11.さびれた王都
シャッター通り、もちろんこの王都エターナルの商店にシャッターはないが、寂れた様子はまさにそんな感じだった。
「王都―― なのよね? それにしては賑わいが無くてずいぶんと廃れているように見えるんだけど……」
「実は前回のノアゲ村、そして次に行く予定のアプナド村の近くを通る幹線道路が王都へやってくる行商人や旅行者のつかう主要道路なのです」
「ということは?」
「流通の滞りや観光客の激減による打撃で今のようなさみしい街並みになってしまいました。それでも朝市場はそれなりですよ」
「日中に来ても見るものがないってわけか…… だから前回も特に案内しようって話が出てこなかったのね」
「はい、それもありますし、同時に治安も悪くなっていますので余計に……」
「騎士団や自警団による見回りや取り締まりはしていないの? 治安悪化をそのままにしておくのは本意ではないでしょ?」
「もちろん巡回しています。ですが騎士団の役目は魔物討伐や他国との紛争時の武力行使ですから。自警団だけではなかなか治安維持はしきれません」
「それならやっぱり聖女による腐敗地域の浄化活動は大々的に公表したほうがいいのかもしれないわね。はっきり言って恥ずかしいからひっそりと行動したいけど……」
「もしご容赦いただけるのであれば、やはり決起集会や盛大な送り出しにご協力いただきたく…… 王都の民たちの心に光が差すことに繋がるでしょうから」
「とりあえずもう一度浄化へ出てみて自信が持てたら考える、でもいいかな? アタシ自身まだ自分を信用しきれていないのよねえ」
「そこは間違いなく自信をお持ちくださっていいところだと思います。あれほど広範囲に広がっていた腐敗地域がきれいに浄化されて、ノアゲ村だけでなく近隣の村や農業地域に元の活気が戻りつつあります」
「それなら王都の活気が戻ることに期待が持てそうね。早く元の王都に戻ってもらって、改めて観光がしたいものだわ」
「はい! 数年前はそれはもう活気あふれるいい街でした。私は王都出身ですので子供のころから知っていますし、現状はさみしい限りです」
「そっか、モモは都会人なのね。騎士団や聖騎士隊の人たちは王都出身が多いの?」
「そんなことはありません。貧乏農村からの脱却を目指して騎士を目指す人たちは多いですからね。もちろん加護持ちが前提なので採用率は高いですよ」
「そっか、モモは水の加護持ちだったわよね。アタシは何を持ってることになるんだろ。聖なる加護だけちょっと毛色が違うもんねえ」
「光の加護と書いてある書物もあるようですね。私は聖なる加護と教わったのでそう認識していますが、そもそも王国内には存在しませんので今まで深く気にすることはありませんでした」
「そっかあ、まさか別の世界から聖女が来るなんて考えないもんでしょ? ちょっとだけ迷惑とか生意気とか感じたりしなかったの? 自分たちの世界を他の世界から来た馬の骨に任せるなんてけしからんみたいな?」
「馬の骨は良くわかりませんが、聖女召喚反対派の中には世界の安寧はその世界のものが行うべきとの論を唱える勢力が居ることは確かです」
「ということはドーセリアンがそっち側の勢力を抑えて主導権を握ったってことなのかしら? ただのおじいちゃんじゃないとは思ってたけどすごい人なのかも?」
「そうですね。反対勢力は主に加護の無い政治家や貴族なのです。大して長老の皆さまは空の加護持ちでそれこそ聖女召喚ができたり予言の力を持っている方もいらっしゃいますから権力的には加護持ち王族の次に強いんです」
「もしかして加護無しの王族もいて冷遇されてるとかある?」
「はい。基本的に王族出身でも貴族として分家され政治に関わっています。それだけに王妃様は加護有りのお子様を産むまで神経をすり減らすらしいともっぱらの噂だったりしますね」
「王様と王妃様にはあったけど側室もいるのかしら。第二王妃とかさ」
「いらっしゃいますね。現国王の嫡男である王子様はまだ幼いですが加護持ちと聞いております。その上に四人のご兄弟がいらっしゃるのですが、加護無しなので貴族になったみたいです」
「ひええ、王族と言うか王妃様も大変だねえ。アタシもこっちでお婿さん探したら加護持ちの子供を産めるのかも―― あっ、ちょっとまってこの会話無し無し。ドーセリアンにでも聞かれたらひどいことになりそうだから絶対に内緒ね!」
「ハルカ様はご自身の世界で特別なお立場ではないのですか? 上等なお召し物を着ていらしたし少なくとも貴族ですよねえ?」
「向こうの世界のアタシの国に貴族はいないのよ? ほかの国にはいるけどね。こっちで言うところの平民しかいないって感じかな。上から下まで全部平民で、象徴としての王様的な一族が少しだけいるけど権限は特になくて偉いわけでもないわね」
「ちょっと想像できませんが、平民でも随分といい暮らしができるような裕福なお国なのですね。少しうらやましいです」
「でも貧富の差はだいぶあって、生活に困窮してる人も多いの。アタシは親が頑張ったからそこそこ裕福だけど、友達の中には貧乏な子もいるし上の学校へ通えなかった子だっているわ」
「そう考えると王都と似たようなものなのかもしれませんね。私も子供にいい生活と教育を受けさせたいから頑張っているようなものですし!」
「モモってまさかの子持ち!? 二十一歳だっけ? まあ適齢ではあるのか」
「まだ二歳ですが加護無しなので騎士にはなれないのが残念です。でも親が商会の会計係をやっているので、そちらを継ぐことができたらと考えています」
「商会の会計なんて大変そうね。だからモモも王都の商店がさびれていることが気になるのかしら?」
「それは大いにありますね。父の仕事が減りすぎてさみしそうなのを良く見ていますし…… だから聖女様としてハルカ様が来てくれたことは国のためであったとしても個人的にすごくうれしいのです」
「それじゃもっと喜んでもらえるように頑張らないとね。今回もまた助けてもらうことになると思うけどよろしくね」
「とんでもございません。前回は危ないところを助けていただき、私のほうがお世話になりっぱなしで…… 次こそはハルカ様の木刀に出番が来ないようにしないといけません」
「持ちつ持たれつでいいわよ。アタシは木刀振るの好きだもの。役に立てるならどんなことでもしたいわ」
「ハルカ様―― こんな素晴らしい聖女様にお仕えできて、私は幸せでいっぱいです!」
あまりに大げさなモモの言い方に思わず笑みがこぼれてしまったが、自分の浄化能力に多くの人の生活がかかっていることを改めて肝に銘じた。




