012:首都圏サポーター顔合わせ(1)
◇2041年5月@東京 <小川千花>
初めて東山紗理奈と会った日の翌日、小川千花は大学に着いてフランス語の教室に入ると、早坂琴音に声を掛けられた。
「真花ちゃん、昨日、小川さんにカミングアウトしたんだってね。ふふっ、紗理奈ちゃんにも会ったんでしょう?」
琴音が「ムシ」達と繋がっているのは薄々分かってはいたけど、そんなに早く情報が伝わるとは思っていなかった。しかも、妹の真花の事まで知っているのは驚きだ。
「それで、『未確認飛行少女情報サイト』の管理人の関口さんと会ってもらう件だけど、次の日曜日で良い?」
「ああ、紗理奈ちゃんが言ってた昼食会ね……。うん、大丈夫よ」
「良かった。じゃあ、場所とか後で送っとくね」
講義が終わって琴音と一緒に学食へ行くと、鵜飼優流と立花奏音に会って日曜の事を言われた。どうやら、彼ら二人も参加するらしい。
すると琴音に、「だって、彼らも呼ばないと、男子が関口さんだけになっちゃうじゃない」と言われて、千花は納得した。
その後、千花は妹の真花が「ムシ」だった事を二人にも打ち明けたのだが、何故か彼らは驚かない。どうやら優流は紗理奈から、奏音は榊原澪から、それぞれ聞いていたらしい。
「何よ。知らないのは私だけだったって事? なんか私、バカみたいじゃない」
「しょうがないだろ。千花だって、真花ちゃんから聞きたかったんじゃないのか?」
「確かに、そうかもね」
それでも、この時の千花は、次の昼食会が自分にとってのターニングポイントになるとは、まだ露ほども思っていなかった。
★★★
日曜の待ち合わせ場所は、中華料理店の個室だった。どうやら、そこは琴音の親戚が経営している店らしい。
メンバーは、東大生の関口仁志と、東都大学の優流、奏音、琴音、千花の四人、そして「ムシ」の代表として東山紗理奈と何故か千花の妹の真花がいた。
「最初は『ムシ』の子を四人とも呼ぼうかと思ったんだけど、ちょっと固い話もしたいから遠慮してもらったの」
要は、「中一の女子を四人とも呼んでしまうと、ゆっくりと話が出来なくなる」との判断らしい。その点、紗理奈ならしっかりしているし、真花は「千花の妹だから」という事のようだ。
「あ、それとね、スマホのアプリを使って、途中から矢吹天音ちゃんにも参加してもらうから、そのつもりでいてね」
琴音によると、壁の一面が3Dディスプレイになっていて、その子の映像が後で表示されるとの事だ。
やがて前菜が運ばれて来ると、主に関口に対する自己紹介が始まった。
今日のメンバーの中で、関口と会った事があるのは琴音だけ。他に紗理奈と真花は、スマホの画面越しに話をした事があるそうだ。
それで、まずは優流、奏音、千花の順で、それぞれの「ムシ」との関わり合いを説明。それから、紗理奈と真花が簡単に自己紹介をした。
最後は、関口の番だった。
「たぶん、もう聞いてるかと思いますが、僕が「未確認飛行少女情報サイト」の管理人、関口仁志です。そのサイトの前身の「福島ナゾの光情報サイト」を立ち上げたのは、三年前の十一月の事でした。その時の『ムシ』は天音ちゃん一人で、彼女の住まいが僕ん家の前のアパートにあったんです。それで、たまたま僕が夜にアパートから出入りする光の塊を見付けたって訳です」
関口が説明した内容は、千花が知らない事ばかりだった。もっとも、以前の彼女なら全く興味を示さなかった筈だが、妹が「ムシ」だと分かった今は違う。
「その後、ナゾの光がチョウの姿をしているのに気付いて、サイトの名前を『福島ムシ情報サイト』に変えたんですけど、そうしたら昆虫採集のサイトだと思われちゃったりして……。そうこうするうちに、チョウの胴体部分が女の子の形をしているって話が持ち上がったんです」
そこで話を切った関口は、何かを思い出すような表情で目の前のジャスミン茶を口に含んでから、続きを話し出した。
「そんな議論をしているうちに『ムシ』の子の数が一人ずつ増えて行って、二年前の夏の時点で六人になってました。当時は、新しい『ムシ』が見付かる度にサイト上は大騒ぎで、六人目の『モクレン』っていうか、沙良ちゃんの時なんか、僕もカメラを持って近くの砂浜で待ち構えていたりしてました。そして、七月の終わりの花火大会で、遂に僕は決定的な場面に遭遇したんです」
「失礼しまーす」
入って来たのは、杏仁豆腐をワゴンに乗せて運んで来た店員だった。
この時点で中華のコース料理はあらかた食べ終えていて、最後のデザートを残すのみとなっていたのだ。
店員が出て行った後も、関口の話は続いて行く。
「その時、僕は人が少ない倉庫街で花火を見ていて、そこに六人目の『ムシ』の沙良ちゃんと一緒に、天音ちゃんが降りて来たんです。僕の目の前で変異を解いて、お喋りしながら屋台の方へ歩いて行く二人の姿を見た時、少し恥ずかしい話なんですが、僕は天啓のようなものを感じました。それは、『僕が「ムシ」である彼女達を守るんだ』という決意です。まあ、今にしてみれば良くある思春期の思い込みなんでしょうけど……。ちょっ、ちょっと琴音さん、笑わないで下さいよ」
「いやいや、関口さんは純粋だなあって思って」
「あの、僕も自分の部屋のベランダで紗理奈ちゃんを見た時、似たような事を思いましたけど」
「ふふっ、優流くんは、単にロリコンだったって事でしょう?」
「小川さん、優流お兄ちゃんをイジメちゃダメです」
「はいはい。紗理奈ちゃんは優流くんが大好きだもんね」
「澪だって、奏音お兄さんの事が大好きですよ」
「あのね、紗理奈ちゃん。澪は、僕の妹みたいなもんだから」
「妹ねえ……。うーん、なんか、ここにいる男子三人ともロリコンに思えてきたわ」
「えっ、琴音さん、僕もですか?」
「関口さんは、天音さんとラブラブですもんねー」
杏仁豆腐を口にしたからか、何だか急に部屋の中が甘い雰囲気になってしまった。
「うーん、なんか私だけカップリングしてないんだけどー」
「何よ、真花。あんたには、この私がいるでしょうがっ!」
「お姉ちゃんかあ。私、優しいお兄ちゃんが良いなあ」
真花の言葉で不機嫌になった千花に琴音が、「大丈夫よ、小川さん。私もカップリングの対象外みたいだから」と言う。すると千花は、「私だって、ロリコン男は対象外よ」と言って、残りの杏仁豆腐を一気に頬張った。
★★★
その後も関口仁志は、自分が「ムシ」達との関わってきた過去を語り続けた。
近所のコンビニで偶然に天音と出会い、何となく友達になった事。
その後、「ムシ」達六人とその家族を含めたキャンプに関口も参加した事。その時のバーベキューの後、「ムシ」達の保護者会を設立した事。その保護者会の名称を、カモフラージュの意味で「茶髪の子の保護者会」とした事。
秋に第一回のオフ会を開催した事。その場でサイトの目的を、「『ムシ』達と友達になる事」と定めた事。
年末に猪苗代湖畔で最初のクリスマスパーティーを行った事。その時に湖畔で、「ムシ」達全員による空中演舞が行われた事。
去年になって、更に「ムシ」達の数が増える中、保護者会に「将来、確実に『ムシ』になると思われる子の保護者」を加える事にした事。
そして六月、天音が中学の修学旅行で東京に行って、紗理奈と遭遇。更に、十月に榊原澪が「ムシ」になり、今年に入ってからは、四月に吉岡苺が、今月に小川真花が「ムシ」になって、現在、首都圏には四人の「ムシ」がいる事になる。
そうやって話を続け、千花達の質問に何度も答えているうちに、彼の口調はくだけたものになっていた。
「その間、去年も八月にキャンプ、十二月にクリスマスパーティーが保護者会主催で実施されたんだけど、どちらも人数が凄く増えてて、凄く大掛かりなイベントになったんだ。それから僕の方はと言うと、十一月に第二回オフ会、そして今年の三月にも第三回オフ会をやって……」
「その三回目のオフ会で、初めて私が参加したのよね」
「そうだね。琴音さんは、正式な女性の参加者第一号でもあったよね」
「でも、第二回にも乙音ちゃんと鶴衣ちゃんが参加したじゃない」
「彼女達はバイトの店員で、飛び入りみたいなもんだったじゃないか
「まあ、そうね」
大槻乙音と阿部鶴衣は、朝香高校生徒会での琴音の後輩との事だった。
「こうしてみると、僕が『ムシ』のサイトを開設してからの二年半で、本当にいろんなことがあったよね……。と言っても、この中でそれを知ってるのは、僕だけなんだけど……」
ちょうどその時、最初の「ムシ」であり、関口以上に「ムシ」達の歴史に詳しい矢吹天音が、タイミング良く壁の3Dディスプレイ上に姿を現したのだった。
END012
当作品を読みにきて頂きまして、どうもありがとうございます。
プロローグは、次話で終了の予定です。
次話も引き続き読んで頂けましたら幸いです。
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★★★
できましたら、以下の作品も読んで頂ければ幸いです。
いずれも完結済です。
銀の翅 ~第一部:未確認飛行少女~
https://ncode.syosetu.com/n9786lf/
※当作品の第一部です。第二部からでも分かるようにしてありますが、できましたら第一部も読んで頂ければ幸いです。
ハッピーアイランドへようこそ
https://ncode.syosetu.com/n0842lg/
※東日本大震災後の原発事故に関する中学生の恋愛物です。
【本編完結】ロング・サマー・ホリディ ~戦争が身近になった世界で過ごした夏の四週間~
https://ncode.syosetu.com/n6201ht/
※今後、更に番外編を追加する予定ですが、現在は完結済にしてあります。




