14.さらなる遠征先で
アプナド村での滞在は二日間、近隣の浄化も終わって一段落だ。例の親子も元気になってホッとした。そんな風に満足な状態で次の目的地へと向かうことになった。
「ハルカ様、次はナライドの街へ行き、同様に陣を組んだ後に近隣の腐敗地域へ参ります。ナライドまではたっぷり三日ほど、そこから腐敗地域までが半日の日程となりますがなにか気になることはありますか?」
「ナライドの街がどういうところなのかを事前に知っておきたいくらいね。王都のように活気のない状態になってしまっているなら心構えをしておきたいの」
「どうなのでしょうか。もともとは活気のある街でしたが、現在は交通網が一部分断されておりますので王都のような状態が予想されます」
「現在はナライドから王都への便がほとんど入ってこないので情報も不足しております。ナライドへは、その先にあるいくつかの村や街からの荷が入ってきていないようでございます」
「ではやっぱり状況は芳しくないのでしょうね…… それを変えられるほどの成果を上げられるといいのだけれど……」
「即効性はないにせよ、通行障害が解消されることで徐々に戻っていくでしょう。今回のアプナド村もナライドからの便に頼っておりますし、またもとに戻るはずです」
「そうよね、すぐじゃなくても戻っていくならアタシたちのやっていることは無駄じゃないわよね! よしっ、やる気出てきたあ!」
と言っては見たものの、実際にはあまりテンションが上がっていなかった。ここまで二つの村に近い腐敗地域を浄化したのだが、それが村人たちなどの役に立っている認識が持てていないからだ。
ようは今自分が何をしているのかがイマイチ可視化されていないことが原因と言える。どんなに高尚な目標を掲げていても、その成果が見えてこないとやる気も削がれてしまうのは仕方ない。
聖女だなんて持ち上げられていてもアタシはしょせんまだ高校生で子供なのだ。ただしこちらの世界では十五歳でもう大人扱いになるのだけれど。
このようにやや複雑な心境のままで次の目的地へと向かった。
予定通り道のりは順調で途中で魔物に襲われることもなく三日目を迎えた。まもなく街の城壁が見えてくるはずらしい。だが見えてきたのはみすぼらしい木造のやぐらだった。
「これは―― 襲撃を受けて壊れてしまっているのだろうか。城壁が崩れてほとんど残ってはいないではないか。いったいなぜこんなことに……」
「この街にも村長のように町長? みたいなのが居るんですよね? こんなひどい状態なら王城への報告が入っているんじゃないですか?」
「どうだろう、少なくとも私は聞かされていないし、ドーセリアン様もなにもおっしゃっていなかった。街の運営に関しては領地を管理している貴族と、その貴族が任免した管理官がいるのだが。とりあえずまずは面会を申し込もう」
崩れてしまっている瓦礫の城壁と、その跡地へ申し訳程度に建造された木造のやぐら。その根元には門番がいて、一応出入りのチェックをしているようだ。
「これは騎士様、ようやくナライドを救ってくださることになったのでしょうか」
「いや、われわれは騎士団ではなく聖騎士隊という別働隊で小規模なものだ。この惨状はいったいどういうことなのか説明してもらえるだろうか。できれば貴族と管理官への面会も求めたいのだ」
「現在はこちらを治めているテヌーキス伯爵は王都から戻られておりません。管理官はおりますが…… ここだけの話、管理官も指をくわえて見ているだけで具体的にはなにも……」
「なんだと!? この状態を放置しておいて自分は王都にいるだと? 取り急ぎ管理官を呼んでもらいたい。詳しく話を聞いてみないことには始まらない」
「かしこまりました。詰め所でお待ちくださいませ」
案内された詰め所は、野ざらしになったベンチが置いてあるだけの一角だった。崩れた土台を見る限り、ここに詰め所があったことは間違いなさそうだが、今は見る影もない。
「ねえマルス隊長? のこナライド、なにかおかしいですよね? 城壁が壊れているのにそのままなのもそうだし、本来管理すべき貴族が戻ってこないなんてありえますか!?」
「たとえば領地の惨状を報告するために王都へ出向いたばかりというならまだしも。そんな話は聞こえてきておりません。何かがおかしいのは間違いないでしょう」
隊長とそんな話をしていると、まもなく管理官がやってきた。
「私が街の管理を任されている者です。ですが予算が与えられていないので、崩壊している箇所を一覧へ記すことくらいしかできません。私自身、給金がしばらく出ておりませんので食うにも困る状態で……」
「一体何が起きておるのだ!? このテヌーキス伯爵はいつからいないのだ?」
「伯爵さまが王都へ向かってからおよそひと月になるでしょうか。この惨状についてですが、二か月前から始まった連続魔物襲撃で城壁が壊され修復作業中も進みません。そのため生き残った職人たちまでも逃げ出してしまいました。街へ残っている者たちは疲弊しており日銭と食料を求めて狩りへ出る始末でございます」
「それで領主である伯爵は王都へ嘆願に行ったのだな? そしてまだ戻ってきていないと。うーむ、どうすべきだろう」
「誰か王都へ戻って確認してみる? それとも騎士団が到着するのを待ったほうがいいかしら。まもなく到着予定なんでしょ?」
「はい、一両日中にはやってくるかと思われます。だがこのような状況だと街の協力どころか逆に騎士団から人を出して後始末を手伝うようになるかもしれません……」
「これまでは魔物が村まで来ていなかったから考えていなかったけれど、城壁を壊すほどの魔物がやってくることもあるということなのね…… アタシ、けが人の治療とかで役立てるなら何かしたいわ!」
「あのう、騎士様? こちらの女性はどちら様でしょうか。今回いらしたのは騎士団ではないのですよね?」
「これは説明が遅れたが、別行動だったので騎士団に先行して参った聖女様と聖騎士隊である。騎士団の別部隊だと思ってくれればよい」
「ぎへぇ!? 聖女様!?」
「ん? 聖女様がいらっしゃるとなにか問題でも?」
「いいえ、ついこの間やってきた一行が聖女様だと言って街の病院へ慰問にいらしたのです。それでお布施を求められたのでほとんどの者は払えず治療していただけませんでした」
「なんだと!? それは真っ赤な偽物だ! 騎士団とともに行動するものたちが街の民から金をとるはずが無かろうに! それで金を払ったものたちは治療してもらえたのか?」
「はあ一応は…… しかし数日で良くなると言われそれっきりです……」
アタシはこの話を横で聞いていて、はらわたが煮えくり返るというのはこういうことなのかと拳を握りしめていた。




