10.再召喚
手元には木刀袋、そしてそこへぶら下がっているのは異世界から持ち帰ってきたペンダント――
「そりゃ確かに夜がいいって言ったのはアタシだけどさ? きっちり二十日でまた呼ばれるなんて思ってなかったわよ」
「ご足労いただき恐れ入ります。ですがこの日を逃すと次はまた二十日後になってしまいますので……」
「まあそうよね。なんとなくそうかなとは思ってたけど。なにか着る物を貸してもらえるかしら」
なんといっても王城内をパジャマでうろうろするのは抵抗がある。こんなカッコでは恥ずかしいし無礼でもあるだろう。
いくら聖女のほうが王様よりも身分が上に扱われるとはいえ、最低限の礼儀は必要だ。だが良く考えたらまだ寝ていないので着替えずに今日はこのまま眠りたい。
「部屋は以前のままにしてありますし、アルマも首を長くして待ちわびておりますゆえ、身の回りのお世話に問題はございません」
「アルマがいてくれるのはうれしいけどねえ。もう寝てるんじゃないの?」
「いいえ、すでにお部屋で待機しております。本日はもうお休みになりますか?」
「そうね、ふああああ。正直言ってもう眠いもの…… きっとベッドがアタシを呼んでるわ」
待ち構えていたドーセリアンと聖騎士隊のモモに連れられて部屋へと向かう。それで扉を開けたときに飛び込んできたのは以前と同じ風景、ではなくアルマだった。
「ハルカ様! お待ちしておりましたー! ささ、こちらへどうぞ」
「久しぶりねアルマ。またお世話になるわ」
「こちらこそまたハルカ様のお世話ができるなんて光栄です。今度はごゆっくり過ごせそうですか?」
「どうかしらねえ。ドーセリアンとも話したいことがあるんだけど、とりあえず今はゆっくり眠りたいわ。向こうの世界ではこれから寝るところだったのよ」
「左様ですよね。ドーセリアン様が儀式の前におっしゃっていました。床に就かれる時間にあわせてお呼びするのできっと今日は何もせずにお休みになられるだろうと」
「まったく。事前に示し合せておいて良かったわ。はわああ、眠い。すぐ寝ちゃっていいかしら?」
「髪の毛だけとかしておきましょう。それからごゆっくりお休みください」
そう言われてブラシをかけてもらっているうちにウトウトしてしまい、アタシはいつの間にか眠りについてしまった。
◇◇◇
翌朝、といってもそこそこ遅めの時間までぐっすり眠っていたけれど、一応午前中には目をさまし、朝から身を清めるための儀式を行った。ようは朝風呂である。
お風呂から出ると遅めの朝食をとった。メニューは日本にいるときとそう大差なく、卵料理にパンとサラダ、それにフレッシュジュースだ。
こちらの世界の果物は直接食べるにはあまり適さず、砂糖を加えてジュースで飲むのが一般的らしい。
そのかわりと言ってはなんだが、肉料理へ絞ったりするのがレモンやライムのようなものだけでない。見た目はオレンジっぽい見るからに甘そうな果物でも酸味がきついのだ。
食事は洋風と言えばそうだし、凝ったコース料理にも見える。アタシはわがままを言って全部一緒に出してもらっているが、普段はスープが出てきてからパンを食べて、それからおかずで締めるという変わった順番が習慣だった。
とりあえず食事を済ますと次は聖騎士隊との再会である。再召喚時に待ち構えていたモモはともかく、他の五人にも受け入れられるか少々不安である。
しかしそれは杞憂で、マルセリード隊長をはじめとする聖騎士隊の面々は以前と同様温かく迎えてくれてホッとした。
「ハルカ様、またおいでくださいましてありがとうございます。今回は前回挙げていた村の中からアプナド村の近隣にある腐敗地域へ参りる予定とさせていただいております」
「わかったわ。アタシに選択権はないというか地理がわからないからお任せね。その前にドーセリアンとお話しできるかしら」
「かしこまりました、呼んでまいります」
しばらく待っているとドーセリアンがやってきた。ここで戻ったときのことをはっきりさせておかないと気になって仕方がない。
「ねえドーセリアン、前回元の世界へ戻ったでしょ? そうしたらこちらへ召喚された時間へ戻ったのよ? そんなことある?」
「うーむ、わたくしたちが聖女様の世界へ飛んだこともありませんし、もちろん戻ってきたこともございません。すなわち―― わかりませぬ。申し訳ございません」
「そっか、まあそうだよね。で、それで思ったんだけど、元の時間に戻れるなら二十日で返って行ったり来たりする必要はないと思ったってわけ。今回はある程度の地域を浄化してから帰ろうかと思っているのだけどどう思う?」
「そっ、それはわたくしどもにとっては願ってもいないお話! 聖女様のご慈悲に甘えてしまってよろしいのであれば、緊急度の高い地域は浄化を行っていただきたく存じます」
「それはアプナド村以外ってことよね? アタシでなんとかできるのかしら」
「もちろんでございます。前回の結果からすると聖女様のお力はまっことすばらしき浄化の御力であることは疑いようが御座いませぬ」
「そっか、役に立てているなら良かったわ。せっかく来たんだからやきもきしたまま戻りたくなかったなんて思っちゃったのよね」
「慈悲深きお言葉に感謝いたします。それではさっそく緊急度の高い順に腐敗地域を整理いたしましょう」
その時、マルセリードが声をかけてきた。どうやら考えがあるようだ。
「それではドーセリアン様、アプナド村の先にある。ナライドの街の先にある腐敗地域はいかがでしょう。脅威度は中を超えた程度ですが街の人口も多く、交通的にも次々回の宛先として利便性が高いと具申いたします」
「そうよね、どうせなら行ったり来たりではなく一回で効率よく行けるほうがいいわよね。ちなみにこの王都は安全なのかしら?」
「王都から一番近い腐敗地域は前回のノアゲ村でしたし、その次はアプナド村でございます。ご心配にはおよびません」
「もし大きな街へ行けるなら観光を楽しむくらいの余裕があると嬉しいわね。こちらへ来ても王城の中と腐敗地域しか知らないなんてさびしすぎるもの」
「これは失礼いたしました。そもそも王都をご案内していなかったこと、ご指摘いただくまで気に留めておりませんでした。出発の準備が整うまでは王都のご案内をさせていただきましょう」
「でも聖女だからとか言って大々的で護衛ぞろぞろとかはやめてよね。聖騎士隊全員で行くのも無しだから!」
「なぜわかったのです? せっかくなのでパレードでも行おうかと考えておりました。前回のようにお忍びで参る必要はもうございませんので」
「アタシは普通の町娘みたいに楽しみたいの! 一緒に来てくれるのはモモだけで大丈夫よ。でも少しでいいからお小遣いは欲しいかも……」
「お任せください。このモモ、聖騎士隊の誇りに掛けてハルカ様をお守りいたします!」
こうして出発前の数日、王都エターナルで観光を楽しむことが許可されたアタシは、ウキウキ気分で次の日を待つのだった。




