12.アプナド村での出来事
戦いの前につかの間の休息と考えていた王都散策が空振りに終わったアタシは、考えていた以上に自分の行動に国家の行く末がかかっていることを知った。
かといって一方的に呼ばれたわけなので責任を持つ必要はないのだろう。でも二度目は呼んでもいいと言ったくらいだから自分では最後まで見届ける気持ちがあるような気がしている。
かといって一人でなんでもできるわけで無し、連れて行ってもらった先で頑張ってみるしかない。しかもそれは手探りだったりするわけだ。
だいたい、心の中で浄化浄化と念じているだけで何とかなった前回がおかしいような気もしている。そんな程度で何とかなるならば、それは問題が大したことないのか、アタシの力が強大すぎるかのどちらかくらいしか思い浮かばない。
「マルス隊長? 思うんだけど、アタシが念じるだけで腐敗地域が浄化できるなんておかしくないかしら? 自分で何をしているのかもわかってないんだけど?」
「そう言われても私たちは聖女様の力で何とかなるという程度の知識しかありませんからね。正直申しあげて相談されても回答は難しいです」
「過去に同じようなことがあって聖女召喚をやったわけでしょ? だから今回も同じことができたわけだろうし」
「こういってはなんですが、それは出発前にドーセリアン様に聞いておくべきことだったのではないでしょうか」
「それもそうね。でもうっかりしていて聞いてこなかったんだもの。一応聖女の力と言うのは目に見えない意志の力だとは聞いてきたからなんとなく納得はしてるけど…… それにしたって不思議なことだらけだわ」
「ハルカ様? 不思議なんて言いだしたらキリがありません。私のつかう水の加護だってなんで剣技に水や氷がまとわれるのか自分でもわからないんです。ただ念じているだけですから」
モモが横から割り込んできた。確かにその通りだし、そもそも聖女召喚なんてことができている段階で不思議とか言い出しても無駄なことだ。
さらに言えば元の世界へ戻れることだってそうだし、時間が進んでいないことも不思議中の不思議もいいところだった。
「つまりですね。世の中で自分たちに都合のいいことは深く考えないでありがたく享受していればいいってことですよ」
ユーケスの言うことには一理ある。しかもそれを知ったからと言ってもやることも起こる出来事も変わらないのだ。
「こういう時は深く考えないユーケスの意見は貴重かもしれないな。バカとも言うがありがたい時もある」
「サンカー? バカはちょっとひどいんじゃないか? せめて楽観的と言ってくれ」
どっちも似たようなものの気がするが、サンカーの意見には賛成である。
そうこうしているうちに一度目の野営地へと到着した。アプナド村まではノアゲ村よりも少し遠く、一日ではたどり着けないそうだ。
あと少しのところで一晩を明かし、明日の午前中には到着すると聞かされている。アタシとしては夜走りでもついてしまったほうが楽ではないかと言ったのだが、人間よりも馬が持たないと言われて却下された。
こういう時は車移動に慣れていて、走ってくれるい馬のことなど考えもしなかった自分に反省を促したくなった。
そして翌朝、改めて出発したアタシたちは早々にアプナド村へと到着したのであった。ここでは前回同様陣を築いておき、腐敗地域浄化のための拠点とするのだ。
「ハルカ様? 食事はどうされますか? アプナド村長が村の公会堂で食事の席を設けてくれると申し出てくれました。持ち込んだ食料もあるのでどちらでも構いませんが、接待されることに抵抗があるなら陣でとるのも一案です」
「お昼なら宴席と言うこともないだろうし、出発前の景気付けみたいにしたほうが村の人たちに元気が出るかもしれないわね。王都みたいに皆が暗くしているのはあまり見たくないもの」
「さすがです。それでは隊長に伝えてきますね」
そういってモモは駆け出して行った。入れ替わりに誰かが馬車の戸をたたく音がしてアタシは何も考えずに扉を開けた。
すると思いがけず飛び込んできた影!?
「聖女さま! お母さんを助けて! びょうきなの!」
「勝手に入っちゃってごめんなさい。でも他に頼れる人がいなくて……」
それは小さな姉妹だった。おそらく五歳かそのくらいのお姉ちゃんともっと小さな妹の二人は、モモが出ていくまで隙をうかがっていたのだろう。
「お母さんが病気になってしまっているの? アタシに何ができるのかわからないけど、ひとまず案内してもらえる? でもさっきの騎士さんが戻ってきてからね」
「うん」
「はい……」
しばらくするとモモが戻ってきて、昼食は村の公会堂でとることになったと伝えてくれた。やはり村長は大変喜んでいたようで、決起集会的な意味合いは強いようだ。
それと同時に、アタシが馬車の外に出ていたことに驚き、防犯上問題があるので必ず誰かに声をかけるか、自分が一緒の時以外は出ないようくぎを刺されてしまった。
「モモごめんね。でもこの子たちに悪気はないから怒らないで上げてくれる? 悪いのは軽はずみに開けたアタシだもの」
「いいえ、私が誰か近くにいる騎士へと伝えればよかったのです。申し訳ございませんでした」
誰も悪くないような気もするのに全員が謝っていて不思議な感覚だ。それはともかくまずは昼食前に様子を見に行くことにした。
「聖女は病気も治せるのかしら。治し方はわからないけど念じればいいのかな?」
「うーん、それは私にもわかりません。とにかく聖なる加護は万能感ありますし、きっと治せるのではないでしょうか」
姉妹の家に着くと、確かに母親が床に伏せっていた。かといって完全に寝たきりなわけでもなく、アタシがやってきたことに驚いて起き上がろうとしてしまう。
「起き上がらなくていいからそのまま寝ていてちょうだい。治せるかどうか試してみるけどダメでも怒らないでね? アタシも初めて試すの」
「ウチの子供たちが無理を言ってしまい申し訳ございません。聖女様のお手を煩わせて腐敗浄化に影響が出てしまったらなんとお詫びして良いか……」
「そうやって気にしすぎると治るものも治らなくなってしまうわ。力を抜いて横になっていてね」
なんとなく自然に対処方法がわかるような気がして母親を寝かせてみる。そのかたわらに座り、胸のあたりに手をあげながら祈る。
胸に手を置いたのは激しく急き込んでいたから肺炎や結核のような病気を疑ったからだ。
『体内の病よ、どうか消え去って。聖なる加護によってこの女性の肉体を浄化できますように』
心の中で願い祈るしかできないが、それが効くことに期待して腐敗地域の浄化と同じように力を込めてみる。
すると荒い息をしていた母親の呼吸が整っていくではないか。まったく聖女の力は万能すぎて怖いくらいだ。
ほどなくして体が軽くなったと起き上がった母親、そしてその旨に飛び込む子供たちを見て心が温かくなった。
正直言って自分の力や鉱石と言うわけでなく、勝手に与えられた聖女の聖なる加護によるもの。アタシが良いことをしたとまでは言えないだろうが、それでも十分に満足である。
それがたとえ自己満足や偽善のようなものだとしても、子供たちの明るい笑顔が見られたのだから。




