第二章 2
かすかな呟きらしきものがシーランさんの口からこぼれているようだった。
だった、っていうのは、僕が確認できなかったっていうこと。
だって石灰が…。
甲板にまかれた石灰が…。
風もないのに勝手に巻き上がってるんだもの!
「なんだこれ…」
…魔法?
見る間に宙を舞う石灰が薄紫のもやに変わってゆき、
空へと漂っていく。
そして意志を持っているかのように風向きとはまるで違う方向に流れていった。
それはあまりに幻想的で、いつまでも見ていたいくらい美しかった。
ま、次の瞬間には、
「さ!行く方向は決まったね
あっちは……南南西か。よぉし!!あんたたち!準備は良いね?
面舵いっぱぁーい!!」
っていうニキータ船長の賑やかな一声で一掃されたんだけどね。
「アイ・アイ・キャプテン!」
ビシッと復唱してから、トッドさんとカスカはどこかに駆けていった。
…あれ?
「…シーランさんは、行かないんですか?」
何だかさっきの見てからだと声がかけづらいけど(正直元からかけづらいけど)、
どうしてかシーランさんは独りだけ船の舳先に残っていた。
「行きませんよ、別に。行く必要ないですし。」
「そ……そうなんですかぁ…。」
あー、話しかけるんじゃなかった…。
「貴男こそ行かないんですか?
早速動かざること山の如しですか。随分とまあ良い身分ですね。」
「いや、そうじゃなくてですね…。
あの…さっきのって……魔法ですか?」
「は?」
いきなり質問したからだろうか…。
シーランさんの表情は変わらなかったけど、それ以外はだいぶ変わった。
「魔法って…。」
「僕、何かの本で、魔法を使う資格を生まれつき持っている人がいるってのは読んだことあったんですけど、
実際に魔法を見ることなんかないんだろうな…って思ってたんです。」
「…はぁ?」
「だって、魔法使いってある意味学者みたいな物じゃないですか。
だから、僕なんかは絶対会えないんだろうなって。」
「…で?それがどうかしましたか?」
「えっと…、つまり…」
それがどうかしましたか?なんてくるとは思わなかった…。
僕は興奮を伝えたかっただけだった事に気づき、初めて見る物にはしゃいでいただけだったようだ。
いや、それだけじゃない。
大分ウジウジしてるって自分でも思う。
でも、正直に言いたくなってしまった…。
「セシルにも…見せてやりたかったんです…」
私が魔法使えたらな…。セシルが言う度に僕はそんなもの使える奴なんてほとんどいないって茶化してきた。
せめて見るだけでも良いの!!
無理無理。そういう人達はもっと王都の城下町とか都にいるんだよ。
僕らなんかには会えっこないね。
今だからすごく思う。
セシルに、あれ見せてあげたかった…。
一緒に、見たかった…。
「因みにですね。あれは魔法などではありません。」
「えっ!!」
何急にしれっと言ってんだこの人は!!
畜生!!今の感慨返せ!!
「魔法なんて私に使えるわけないでしょうが。」相変わらず腹立つくらいにクールに言われてしまった。
…と思っていたら…あれ?
なんか、違う?
「少しかじった程度ですよ。
とても魔法なんて呼べるものじゃありません。」
もしかして、シーランさん…ちょっと…笑ってる?
…のだろうか。
しばらく微動だにしなかったシーランさんは、比較的しみじみとこうおっしゃった。
「あー。面白いですね。貴男は。」「…あっ、僕に!?僕についての微笑みだったんですか今の!?」
「馬鹿で。」
「言われると思いました!」
あ、シーランさんの笑顔が引っ込んだ。
「さ、いつまで油を売ってるんです。
入団一日目にして重役気取りなんですか?」
「あっ!!すいませ…」
「カスカとトッドなら…貨物室ですね。早くお行きなさい。」
「はっ…はい!!」
さすがにまだ重役気取りにはなりえないから、
僕は走って貨物室に向かった。
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「微笑みだってさ、シーラン。」
いきなり背後から声をかけられ、
「…船長。いつからそこにいたんです?」
心底無表情にシーランは振り向いた。
「貴男こそ行かないんですか?
早速動かざること山の如しですか。随分とまあ良い身分ですね。
なーんてあんたが新人虐めてるとこからだよ。」
声真似までされて、シーランの顔がほんの少し不快そうに歪められる。
「ほとんど全部なんですね。盗み聞きなんて随分趣味が悪くなりましたね。」
「まあね。
…あんた、二人っきりの時くらい敬語やめな。
あたしゃそんなに偉くなった覚えはないよ」
「お断りです。」
「頑固だねぇ、
…ところで話を戻すけどさ。」
「何の話でした?」
「ダイの話さ。
あんたが微笑んでるってさ。」
「ああ…、
正真正銘の馬鹿者ですね、彼は。」
その言葉を聞いて、ニキータは意味ありげに微笑んだ。
「そうかねぇ…?
あたしは、アイツの言うこともあながち間違っちゃないと思うんだよ」
「私が笑える訳無いじゃないですか。」
、元から緩んでいたニキータの表情が、更に柔らかいものになる。
「あんた、変わってきてるよ」
明後日の方を向いたままシーランは話を聞き流す体をとる。
そんな様子を見て、苦笑しながら、
「カスカが入ってきたときも思った。
そして、トッドが入ってきたときも。
シーラン。あんた、変わってきてるよ、良い方にね。
あたしは安心した。」
それだけ言って、シーランの肩をバン!と叩くと、ニキータは鼻歌でも歌いそうな足取りでその場から去っていった。
逆に舳先に独り残されたシーランの、
「変われるわけないじゃないですか?この私が。」
という呟きは、誰に聞かれることなく水面へと沈んでいったのだった。
ふつうに魔法とか錬金術とか出てくるあたり、
けっこう異常な世界だったんですね!←
ちょっとシリアスな最後になってしまいました…
ので、次話はのっけからぶっ飛ばして行きたいと思います!←←
こんな作者ですが、もうなんでも思ったことや誤字脱字報告お願いします!




