15.怒りの産物
とにかくアタシは走った。まずは街の治療所、そして一般家庭まで全速力で走り回る。馬に乗るとかそんな考えはなくひたすら地面を蹴った。
今はもう自分の中に宿った聖なる加護の力に疑問は持っていない。それよりもけがをした人たちを助けることで頭がいっぱいなのだ。
偽聖女を名乗って金儲け、そこまででもすでに許されないがまあ勘弁してもいい。だが治療をしたと言って何もしていないことは絶対に許せない。
しかも聞いた話だと腐敗地域に現れる魔物が街までやってくることはほぼ皆無で、まれだと言えるほどでもないらしい。
理由は多々あるが、魔物自体は防衛本能で攻撃してくるだけで侵略するために存在しているわけではないから。それと腐敗による汚染の力を受け続けていなければ弱体して消えてしまうからとのことだ。
そこから導かれる疑わしき行動は一つだけ。偽聖女の集団が街を魔物に襲わせたということになる。
もちろんこれは証拠があるわけではないけど、アタシは確信めいた気持ちで話を聞いていた。もしかしたらそれも聖女の力によるものかもしれない。
だがアタシは司法でも探偵でもないわけでできることはなぎられる。今できることはとにかく治療のために街中を回ることだけだ。
「ハルカ様? 大丈夫ですか? もう街の隅々まで回れたと思いますし、そろそろひと休みいたしましょう。汗もひどいですし、馬車へ戻って汗をお拭きいたします」
「ありがとうモモ。本当に全部回ることができているならいいんだけれど、もし漏れがあったらその人たちだけが除外されたと感じてしまうでしょ? それだけは避けたいのよ」
「管理官の方も調べてくださってますから、万一漏れがあっても大丈夫ですよ。報告が入ったらまたうかがうことにいたしましょう。このままではハルカ様が倒れてしまいそうなのが心配で心配で……」
あまりに頭へ血が上っていたせいで正常な判断ができなくなっていたようだ。いつもついていてくれているモモにまで過大な心配をかけてしまった。
それにアタシは聖女の力のおかげか、全速力で走り回れるけど騎士のみんなはそうではない。はっきり言って一番疲れているのは護衛騎士たちだろう。
モモに声をかけられてようやく冷静さを取り戻したアタシは、申し訳なさすぎたと反省しつつ陣に停めてある馬車へと戻った。
聖女服を脱いで裸になると、自分の膝が赤くなっていることに気が付いた。しゃがんで治療することを繰り返し過ぎてアザになる一歩手前と言ったところだ。
「モモ? 本当にごめんね、心配かけ過ぎたのもそうだし、みんなのことも全然考えてなくって…… こんな風に自分の状態すらわからないなんて情けないよ」
「いいえ、ハルカ様に悪いところなんて一切ございません。許せないのは偽聖女たちに決まっております。絶対に捕えて厳罰に処してやりましょう!」
「このナライドに立ち寄って去ったのが五日前、次の村や街まではどのくらいあるのかわかるかしら。腐敗地域の影響があっておかしくないところへまた現れるような気がするのよね」
「可能性は高いですね。次に近い場所だと―― ここから少々距離はありますが、フクラ村とバーババ村の間にある腐敗地域でしょうか。今回、二十日間では工程がこなせませんので向かう予定にはしておりませんが……」
「いいえ、行くわよ! もうこうなったら日数なんてどうでもいいわ。アタシが聖女だから怒っているんじゃないの。困っている人たちをだましてまで金儲けをするってところにムカついてるんだからね!」
「それに火付け救護の疑いもありますしね。まったくひどい話です。よくもまあこんな鬼畜の所業を思いつくものだと怒髪天を突く思いです」
まさにそのとおりである。鬼畜と言うのはこういうやつらのことを指すのだろう。絶対に懲らしめてやるとの想い、果たして現実にぶつけることができるのか?
どこへ行ってしまったのかは今のところ分からない。だが同じことをやるかもしれないと考えれば行先は絞られるはず。
「マルス隊長! アタシは偽聖女を絶対にゆるせない。だから今度の浄化が終わったらすぐに次の場所へ向かいましょう。フクラとバーババの中間あたりにも腐敗地域があると聞いたわ」
「ハルカ様の見立てでは偽聖女の次の目的地だと? それであればナライドの浄化を進めているうちに騎士団から斥候を派遣させましょう。そのほうが時間が節約できます」
「そうね! さすが隊長だわ。アタシの素人考えも否定しないしちゃんと理解もしてくれる。頼もしい限りね」
「我々もいますのでお忘れなく? まあ隊長にはかないませんけどね」
「もちろんサンカー達のことも頼りにしてるわ。いつも頑張ってくれててありがたいわ。みんなに祝福が訪れますようにー」
アタシはホンの軽い気持ちで言ってみただけだ。アニメとかで聞くような定番っぽい感じに。
すると――
「な、なんだこれは!?」
「聖なる―― 加護の可視化……?」
突然どこからともなく現れた光の粒によって辺りが光に包まれる。そしてその出どこはどこからともなくではなく、アタシの両手からだった。
「もしかしてみんな力が湧いて来たりするの!?」
「いえ、特には感じません。ですがなんとなく清らかな気持ちになっていくような気がします。それに―― 鎧がきれいになっていきます。これはまごうことなき浄化の力!」
「そっか、これが本当のつかい方ってわけね。それにまだ十分力が残っててみなぎってるわ。少し予定より遅くなったけどさっそく出発しましょう!」
「ですがこの時間からだと帰還が夜になってしまいますよ? 半日走り続けてさすがにお疲れなのでは?」
「今言ったばかりだけどとにかく力が有り余って仕方ないのよ。それに馬車の中で少しは休めるしね。全く問題なし、大丈夫だから早く終わらせたいの」
「わかりました。確かに騎士団の到着を待っていては怪しげな偽聖女たちを取り逃がす確率が上がるばかり。ハルカ様にはご負担をおかけしますがよろしくお願いいたします」
本当は騎士たちのほうがつかれているだろうに。申し訳ないとは思いつつもここでのんびり待っていられるほどアタシは気が長くないのだ。
こうして私たちは昼休憩もほどほどに、ナライドを出て腐敗地域へと向かった。




