗した泉がわき、魔物の発生が始まるようだ。
もしかしたら自然が行っているなんらかの防衛活動かもしれないが、人類にとって害になるのであれば対処するしかなく、解明は後回しにされているのが実情と聞かされた。
なんにせよ夜にはナライドの陣へと帰還し、次はフクラ村の先にある腐敗地域を目指して明日の朝に出発することとなる。
遅れて到着する騎士団はナライドの城壁修復を頑張ってもらうとして、アタシたちは新たに見つけた方法で浄化を進めるのだ。
広範囲に光を降らせることで魔物の討伐と腐敗した沼の浄化ができるのだから人数は少なくても何とかなるだろう。それにまだ切り札的なアタシの戦闘参加も残っている。
自分で切り札なんて言うのは恥ずかしいけれど、今はそんなことを言っていられない。第一の目的は地域の浄化だが、同じくらい大切なのが偽聖女を止めることなのだから。
この行動に早すぎることなんて何もない。とにかく次の被害者が出る前に何とかしないといけない。せめて詐欺だけならマシだったけど、村や街へ魔物を誘導している可能性を考えるとその対処は一刻を争う。
場合によっては腐敗浄化よりも優先になるかもしれない。その時はまさかの対人戦闘が待っているかもしれず、アタシは緊張を通り越してなにも感じなくなっていた。
「よろしいですか、ハルカ様。万一偽聖女集団のと戦闘になったとしても参加してはいけません。これは聖騎士隊隊長としての命令です。どうか絶対に」
「でもどうしてそんなに念を押すの? アタシは別に戦闘したいわけじゃないんだからダメと言われたらやらないわ。万一があったとしても自衛くらいだし、馬車の中まで入ってくることが無ければ大丈夫よ」
「これまでのお話で、ハルカ様がやってきたのはとても平和な世界だと認識しております」
「まあそうね。みんなボケてしまってると言えるくらいには平和だわ」
「それなのに血なまぐさい同胞殺しを味わっていいはずがありません。異世界からやってきたと言っても同じ人間なのです。一度でも人を殺めてしまったらもう元にはもどれないのですから」
「それって―――― マルスは経験があるってこと―― なのね?」
「もちろん敵対する相手ではありますが、私はこれまでに数えきれないほどの犯罪者を手に掛けてきました。中にはそこまでしなくても良かった軽微な在任も含まれます。もちろん人を殺すことを好んでしているわけでもないのです」
「それはそうだよねえ。でも騎士団って言うくらいだからみんな同じじゃないの?」
「もちろんです。だからこそハルカ様には聖女として身ぎれいのままお帰りいただきたく。我々の都合でお呼びしたにも関わらず、その手を地で染めさせてお返しすることなど許されるはずはありません」
「気遣いありがとうね。ちゃんと心へ留めておいて、身も心もきれいなままで帰ることを誓うわ」
よく知らない異世界で、アタシのことを本当に心配してくれる騎士に出会えるなんてそんなの奇跡だと思いつつ、夕食ができるのを待つのだった。




