013:首都圏サポーター顔合わせ(2)
◇2041年5月@東京 <小川千花>
矢吹天音は、言わずと知れた最初に「ムシ」になった子だ。そして、今は「クイーン」として「ムシ」達を束ねる立場にある。福島県岩木市在住で、「ムシ」達の中では唯一の高校生でもある。
そんな彼女の外見は、小柄で華奢な金髪美少女といった感じ。一見すると東山紗理奈に似ているけど、天音の方が少し童顔で、優しげな顔をしている。
それに対して紗理奈は、ただ綺麗で西洋人形みたいな少女だ。それと天音の瞳は薄茶で、紗理奈は碧眼。更に三歳の年齢差がある。
天音は一人っ子だけど、紗理奈には五つ離れた弟がいる。天音は狭いアパート住まいとはいえ、割と両親に愛されて育った。
だけど紗理奈は、障害を理由に両親から放置されていた。その障害が「ムシ」になって消えた事で父親との関係は改善したが、相変わらず母親は紗理奈に見向きもしない……。
小川千花は、そんな風に二人の少女の概要を聞かされていた。教えてくれたのは早坂琴音。ただし、その彼女とて二人の少女の事を詳しく知ったのは、今年の三月だという。特に紗理奈の方は、スマホ越しだと割と話しているものの、直接に会うのは今日が初めてなのだそうだ。
壁の3Dディスプレイ上に現れた天音に向かって、最初に声を掛けたのは、関口仁志だった。
「天音ちゃん、今日は日曜なのに呼び出してゴメンね」
『全然、大丈夫ですよ。実は昨夜、那須高原のペンションに泊まったんです。真琴ちゃん、日和ちゃん、郁代ちゃん、由佳ちゃん、美優ちゃん、それと、凜華と杏樹が一緒でした』
「随分と大人数だったんだね。えーと、那須高原って事は、室井沙耶ちゃんに会いに行ったのかな?」
何だか千花の知らない子の名前が次々と出てきたけど、今は利かないでおいた。
『はい。一度は直接に会っておかなきゃって思ってて……。沙耶ちゃん、可愛い子でしたよ』
「僕には、「ムシ」の子は誰だって可愛く見えちゃうからなあ」
「関口さん。そんなこと言ったら、天音ちゃんが拗ねちゃうかもよ」
「えっ? あ、ごめん、天音ちゃん」
琴音の悪戯っぽい忠告に、慌てて関口が謝った。
『ふふっ、別に良いですよ。『ムシ』達は皆、私の大切な妹ですから。それより、私、今は凜華ちゃんの部屋にいるんです』
『関口さん、早坂さん、こんにちはー!』
その時、画面にもう一人の女の子が現れた。金髪に近いけど、天音や紗理奈や真花なんかに比べると、少しだけ茶色い。
『あのー、皆さん。私は、玉根凜華って言います。福島県郡山市の中学三年生です』
「凜華ちゃんは、来年、朝香高校を受験する予定なのよね?」
最初に琴音が話し掛けたのは、彼女も郡山の出身だからなんだろう。
『あ、はい。そのつもりで受験、頑張ります』
「なるほど。合格してUFO研に入れば、ちょっとした騒ぎになりそうだな」
「ならないわよ」
久しぶりの鵜飼優流の発言を、琴音が即座に否定した。
「だって、凜華ちゃんが『ムシ』だって事は公表しないもの。当然でしょう?」
『そうですね。私達『ムシ』に好意的でサポートしてくれる人だけにしか、『ムシ』である事は公表しません』
「鵜飼君、そういう事なんだよ。いずれは社会全体に『ムシ』の存在が明かされる事になるだろうけど、それまでは出来るだけ秘匿しておきたいんだ」
凜華の返答に、すかさず関口が補足した。
「あの、それって、『未確認飛行少女情報サイト』を主宰してる立場と矛盾するんじゃないのか? 秘匿したいんだったら、あんなサイトで情報を晒すのは止めた方が良いと思うんだが……」
「いや、それは違うな。僕がやらなくたって、誰かがやる筈だよ。僕がサイトを立ち上げた意図は最初こそ『ムシ』の情報収集だったけど、今は情報操作なんだ。まあ、どこまで出来てるかは疑問なんだけど……」
「それでも関口さんは、やらないよりはマシだと思ってるんだよね?」
「そうだよ、早坂さん。だけど、鵜飼君が言うようなデメリットの方が大きくなったら、直ぐにサイトを閉鎖するつもりだよ。たぶん、その時は別のサイトが出来てて、そっちから情報収集が出来るだろうしね。情報操作の方は、まあ、別のやり方を考えてみるさ」
関口仁志は、そうやって自信ありげに言い放った。昔の彼を知る者がいたら驚くだろうけど、今は誰もいない。強いてあげれば矢吹天音だけど、彼女は関口の不利になりそうな事は、絶対に口にしない子だった。
★★★
既にデザートの杏仁豆腐を全員が食べ終わった事で、千花は今日の食事会の終了時間が気になり出した。とうに通常の昼食時間が過ぎていたからだ。
「あの、早坂さん。ここって何時まで居られるの?」
「あと三十分くらいなら、たぶん大丈夫よ。店長に『多少は遅くなっても良いよ』って言われてるから」
小川千花と早坂琴音との短い会話の後、再び関口が話し出した。
「あの、今更なんだけど、今日の食事会の目的は、早坂さんの知り合いとの顔合わせなんだ。さっき、『茶髪の子の保護者会』について少し話したけど、こっちの四人の『ムシ』達は、まだ誰も親にカミングアウトしてないだろう? その一方で、まだ彼女達は全員が中学一年生。何かあった時、相談に乗ったり助けてあげたりできるのは、今の所、ここにいるメンバーだけだと思う。つまり、僕らは、首都圏の『ムシ』達にとって、唯一のサポーター集団って訳だよ」
千花は、関口が言いたい事がすんなりと理解できた。だけど……。
「あの、そうは言われても、まだ私達だって学生なんだし、出来る事が限られるんじゃないの?」
「そうだね。小川さんが言う事はもっともだと思う。だから、『ムシ』の子の親達を巻き込むのは必須だと僕も思ってる。その為の作戦を『ムシ』の子と一緒に考えてあげるのも、僕らの役目だと思うよ」
「なるほど、その通りね」
「幸いな事に、こっちの『ムシ』の子達のご両親は、四人とも社会的な地位のある方々だよね。だから、そのうちの一人でもカミングアウトが実現して、ご両親を僕らの見方に出来れば、後は連鎖的に仲間を増やして行けると思うんだ。この後も新しい『ムシ』達は次々に現れるだろうから、福島でやってるように、『ムシ』予備軍の子の親達を事前に取り込むってのも有効だと思う。僕らが考えて行かなきゃならない事は、山積みなんじゃないかな?」
千花は、関口が言った事に素直に賛同できた。
それに、両親へのカミングアウトが最も簡単そうなのは、たぶん、私の所だ。
そう思った千花は、『今晩にでも、両親に話してみよう』と思った。
「それと、もうひとつ気になる事があるんだ。こないだ天音ちゃんと話した事なんだけど、最近、新しい『ムシ』が生まれる頻度が高くなってると思う。それに、その範囲が広がってもいるんだ」
関口の次に発言したのは、ディスプレイの中の天音だった。
『あの、私から捕捉させて頂きますと、先月、初めて宮城県でも『ムシ』の子が見付かったんです。それで、まだほかにも私達が見逃してる『ムシ』の子が、日本の何処かにいるんじゃないかと思っちゃいまして……』
そこで、珍しく立花奏音が声を上げた。
「でも、『ムシ』の子は福島を中心に徐々に他の地域に広がってる訳だから、いきなり別の所で見付かるって可能性は低いんじゃないかな?」
『そうだと良いんですけど、実際には割と有り得ると思ってます。例えば、『ムシ』の子の親が転勤族で、どっか遠くに引っ越す事だってあるじゃないですか? そういう子って割と多いですよ。私も経験しましたが、一人ぼっちの『ムシ』って相当に辛いです。私は、そういう子を早く救ってあげたいんです』
それは、千花にも充分に理解できた。自分だけ人と違う化け物のような存在だと分かった時、普通の女の子だったら、たぶん、気が変になっちゃうんじゃないだろうか?
『これは、私の勘なんですけど、静岡、名古屋、大阪といった大都市は調べてみる必要があると思います。後は、新潟とかも怪しいですね。前橋や高崎だったら、真琴ちゃんがフォローできると思うんですけど、新潟はちょっと難しいだろうし……』
次に声を上げたのは、優流だった。
「そうは言っても、どうやって探すんだい? 調べようがないんじゃないのか?」
『それなら、大丈夫です。ある程度の距離なら、『ムシ』の子同士てお互いの存在が分かるんです。だから、そこに行ければ良いんですけど、そういった機会がなかなか無くて困ってます』
「なるほど、まだ中高生だと、お金の事とか親の説得とかあって、簡単に遠くまで行けないものね」
そこで、部屋のドアがノックされて、現れた男性店員に「申し訳ありませんが、そろそろお時間なんですが……」と言われてしまった。
★★★
帰りは、早坂琴音がハイヤーを手配してくれた。小川千花だけでなく、妹の真花と、彼女の友人の紗理奈も同じ車である。
「お姉ちゃん、今日はどうだった? 私達の事、分かってくれた?」
「まあね」
真花が言った通り、今日は多くの「ムシ」に関する情報を得る事ができた。それと同時に、真花や紗理奈を含む「ムシ」達が、今後、社会的に厳しい立場に置かれる可能性があるのも理解できた。
その事に対してハッキリとした結論は出なかったけど、これから自分が取り組むべき課題が掴めたという点で、千花にとって今日の食事会は満足の行くものだったと言える。
「ねえ、お姉ちゃん。これから、私達を守ってね?」
「当然でしょう? 妹なんだから」
「私だけじゃなくて、紗理奈も澪も苺も一緒にだよ」
「あ、あの、真花ちゃん……」
「もちろん、紗理奈ちゃんや他の子達だって精一杯、守るわよ。こうして『ムシ』の子達と関わってしまった以上、放っておくなんて出来そうにないもの」
「良かった。お姉ちゃんだったら、そう言ってくれると思った」
「まあ、私に何ができるか、正直、自信が無いんだけどね」
「それでも、嬉しいです。何かあった時に相談できる人がいるだけで、凄く助かります」
「私なんて、まだ大学生の小娘なんだけど」
「いやいや、中学一年生の私からしたら、充分に大人のお姉さんですよ」
「それはそうかもね……。あ、それと、真花。お父さんとお母さんには、今日にでも話さなきゃね。うちの場合、紗理奈ちゃんの所よりは、ずっとハードルが低い筈よ」
「そうだね」
かくして、この日を境に小川千花は、早坂琴音、鵜飼優流、立花奏音の三人と共に、「ムシ」達のサポーターとしての様々な活動に取り組む事になって行くのである。
END013
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
プロローグは、ここで終わりとなります。この後、人物紹介を挟んで、いよいよ本編となります。
次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




